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2-12 : ー三連の扉ー

川べりの風は冷たい。

石が散らばり、土はところどころ抉れている。


全部――ノックスが投げた跡だ。


呼吸は浅い。

胸が熱く、指先が痺れている。


しかし眼は冴えていた。


(二連は、もはや再現できる)


一回速い――それは“現象”。

二回繋がる――そこに“速度”が生まれる。


今、二連だけなら――

意識をわずかに落とせば、ほぼ確実に出る。


だからこそ、次に向かう。


(三連……ここから先が、“壁”)


ノックスは石を拾った。

刻印の微かな光――エングレイブが動いている。


魔術というより、仕組み。

魔術というより、戦術。

魔術というより――速度。


深く息を吸う。

心拍が落ちる。


一投目。


――ぼん。


身体が勝手に二つ目を掴む。

視界が狭い。

脳が静かだ。


二投目。


――ぼんッ。


成功。

二拍が一拍に重なる。


三投目。


指先が、わずかに遅い。

その瞬間、脳が“理解”してしまう。


「三投目だ」と――考えた。


――……ぼん。


遅い。

遅い。

ただの“現象”。


ノックスは歯を噛んだ。


(なぜ、“三つ目”を意識するんだ)


二つまでは意識が消せる。

しかし三つ目に入ると――

“自分が二連した”事実が脳に浮かぶ。


その一瞬で――速度は死ぬ。


師匠の声が蘇る。


> 「思考が混ざる瞬間に速度は止まる」




分かっている。

何度も聞いた。

実際そうだった。


しかし――どうすればいい?


ノックスは石を握り直した。

視界が狭くなる。

風の音が消える。


もう一度。


一投目――


――ぼん。


二投目――


――ぼんッ。


三投目――


指先が震える。

脳が「今だ」と言う。


その“言葉”が遅い。


――……ぼん。


三連は成立しない。


(“三連”になる瞬間――僕は必ず考えてしまう)


――「今、“三つ目”をしている」と。


考えた――その瞬間、速度が死ぬ。


ノックスは膝をつき、息を吐いた。


(師匠……僕はどうすればいい)


努力では届かない。

理論化しても追いつかない。


理解しようとするほど――遠ざかる。


焚き火の記憶が揺れる。

師匠の声。


> 「速度は“思考ゼロ”じゃない」




え?


ノックスの呼吸が止まった。


> 「人間は思考する生き物だ。  ゼロにはできん」




> 「だから速度は、“考える場所”を切り分ける設計なんだ」




理解できなかった言葉。


思考を消すのではなく“分離する”。


ノックスはゆっくり立ち上がった。


(考えない――は無理)


二投目までは、限界まで心拍を落として“偶然”を掴む。

しかし三投目は――“偶然の延長”では成立しない。


必要なのは――

“考えない部分”を先に作ること。


思考を捨てるのではなく、

考える場所と考えない場所を分ける。


(僕は全部で“考えない”をしようとしていた)


無理な命令。

だから矛盾が生まれた。


ノックスの指が震えた。


(考える場所を一つに絞れば、他は“反射”にできる)


それが――仕組み化。


模倣ではなく、設計。


石を並べる。

投げる位置、持ち方、力の入れ方。

全部を“固定”する。


固定すれば――

“考える必要がなくなる”。


つまり――考えない領域を作れる。


ノックスは指を見た。

昨日まで迷っていた軌道が、今は自然に決まる。


(ここを“決め”にする)


腕の角度、足の位置、視線の高さ。

ぜんぶ“先に決める”。


すると――

考えなくても、身体が勝手にその形に入る。


これが――自分の“速度設計”。


魔術ではない。

でも、魔術になるかもしれない“仕組み”。


ノックスは深く息を吸い、石を掴んだ。


(考えるのは“どこに投げるか”じゃない)


それは遅い。

速度ではない。


考えるべきは――“初めから決めておくこと”。


決めた形に身体を乗せ――

あとは、落とすだけ。


投げる。


――ぼん。


二つ目。


――ぼんッ。


三つ目。


――ぼんッ!


音が重なった。

土が跳ねる。

空気が震える。


ノックスの視界が揺れる。


(……今の)


三連。

成立した。

一瞬だけ――“三連”になった。


理由はない。

説明できない。

理論はついてこない。


“身体が先に正解を掴んだ”。


師匠の声。


> 「結果を先に作れ。   理由は後からついてくる」




ノックスは息を吐き、笑った。


(偶然じゃない……)


“偶然じゃない二連”が、

“偶然じゃない三連”の入口になった。


まだ、一度しかできない。

でも道は見えた。


(考えないための設計)


それが――師匠の言う“仕組み化”の正体。


ノックスはゆっくり座り込んだ。

息が荒い。

目が霞む。


(理解したいけど……理解すると遅い)


矛盾。

でもそれでいい。


理解は後で追いつく。


> 「速度には……“後で理解する時間”が必要なんだ」




ノックスは石を握った。

胸の奥に、熱が灯る。


三連。

それはまだ遠い。

だが、“扉の位置”がわかる。


次の課題は――“再現”。


再現できた瞬間――

速度は“現象”から“技術”に昇格する。


(技術になったら……魔術になれる)


初級魔術のように詠唱はいらない。

術式もない。

でも――結果が出る。


それが、「速度という魔術」。


ノックスは目を閉じた。


(次は……四連)


四連は“速度の連続”。

五連は“戦場に通じる”。

それができた時――

水面に走る爆ぜる点は、“形”になる。


それはきっと、魔術と呼ばれる。


いつか――。


ノックスは立ち上がった。

石を拾う。

手の震えを抑えない。

震えは、速さの痕跡だ。


風が吹く。

葉が揺れる。

川が流れ続ける。


世界は何も知らない。

何も変わらない。


ただひとり――世界の外側で。

“速度という概念”が、生まれたばかりだった。


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