クリスマスイブの出逢い
第1回ラノベ作家になろう大賞落選作品を一部改編したものです。尚、この物語はフィクションであり、実在の個人や団体とは何ら関係ございませんので、そこのところはくれぐれもよろしくお願い申し上げます。
ーーーさいたま市内のとある中学校ーーー
「おい、優馬」それは、クラスメートで親友の健の声だ。
2学期の終業式も近いある日の放課後のことだった。校門を出ようとしていた僕が振り向くと、そこには健の彼女の千里も一緒にいた。もう3年だったから引退していたが、僕も健も千里も同じ吹奏楽部の仲間で、彼らは内気な僕の数少ない友達でもあった。
「な、優馬クリスマスイブ何か予定あるか?」などと嫌みなこと聞いて来た。
「別にないけど、どうせ健たちはデートだろ?」
「もちろん一緒だよ。何て言ったって、今度のイブはうちらの1周年記念日だからね。」
「じゃ、僕はお邪魔で関係ないだろ。」
「そう言うなよ。カラオケ行くから、優馬も来いよ。楓も来るんだ。」
「大石さんが?」
「そう、優馬の憧れの大石楓だよ。クリぼっちでうじうじしてないで、おいでよ。」
「憧れって、それ随分前の話なんだけどな。どうせあんな可愛い大石さんなら、彼氏くらいはいるんじゃないか。」
「それがな、楓は今揺れてるんだ。大学生の奴に誘われてて、悩んでるんだぜ。今ならチャンスだと
思わねえ?」
「そうだよ。東京の大学生に持ってかれるくらいなら、ここは優馬に頑張って欲しいよ。」
「千里と大石さんが仲いいのは分かるけど、僕に期待されてもなあ。」
「いや、優馬しかいないと思うぜ。楓は優馬のこと割と好意的に見てるしな。」
「えー、まじで?」
「そう、それで上手くいったらさ、今度は4人で京都へ卒業旅行行こう。」
「何、それ?」
「おい、千里余計なこと言うなよ。」
「いいじゃない。どうせ上手く行ったら次の話しなきゃいけないんだし、ついでに言っちゃえば。」
「あーあ、千里のお喋りが始まった。」苦笑いする健を無視して千里が、
「うちらさ、京都へ卒業旅行計画してるんだけど、2人きりじゃいろいろ障害あって行けそうにないんだよね。それが4人だったら行けそうなんだわ。」
「2人でも、健ならしっかりしてるし、どこでも行けそうに見えるけどな。」
「旅館とかも、中学生同士のカップルじゃ泊まれないだろうし、親も2人じゃ行かせてくれない。」
「え、そんな理由。確かに僕も大石さんみたいな彼女が出来て一緒に旅行とか行けたら嬉しいけど、どうして又京都なんだよ。」春に修学旅行で行ったばかりだった。
「健がさ、京都行きたがってしょうがないんだ。何かさ、京都には不思議なパワーの噂があって、健はそれ修学旅行の時に聞いてから、ずっと興味持ってるんだよね。」
「京都の太秦ってところにその謎を明かす何かがあるらしいんだ。」
健の家はお寺で父親が住職なのだが、お寺という環境がそうさせたのか、健には少しだけ霊感があるらしい。だからか、そんな霊的なことを感じさせる噂には強い関心を持つみたいだ。
「太秦って、確か映画村とかあるところだよな。」
「金閣寺や嵐山とかも近いからいいぞ。」
「分かったよ。カラオケには行くよ。でも駄目元だからな。僕が大石さんと上手く行くとは自信ないし、京都行きまでは期待しないで欲しい。」
「あーそれでいいぜ。じゃ、24日の夕方大宮発の電車に乗るけど、電車賃は俺達が出すから。」
「え、カラオケって大宮じゃないのか?」
「新宿のカラオケ店に予約とったんだ。」
「え、どうして新宿まで行くんだ?」
「楓が、新宿なら行くって。」
ーーーそして、イブの新宿のカラオケルームーーー
「優馬も何か入れろよ。」
「そうだよ、何も遠慮なんかしなくていいんだからさ。」
「僕はいいよ。歌下手だし、盛り上がる歌唄えないし・・・」
「何言ってんだよ、下手とか関係ねえよ。歌ったもん勝ちだぜ。」
「でも、これ全部順位出るんだろ?」
「気にすんな、何とかなる。ほら、楓、優馬にナビ渡してやれよ。」元々ナビは2台あったが、1台は故障しているみたいで、1台を回して使っていた。
「そうだよ、坂下君さ全然喋ってくれないからつまらないよ。1曲歌ってテンション上げな。」そう云われるのも無理がなく、僕は楓の前で緊張しまくって、喉カラカラでほとんど喋れなかった。僕はナビを受け取ると、残っていたジュースを飲み干した。ちょうどその時次の曲のイントロが始まった。
「あたしだ。千里、マイク貸して。」楓はマイクを受け取ると、
「あ、ユーザー切り替えすんの忘れたわ。曲入れる前にユーザー切り替えてね。」と慌てて付け加えてからぎりぎりのタイミングで歌い始めた。楓は2曲目で、既に上手いことを知っていたが、この曲は十八番なのか出だしから更にめっちゃ上手かった。
「カエデのまま歌っちゃえばどうなるんだろう?」千里が悪戯っぽい顔して云うと、
「それまじ止めた方がいいぜ。楓今全国千位以内だから、優馬が歌って落ちるとおこ間違いなし。」
健の助言で、僕はユーザーがちゃんと自分になってることを確かめてから選曲し始めた。
「そりゃそうだ。レベル違い過ぎるもんね。ねえ見て、この曲1700人歌ってるのに、もう5位以内だよ。」
「やばいな。これ1位行くんじゃねえ。」
楓のぶっ飛んだ上手さに、千里と健の会話が僕にプレッシャーをかけてくる。2,30分後には、このプロ顔負けの楓の後で歌う僕の身になって欲しいもんだ。元々音痴でカラオケなんて好きじゃないけど、せっかく気遣っていつも誘ってくれる健の誘いだったから来てみたんだ。でも、緊張感が高まって行くばかり。人前で、歌なんて。
結局1位に僅かに及ばず1725人中2位だった楓とは、512人中61位の健の歌っている間も話しかけられず、予め持って来ていた水ばかりを飲んでいた。
「うちのも飲んでもいいよ。」唄い出す前にくれた千里の水までも口を付けてしまった。
「優馬、よく水飲むな。そんなに喉渇くか?」いやいや、歌の上手い奴らとカラオケ来るのがこんなに緊張するもんだとは思わなかったんだ。千里まで上手いから、ますます緊張してもらった水も飲み干してしまった。するとやっぱり、
「ごめん、ちょっとトイレ。」千里が唄い終わる頃だったので、楓を挟んで次に歌順が回って来る僕は急いでトイレに向かった。しかし、トイレは生憎部屋から遠く、しかも混んでいた。さすがにクリスマスで超満員みたいだ。女子なんか7、8人は並んでいる。少しいらいらしながらも用を済ませ、走るように部屋に急いだ。人にぶつからないように曲がり角ではわざと大周りしたが、それが災いして、ちょうどそこに人がいて、少し当たってしまった。相手は女の子で、少しよろけたみたいだった。
「ごめんなさい。」とにかく焦っていた。向こうも中学生くらいの女の子なので、頭が真っ白になった。でも、よろけた後は彼女にほとんど反応がなく、僕はその子をまじまじと見てしまった。各部屋から漏れて来る音量のせいで初めは気が付かなかったけど、その女の子は声をあげて泣いていた。しかも涙と一緒に大量の鼻水を手で押さえきれずに号泣していた。何か見てはいけない光景を見てしまったようでばつが悪かった。でも、ぶつかった手前放っても行けず、僕は咄嗟に白いハンカチを差し出していた。
「あの、これ洗ってから全然使ってないから、使って下さい。」どうしてそんなことをしたのか自分でも自分の心理が分からないままの言動だった。彼女は少し驚いたように、泣きながらこちらを見た。大人しそうな地味な感じの子。
「ありがとうございます。」震えるか細い声で言いながら、涙と鼻水にまみれた手でハンカチを受け取ると、それを半開きにして泣き顔を覆った。
「おい、優馬、何してるんだ。知り合いか?」帰りの遅い僕を呼びに来た健だった。
「いや、知らない人だけど、ちょっと。」
「もう優馬の入れた曲が始まるぞ。急げ。」
「あー。」そう返事だけして、「ほんと、ごめんなさい。」もう1度声をかけた。彼女はそのまま軽く頷いた。その時少し後ろ髪を引かれる思いがしたけど、健に急かされるままに僕はその場を離れ、部屋に戻った。
部屋に戻った時ちょうどイントロの途中で、僕は慌ただしくマイクを受け取り、慣れない歌を唄い始めた。緊張でがちがちのはずだったけど、廊下での思わぬ出来ごとと、慌ててばたばたしたせいか、意外とあがらずに唄えた。下手で、点も順位も低かったけど、それほど気にはならなかった。その後はひたすら聴く側に徹した。ただ、楓との会話は最後まで弾むことはなく、元々予定していた2時間が過ぎた。その間に楓は楓で、迷っていた何かが吹っ切れたようだった。
「じゃあ、そろそろ彼が待ってる頃だから行くね。千里たちもラブしなよ。」まず楓が、夜の街に消えた。後で聞いた話だけど、楓を誘っていた大学生の彼はカラオケ動画をきっかけに知り合った東京の学生で、楓をボーカルに迎えてバンドを組む話があるそうだ。この日は、彼への返事をする為に、彼の用事が終わって約束の時間が来るまでの間、答えを出すのに付き合わされたらしい。
「何か悪かったな、優馬。」
「もっと積極的に行けばよかったのに、もじもじし過ぎだよ。」
「まあ、そんな訳で俺達も行くわ。」
「ごめんね、優馬。今からクリスマスラブなのよ。ダーリン、坊主なのにね。」
「関係ねえよ。」
「じゃあ、気を付けて帰ってね。」
そして2人も夜の街に消えて行った。僕は、渡された帰りのお金で一人大宮へと帰路についた。一体僕って何なんだろうと思う、クリスマスイブの出来ごとだった。
お付き合い頂き、ありがとうございます。正直、全体の構成はそこそこの出来だと自負しておりますが、話の序盤にはあまり自信がありません。中盤や終盤の盛り上がりと比べると、序盤は自分でも今一だと思っています。だから、はじめに食いついて頂ける方がいらしたら嬉しいです。よろしくお願い申し上げます。<m(__)m>
追記と致しまして、連載当初は起承転結で大区分しておりましたが、後に現行の5区分に変更しております。その為、前書きなどが、区分におきまして食い違っております。<m(__)m>






