「焚き火の夜」
夜の匂いは濃かった。
火の粉が散り、川が暗闇で音を立てる。
二人は焚き火を挟んで座っていた。
沈黙が続き、先に破ったのはエリオットだった。
「才能がない奴が“能力を開花させる”には道が一本しかない」
それは――ノックスが口にした言葉。
師匠が言った言葉を、そのまま反芻している。
エリオットは目を細めた。
「その道って……努力だろ?」
ノックスは首を振る。
「違う。努力は“時間”だから」
火が弾ける。
小さく、赤い花。
「時間は強い。でも、壁で止まる。全員が持ってるから」
エリオットは反射的に言う。
「でもさ。壁を越えるのが“努力”だろ?」
ノックスは少し笑う。
「才能がある人は、壁を越える。
才能がない人は、壁に潰される。そこで終わる」
エリオットは沈黙する。
努力しても潰れる人間が、この世に存在する。
その事実を、彼は知りたくなかった。
だから、問う。
「……じゃあ、どうすればいい?」
焚き火の光が、ノックスの横顔を照らす。
ノックスは空を指す。
「飛び越える。模倣と、仕組み化で」
エリオットは理解できない。
「模倣って……人のやり方を真似ること?」
「そう。
できないところから考えるのじゃなくて、“できる形を先に真似る”。
それが速度の第一歩」
エリオットは唇を噛む。
「ただのサルマネじゃないか」
ノックスは笑う。
「よく言えば“リスペクト”だ」
焚き火の影が、ゆっくりと広がる。
ノックスは続けた。
「俺の師匠が、こんな話をしていた。」
淡々と語られる物語。
二人の魔術師兄弟。
詠唱を捨てた瞬間。
“考えるより先に魔術が出る仕組み”。
それは――エリオットの常識を壊す話だった。
彼は言う。
「そんなもの、魔術じゃない」
ノックスは投げてみせる。
石が飛ぶ。
ぼん。
小さな土柱が立つだけ。
威力はない。
でも――起動は瞬間だった。
エリオットは息を呑む。
それは自分の知る魔術とは、まったく違う速度だった。




