9歳筋肉信者。魔物と出会う。
本格的に訓練するようになり、早4年。
どうしようもないくらいに寒さが身にしみる季節がまたしてもやってきた。
俺は9歳になっていた。
アリウッド王国の冬はとてもコートだけで防ぎきれるようなものではない。
そのため冬の間人々はあまり外へ出ず、暖炉に火をつけ温かいスープを飲んで暮らす。
特に冬のまだ日も昇らない朝。吐いた息さえも凍りつきそうなほどの冷気が街を覆っている。
それでも俺達は日課となっている訓練をただこなしていた。
そう、いつも通りパンツ一枚で。
最初こそこの極寒の中パンツ一枚などばかげていると、そう思っていた。
しかし体を動かすとむしろ服は邪魔になるのだ。
体中から蒸気を吹き出しながら訓練をすると自分が強くなっている気もわいてくる。
まさに一石二鳥というやつだ。
早朝から始めた訓練も日が昇り、街には人々の生活音が聞こえるようになった。
「グラタン、訓練はここまでにしよう」
ファビアン兄上が用意された大量の丸太をすべて薪に変えたところで声をかけてきた。
俺は丸太に向かって斧を振り下ろしていた。同じように開始していたはずなのに薪にできた量が違いすぎる。
俺が3本の丸太を割り切るうちにファビアン兄上は10本もの丸太を薪にしていた。
たとえ俺がファビアン兄上と同じ年齢になったとしてもこうなれるとは全く思わない。
しかし筋肉こそがすべてなのだ。鍛えれば俺もああなれるはずのだ。
「はい、ファビアン兄上」
「この冬が終われば俺も準騎士学校へ行くことになる」
「さみしくなります」
「そう言うな。お前も3年したら同じ道を歩む」
騎士を目指す場合、12歳になれば準騎士学校に通う。
準騎士学校で礼節や隊列の勉強もちろん槍術訓練なども行い、15歳になると披露会が行われる。
この披露会でその力、礼儀、忠節、見た目を発揮し、オークションのような形で騎士として雇用されていく。
といってもおおよそのものが親同士の交流によってどの貴族のもとへ雇われるかは決まっている。
だから披露会はその騎士の力を見せる機会というよりもそれを買う貴族が力を見せつけるといった色合いが強い。
とにかく騎士になるには準騎士学校へ通い、披露会で買われれば晴れて騎士になれるというわけだ。
一番上のアベル兄上は父上の跡を継ぐ人物としてフレルペオン国王の弟のもとへ買われた。
そこでしばらく過ごしたのち王都へ呼ばれ、近衛騎士になるだろう。
ファビアン兄上は兄が中心を守るなら、己が外敵を退けようと魔物討伐騎士<レリクス>になろうとしていた。
俺はというとやはりファビアン兄上と同じくレリクスになろうと考えていた。
騎士が魔物を倒し、住民を助ける姿を見たときに騎士になろうと決めたのだ。
レリクスは常に危険と暮らすために俸給もそれなりにもらえる。
アリウッド王国では大型の魔物が出ることが多く危険性も高い、騎士にも少なからず被害が出る。
そのため毎年多くの補充が必要となるのだ。
比較的なりやすい職業と言える。それでも住民からの支持は厚く尊敬される職業だ。
もちろんモテる。
それに代々近衛騎士を輩出している名家と呼ばれる騎士階級の家柄とはいえ三男坊として生まれた俺が受けられる恩恵など限られている。
レリクスはハイリスクではあるが目指すだけの価値はある。
ファビアン兄上は明日準騎士学校があるランツクネトへ旅立つことになっている。
そしてファビアン兄上と俺は旅立つ前の思い出づくりに魔物が徘徊している森へ行くことにしたのだ。
革製の軽い鎧と両手剣を身に着けた俺たちはまだ人気もまばらな街道を走り、門をくぐり、森へ向かった。
魔物と遭遇する危険をおかすのはこれが初めてだった。
はたして自分が強くなったのか。魔物を倒せるのか。
期待と不安が入りまじり、自然と足が早まっていた。
ファビアン兄上も同じようで目から興奮の色が隠せないでいた。
魔物がいるとはいえ1週間前にレリクスが活動していたので大型の魔物はいないだろうとたかをくくっていた。
小型のゲッシウサギが出てくるか、ランスジカが出てきたとしても兄上がすべて倒すだろう。
ゲッシウサギは丸々と太ったウサギで、その体系に似合わないすばしっこさに気を付けて動けばなんてことのない魔物である。
庶民の食用として食べられることも多く、魔物というより家畜に近い存在だ。
ただ飼おうとして檻に入れても噛み切ってしまうので家畜化されていない。
森に入るとすぐにゲッシウサギを見かけた。
どうも目の前の木をかみ切ることに夢中でこちらに気づいていない様子だった。
ファビアン兄上は俺と目を合わすと軽くうなずくとゲッシウサギに向けダッシュし近づくと右足を後方に振り上げ、そのまま右足を振りぬいた。
ゲッシウサギは驚く暇もなくサッカーボールのように飛んでいき、絶命した。
「さすが兄上」
「ウサギごときに剣は必要ないな」
やはりファビアン兄上がいれば安心だと思った。
祖父でさえ舌を巻く、その力だけで言えばもはやオークと比べてそん色ないほどになっていた。
昔はイノシシばりの脳筋野郎だとバカにしていたがそれも筋肉を鍛えればここまで頼りになる存在になるのだ。
俺は魔物を倒すという当初の目標を達成したことでファビアン兄上に帰ろうと声をかけた。
しかしファビアン兄上は魔物を圧倒したことで気が大きくなったのかどんどんと森の奥へ入っていく。
必死になり止めた。
いやな予感がしたのだ
ファビアン兄上はそれを俺がびびっていると受け止め、静止を聞かなかった。
ファビアン兄上の足は目の前に壁が現れるまで止まらなかった。
自らの身長をゆうに超える、全長3メートルはあろうかという魔物、ハリコットグマに出会うまで。
改定 7/5 貴族の家柄→代々近衛騎士を輩出している名家と呼ばれる騎士階級の家柄