5: ー再会と弟子入りー
――その時。
森の奥で、乾いた衝撃音が鳴り響いた。
ドォン――!
空気が震える。 水面がざわりと波紋を広げる。
ノックスは、考えるより先に振り返っていた。
(この音……)
昨日森で聞いた、
“結果だけが存在する音”。
木立の影が揺れ、
一本、また一本と木の隙間が開く。
そこから、ぶつぶつと理屈を呟きながら歩いてくる影があった。
外套は泥だらけ。 枝に葉が引っかかっているが、気にする様子はない。
だが声は――学院への不満そのものだった。
> 「……詠唱に時間かける意味が分からん。
発動効率は理論値から七割落ちる」
足はゆっくりなのに、
言葉だけが矢のように鋭い。
> 「威力を上げるのに魔力量を増やす?
術式の再利用価値を捨てて、毎回ゼロから積む理由がどこにある」
ノックスは息を呑む。
学院で一度も聞いたことがない声だった。
講義で聞く「正解」でもない。
嘲笑でも拒絶でもない。
ただ――理屈で世界を殴っている声。
さらに、独り言が続く。
> 「効率悪すぎだろ」
ノックスの胸が震える。
(全部……僕に向けられている言葉みたいだ)
詠唱が遅いと言われ、
魔力が足りないと言われ、
威力がないと言われ続けてきた。
その価値観のすべてを、
目の前の男は“独り言で否定している”。
> 「“威力”が魔術の価値?
現象編集の方がよほど強い。
消費を減らし、発生を速め、計算を先に済ませる。
それが最適解だろうが」
理屈しかないのに、
すべてが“怒り”に聞こえる。
学院の教育に対する失望。
体系化された魔術に対する諦念。
しかしその足取りは、ただの職人だった。
誰にも理解されなくていいという歩き方。
> 「術式は“準備”じゃない。“反射”だ。
構築が終わってから戦いに入るとか、
死にたいのか?」
そのとき、大輔の足が止まった。
川原に立つノックスを見たのだ。
ぼろ服の少年。
握りしめた石。
深い隈。
世界を失ったような眼。
大輔は一瞬黙り――
ほんの少し眉を上げた。
> 「どうした少年。この世終わりみたいな顔してるぞ」
ノックスの喉が鳴る。
この人は知らない。
ノックスがどんな評価を受けてきたか。
なのに――
核心だけを言い当てた。
声は軽い。 だけど、その奥には、
“終わりを見た人間の重さ”があった。
ノックスは息を吸い込み――言葉が溢れた。
> 「弟子にしてください!」
自分でも驚くほど真っ直ぐ。
懇願ではない。
世界の選択宣言。
大輔は一瞬ノックスを見つめ――
返した言葉はやっぱり違った。
> 「……飯はあるか?」
「……え?」
条件が“飯”。
大輔は真剣だ。
> 「腹が減っては速度が出ん。」
その言い方が、学院とは完全に違った。
学院は言った。
“理解すれば撃てる”
この男は言う。
“撃つには食え”
どちらが真理に近いか、
もうノックスには分かっていた。




