プロローグ
――魔術の海と、ひとつの異端――
魔力は沈黙した海のように、世界のすべてを満たしている。
風にも、大地にも、火にも、水にも。
この世界に生まれた命は、誰もがその海に触れ、流れを掬い取り、形に変える。
それは、生まれた瞬間から与えられた“平等”。
人は言う。
> 「すべての人間は平等に魔力を持つ」と。
だが、それは残酷な嘘だった。
同じ海に立ちながら、汲める量が違う。
同じ空を見上げながら、届く高さが違う。
魔術は才能。
才能は血。
血は運命。
だから学院は教える。
> 「高度な魔術を撃てる者が優秀だ」
火力。
威力。
破壊の大きさ。
魔術式はただの器であり、魔力はただの燃料だ。
教育は、兵器を生むための設計図であり、そこに情緒はない。
強大な魔術を扱える者だけが未来を与えられ、
力を持たない者は、立つ場所すら許されない。
——少年は、その底にいた。
微弱な魔力。
術式を維持できない。
誰もが持つ海に手が届かない。
だから世界は言う。
> 「君には才能がない」
努力は無意味、才能こそ真実。
それが、この世界の“魔術”だった。
だが——その常識を嗤う人間がいた。
魔術は力ではない。
魔術は命令だ。
魔術は速度だ。
誰も理解できず、誰も信じず、誰も辿り着けなかった理論。
世界にただ一人だけ、常識を否定する男がいた。
彼は言った。
> 「魔術はプログラムだ」
理解不能な言葉。
言語でも魔術式でもない概念。
ただひとつ確かなことがある。
その男は、誰より速かった。
詠唱より速く、意思より速く、そして誰よりも強力な魔術を使った。
その速度は、少年の未来を変える。
これは、才能に捨てられた少年が、“速度”という未知の魔術に触れ、世界を追い越す物語。
威力ではなく、速さで。
才能ではなく、設計で。
焔ではなく、命令で。
これはまだ誰も知らない――
魔術の革命の始まり。




