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最弱で最速の魔術師 〜学院落ちこぼれが独学魔術で規格外になるまで〜  作者: 北風
第3部 速度理論:魔術と呼ばれる日
27/40

3-4 ー継承と覚悟ー

翌朝。

森は、昨夜より静かだった。


鳥の声もない。

風も弱い。

世界が息を潜めている。


木々の中央に、丸い空間がある。

ノックスが石を投げ続けた跡。

地形そのものが、訓練の痕跡になっていた。


そこに――四人が立つ。


ラピダス・ノックス。

ルミナ・ウッド。

ルシアン・ド・レオンハルト。

アイザック・フォルティア。


三人の指先には薄い震え。

身体は覚悟の重さを知っている。


ノックスは土に膝をつき、枝先で“線”を描いた。


それは術式ではない。

魔法陣でもない。

ただ“条件”が置かれた場所。


「まず――エングレイブ」


ノックスはルミナの腕に指を滑らせた。


「痛くありません。

 “魔力の流路を変える”だけです」


触れた瞬間――

ルミナは息を飲む。


魔力が、流れる方向を変えた。

固定された“道”。

身体が強制的に“学習”する。


(なに……これ)


術式がない。

魔法陣もない。

あるのは――流路。


「次。フラッシュ・シグル」


ノックスは指先に触れた。


「これは“命令”です。

 考えるより先に発動させる」


ルミナが呟く。


「考えずに……?」


「はい。

 魔術を“思考”から“反射”に落とす」


ノックスはルミナの手を、自分の胸に向けた。


「撃っていい。

 威力は出ません」


ルミナは息を吸い――


指が動く。


ぼん。


地面が、軽く爆ぜた。


詠唱なし。

術式なし。

ただ動作が“条件”になっている。


ルミナは震えた。


「……これ、魔術じゃない」


ノックスは微笑む。


「魔術です。

 過程を捨てて、結果だけ走らせただけ」


次は――アイザック。


ノックスは彼の腕に刻む。


「風は、流れが単純です。

 “流す方向”を刻む」


アイザックが試す。


風が地面を削った。


その速度は、学院で見た“ウインド”ではない。

詠唱より――速い。


ルシアンが笑う。


「やっぱり概念なんだね。

 威力じゃなく“現象としての魔術”」


ノックスは彼を見た。


「あなたは天才です。

 だから――苦労します」


「……は?」


「努力は“積み重ね”。

 天才は“飛ぶ”。

 でもこの技術は、“歩く速さを変える”。

 だから、天才ほど理解が遅い場合があります」


ルシアンの目が光る。


「面白いね。

 努力の形式で、天才が負ける理屈か」


ノックスは笑った。


「でも――最初に理解したのはあなたです」


刻印が入る。

流路が変わる。

ルシアンも成功する。

三人の身体が“速度”を覚え始めた。


その瞬間――森が震えた。


遠くから、鐘の音。


アイザックが言う。


「結界が――破られた」


早すぎる。

昨日、先触れが来たばかりだ。


ノックスは立ち上がる。


「来ます。

 本体だ」


ルミナが叫ぶ。


「待って!一人で背負わないで!」


ノックスは振り返る。


「背負うんじゃない。

 壊しに行く」


ルシアンが息を吸う。


「シグルアクセル……使う気?」


ノックスは答えない。

それが答えだった。


アイザックが前に出る。


「ノックス。

 君の理論は、威力理論の先にある“到達点”だ」


ノックスは、静かに頷く。


「ここから先は、僕の理論です」


「荒削りで、未完成ですね」


「ええ。でも、僕の答えです」


風が止まる。


「だから――行きます」


ルミナが泣きそうな声で言う。


「死ぬんじゃ……」


ノックスは微笑む。


「死なない。

 “人間としての限界”を壊すだけです」


アイザックが言う。


「君に幸あらんことを――」


ノックスの目が揺れる。

それは、師匠の言葉。


ノックスは背を向けて歩く。


「三人とも――“僕の先”で待っています」


返事はない。

ただ、鐘が鳴る。


学院が呼んでいる。


世界が――変わる。


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