5歳糞餓鬼。強さへ憧れる。
騎士になる!
そう宣言したものの、俺にできることはかなり限られていた。
俺にできることは走り込み、素振りなどのトレーニングだけである。
家事や家の手伝いなどはメイドが行い、金は父親の俸給ですべてまかなっている。
やはり王家近衛にもなるとかなり待遇がいいらしい。
おかげで宿屋へ出向いて下働きなどはしなくていい。あれはあれで街の人と交流できて楽しそうだな、という思いもあるのだが。
そもそも下働きなんかは奴隷の子がやるものらしい。
親から見ても新しく生まれた子が騎士になるために訓練するのは好ましくうつったらしく、かなりかわいがられて育てられた。しかし慣習で本格的に鍛えるのは5歳からと決まっているようで3歳から5歳まではひとりで黙々とトレーニングをしていた。
そうして5歳になると3歳上の兄とともに、祖父から鍛えられるようになった。
俺には2人の兄がおり、8歳上の兄と3歳上の兄である。
一番上の兄、アベルはもうすでに準騎士学校に通っている。筋肉バカ一家の長男としてはあるまじき筋肉量でそのくせ剣速は異常なまでに磨かれていた。しかも見た目は父と母の良いところをちょうど良く受け継いだようで精悍な顔つきの中にどこか愛嬌を見せており、社交界でも人気の的であった、俺の目下目標とする相手である。
2番目の兄、ファビアン。筋肉雑魚である。手合せをしたときは読みもなくただ目の前にある敵に向けて全力で剣を振る。ただそれだけの肉塊だった。顔も大していけていない。誇れるものはただその筋肉のみ。
その筋肉も年の割にはなかなかやるなーくらいのもので筋肉バカの総帥であるじいちゃんと比べれば屑同然である。ただ良いやつではある。筋肉バカの家系に根暗やねちっこいやつはどうも生まれないらしい。
祖父はというと、元王家近衛騎士団においてなかなかのポジションであったらしい。今はその役職を父へゆずり気ままな生活を送っている。その強さはかなりのものなのだが惜しむらくはファビアンの最終進化形態であるということ。力押し。ただそれのみで多くの魔物を屠ってきたらしい。
筋肉の祖父。技術の兄。どちらを目指すかと言われればやはりアベル兄路線だろう。
筋肉もりもりよりもスマートな体でスマートに敵を倒す!
これこそもてる男の技術って感じだ。
そう思っていた時期が私にもありました。
訓練を始めて半年がたつ頃、アベル兄が何を思って技術タイプの進化を遂げたかは分からなくなってしまった。
祖父とやりあって技術を磨こうなんて気がさらさら起きないのだ。
剣速?力で振ればいくらでも出る。
読み?その前に切ればなんてことない。
かわされる?その前に切ればなんてことない。
魔法?その前に切ればなんてことない。
相手の攻撃?その前に切ればなんてことない。
もう、力で力で力で力で力で力で力で力で力で力でねじ伏せられ俺は身に染みて分かった。
筋肉こそがすべてであると。
大切な誰かを守る力は筋肉に込められている。
筋肉こそが男のすべてであるし、アベル兄は騎士のくせに筋肉が足りないもやし糞野郎ってことだ。
もやし兄は相手から切られるかもしれない。かわそうとして失敗するかもしれない。
でも筋肉は裏切らない。たとえ切られたとしても筋肉があれば気合でなんとかなる。
そう、強さとは筋肉だったのだ。
訓練を始めて1年が経つ頃俺は筋肉の素晴らしさを理解したのだ。
毎日毎日肉を食らい、トレーニング。
祖父と打ち合い、地面に這いつくばり、悔しさに涙し、トレーニング。
ファビアン兄と水浴びをしながらお互いの筋肉自慢。
ファビアン兄の僧帽筋は素晴らしいハリなのである。内に秘められた力強さがにじみ出てくるかのようなほどの存在感。
ああ、強さを求めるだけの人生のなんと楽しいことか。
どうしてこうなった。