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9歳小心者。長いものにまかれる。

 ナディ。それが俺たちを救った美少女の名前だった。

 名前を聞けただけでだらしない顔をしてしまいそうな自分を引き締める。

 なるべくいい印象を与えないと。 

 

「兄上を家まで運ぶの手伝ってもらえますか?」


「私エルフだけどそれでもいいの?」


 エルフ。

 そういう人種がいると聞いたことはある。

 まだ会ったことがなかったのだが、確かにナディの耳は横に長く、ピンと張っていた。

 ゲームとかで見たのと同じだな。

 と感心しているとナディはこちらを睨みつけていた。

 

「じろじろ見ないで。見世物じゃない」


 まずい!

 気を悪くしてしまう!

 なんとか打開せねば。


「つい。君がかわいくて見とれてしまったよ」

 

 イケメンだったら言いたかった言葉シリーズその一。

 その効果はまるでなかったようでナディは奥歯をかみしめていた。

 いや、むしろ火に油をそそいだようだ。

 

「あなた、最低ね」


 彼女はそう言い放つと身をひるがえし、森の奥へ去って行った。

 こんなはずじゃなかったのに。

 イケメンじゃないからか。



 落ち込んだ俺は、いまだ目覚める気配のない兄上に八つ当たりをして気を紛らわすことにしたのだが、両ほほを叩きつづけても起きる気配がなかったため、仕方なく家まで引きずって帰った。


 

 家へ帰るとメイドのリーサからこっぴどく叱られた。

 どうやら祖父にも報告され、怒られるらしい。

 これが踏んだり蹴ったりというやつか。

 ハリコットグマから生還したことをたたえるやつはいないのか。

 とも考えたが、そもそもハリコットグマに遭遇したことを怒られているのだった。

 とにかく兄上が目覚めるまでに汚れた体を洗い、休むことにした。




 兄上が目覚めるとすぐに俺と兄上は祖父に呼び出された。 



「エルフが罠にかけたんだ」

 

 兄上はなぜ森の奥まで踏み入れたのかと聞かれるとすぐにこう言った。

 俺はてっきり兄上は正直に話すものだと思っていたから正直困惑した。

 ナディは俺たちを助けるために魔法で炎を放ち、自分を守るために盾を出した。

 

 しかし兄上に言わせると今回のことはそうではないらしい。

 兄上曰く、

 ゲッシネズミを倒すために森へ入った。

 エルフはハリコットグマを茂みに潜ませ俺たちを襲った。

 さらに後ろからエルフは俺たちに向けて炎を放った。

 エルフを倒そうとすると岩石をぶつけられ、気絶してしまった。

 ということらしい。


 ハリコットグマを倒せたのは、自分たちが炎をかわしたことでハリコットグマは倒れた。

 これも祖父が鍛えてくれたおかげだ。

 と兄上はながながと自分の功績をたたえるかのように述べた。


 その間俺は口を挟まず、兄上は岩で頭も打っていたのかと本気で疑っていた。

 

 兄上の話が終わると祖父が口を開いた。


「それならばなぜお前らは生きて帰ってきていのだ」

 

 兄上もそこは何も言えず、ちらりと俺を見た。

 その顔はまるでいたずらっ子が仲間に口裏合わせろよというときに使う顔のようだった。


 俺は命を救われた恩人を悪く言えるはずもなく。

 できれば今後も仲良くしたいほどの美少女を冤罪にすることも嫌だった。

 なので俺が前世で上司に謝るときに使っていた、必殺の

 『嘘はついてない。グレーゾーン。どう受け取るかは勝手』を発動することにした。


「エルフの少女に命を助けられました。理由はわかりません」


 これで俺の中では少女に罪をなすりつけていない。

 ナディが仕組んだとも言ってないし、全面的に助けられたとも言ってない。

 端的に述べた内容は真実。

 ただこれの欠点は結果的に話の流れを変えることができないことだ。

 このままだとナディが犯人ということになってしまうだろう。

 仕方ないじゃないか。後で兄上にしごかれるのは嫌だ。


 ともあれ今日のところは兄上の出発が明日に控えているということもあって、森の奥には入るなよと祖父から怒られただけで終わった。

 夜、俺はナディへの罪悪感からいつもより寝つきが悪かった。


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