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4-3: ー約束の訪問者ー

佐藤悠斗は代表作、ダンジョンチーターの主人公です。

ユートとの約束の回はダンジョンチーターに登場しています。


よかったら、そちらもご拝読いただけるとありがたいです。



ノックスは、その日も静かに机に向かっていた。


紙の上に並ぶのは、完成しきれない理論の断片。

速度の安全域。

内部式の代替構造。

身体を使わずに成立する“条件”。


どれも正しい。

どれも、前に進まない。


(……また、ここだ)


指先で紙を押さえ、視線を外す。


窓の外では、川が流れていた。

速さを変えず、迷いもなく。


――そのとき。


「……ここで、合ってるよな」


低い声がした。


ノックスは顔を上げる。


借家の前。

見慣れない青年が、一人立っていた。


落ち着いた佇まい。

旅慣れた服装。

だが、どこか――「ここに来ると決まっていた人間」の雰囲気。


「……どちら様ですか?」


ノックスが問いかけると、青年は一瞬だけ言葉に詰まった。


そして、慎重に口を開く。


「……初対面、だよな」


その確認が、妙に胸に引っかかった。


「佐藤悠斗です」


名乗りのあと、彼は続けた。


「君に――

“必ず会いに来てほしい”と頼まれた」


ノックスの思考が、止まる。


「……僕が?」


「うん。

条件付きでも、万一でもない。

はっきりと――“必ず”って」


青年は、そう言ってから、少し困ったように笑った。


「だから来た。

言われた通りに、言われた場所へ」


ノックスの胸が、静かにざわつく。


(覚えが、ない)


どんなに探っても、

この人物と話した記憶が存在しない。


「……失礼ですが」


ノックスは慎重に言葉を選ぶ。


「僕は、あなたと会った覚えがありません」


悠斗は、即座に頷いた。


「だと思う」


否定しない。

驚きもしない。


それが、逆に異常だった。


「君は、こうも言ってた」


悠斗は、懐から一枚のメモを取り出す。


古い紙。

走り書きの文字。


『もし僕が覚えていなかったら、

それは正常だ』




ノックスの呼吸が、わずかに乱れる。


(……僕の字だ)


間違いなく、自分の筆跡。


「さらに、こんな会話もした。」


『片側通行かもしれない。』




『だから説明はいらない。

君が来たという事実だけで十分だ』




ノックスは、目を閉じた。


理解が追いつかない。

だが――拒絶もできない。


(……過去の僕が、何かをした)


そして、それを覚えていない。


「……あなたは、僕といつ会ったんですか?」


悠斗は、静かに答える。


「俺の時間で言えば、

つい一か月前」


ノックスは、机の縁を握った。


「……僕の時間では?」


「数年前になるはずだ」


沈黙。


それだけで、十分だった。


(やはり……片側通信)


自分は、過去で何かを見て

そこから未来へ向けて、指示だけを残した。


記憶は残らない。

だが、行動の“痕跡”だけが世界に残る。


「……僕は、あなたに何を頼みましたか?」


悠斗は、一拍置いて答えた。


「“再スタートの条件”を持ってきてほしい、と」


ノックスの背筋が、微かに震える。


「歩けなくなっても、

思考と魔力が残っているなら――

次はどこから始めるべきか」


その問いに、ノックスは息を呑んだ。


(……僕は、まだ諦めていなかった)


自覚がなくても。

記憶がなくても。


「……答えは?」


「ある」


悠斗は、はっきり言った。


「君は、速度を“自分の中”に閉じ込めすぎた」


その言葉は、痛いほど的確だった。


「身体は端末だ。

速度は、接続だ」


ノックスの脳裏に、

聞いたことのないはずの言葉が、

なぜか自然に馴染んだ。


(……ああ)


(これを、聞きに行ったんだ)


「だから、君は壊れた。

でも――」


悠斗は、ノックスをまっすぐ見た。


「壊れたのは“身体”だけだ」


ノックスの喉が鳴る。


「再スタートは可能だよ。

前と同じやり方じゃないけど」


その瞬間。


ノックスの胸に、

ずっと探していた感覚が戻ってきた。


理由の分からない確信。

だが、間違いなく“前に進める”感覚。


(……過去の僕が、

ちゃんと布石を打っていた)


「……ありがとう」


ノックスは、静かに言った。


「会いに来てくれて」


悠斗は、少しだけ笑う。


「“必ず来い”って言われたからな」


ノックスは、車椅子の肘掛けに手を置いた。


歩けない。

だが――終わっていない。


「……もう一度、始めます」


それは、誰に聞かせるでもない言葉。


けれど確かに、

未来の自分へと繋がる宣言だった。


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