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最弱で最速の魔術師 〜学院落ちこぼれが独学魔術で規格外になるまで〜  作者: 北風
第3部 速度理論:魔術と呼ばれる日
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3-2: ー箱庭の外側ー

学院は静まり返っていた。

外の喧騒が嘘のように、会長室は静かだった。


壁には学院の紋章。

棚には整然と並ぶ魔術書。

テーブルの上の報告書が、無惨な現実を刻む。


アイザック・フォルティアは、ペンを置いた。


(結界は“破られた”のではない。

 “内側から軋み始めていた”)


誰も気づいていなかった。

本来“守るための結界”が――実験のような構造を持っていたことに。


「被害報告を」


控えていた上級生が告げる。


「教員三名重傷。

 上級生数名に中程度のダメージ。

 死者は――“まだ”出ていません」


アイザックは目を細めた。


(まだ、か)


魔族は本気ではなかった。

あれは先触れ。

観測。


「結界は持つか?」


「形だけなら……数日は」


アイザックは首を振る。


「補修しても、根本的には直らない。

 結界そのものが“違う目的”で設計されている」


沈黙。


その時、ノックもなく扉が開いた。


ルミナとルシアンが立っている。

制服は汚れ、手には包帯。


二人はアイザックを真っ直ぐ見た。


「生徒会長」


ルミナの声は、震えではなく、決意。


「学院は――このままでは壊されます」


アイザックは頷いた。


「三年間見てきた。

 この学院の正しさは、美しい。

 だが――揺れがない」


「揺れ……?」


ルシアンが問い返す。


「逸脱がない。

 異端が生まれない。

 威力理論の中で完結している」


アイザックは棚から一枚の紙を取り出した。


少し古い退学届。


――ラピダス・ノックス。


ルミナが息を呑む。


アイザックは言った。


「初級魔術すら撃てなかった。

 学院中の笑い者だった。

 だが――実技試験の記録が一つ残っている」


一行だけ、異様な記述。


『発動までの魔力速度が異常に速かった』


ルシアンは目を細めた。


「起動速度……?」


アイザックは続ける。


「威力ではなく、過程の速度。

 それは学院では価値がない。

 だから、誰も気づかなかった」


ルミナが小さく呟く。


「森で……見ました。

 詠唱なしで、世界が揺れた」


アイザックは頷いた。


「威力と詠唱速度の限界点が、魔族だ。

 その先に必要なのは――“別の答え”」


蛇口をひねるような言葉。


「速度理論だ」


二人は息を呑む。


アイザックは立ち上がった。


「私は探していた。

 威力という箱庭の外側へ行く“逸脱者”を。

 学院の中には、誰もいなかった」


目の奥で、熱が揺れる。


「だが――学院の外に、“一人だけいた”」


ラピダス・ノックス。

落ちこぼれ。

異端。


「彼は、威力の外側で魔術を考えていた。

 “過程を諦め、結果だけを走らせる”技術だ」


ルミナが言う。


「……そんなものが、本当に……?」


アイザックは首肯する。


「私は、彼の理論に感動している。

 これは、魔術を“兵器ではなく”、

 “未来を切り開く技術”へと変える可能性だ」


静寂。


アイザックは言う。


「だから――頼みたい」


二人を見据える。


「ラピダス・ノックスを、学院に連れてきてほしい」


ルミナは目を伏せ、拳を握り――息を吐いた。


「悔しいです。

 努力で頂点に立った私が、落ちこぼれに助けを求めるなんて」


その瞳に、涙の光。


「でも――学院を壊されるのはもっと嫌」


その瞬間、決意が宿った。


ルシアンが笑う。


「僕は、彼の理論に興味があった。

 “才能がない”って言われてたのに、

 理論は誰より鋭い」


二人は顔を上げる。


「行きます」


アイザックは、静かに微笑んだ。


「ありがとう」


学院の鐘が、風に揺れた。


箱庭の外側へ――

世界が動き始める。



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