表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
え?ギルド内で唯一【コック】を極めてる俺をクビですか?  作者: 浅見朝志


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

86/86

第86話 意外な客人

さて、たらふくビリヤニを食べたことで身動きの取れなくなったオウエル、ウサチ、マチメを部屋に寝かせると、俺はあえて多めに作ったことで余らせていたビリヤニを包むと外へと出た。

もうすでに陽はかなり傾いていて、じきに夜。

二人とも家にいてくれたらいいんだけど。



「──フェヌさんとグリークくんに、差し入れですか?」


「うおっ!?」



後ろから顔を覗かせてきたのは、シナモン。

オウエルたちと一緒に部屋にいるかと思ったのだが、どうやら宿から出る俺の気配を察知したらしい。



「まあな。ちゃんと食べてるか不安だし、せっかく美味しいビリヤニもできたことだから」


「きっと喜んでくれると思うのですよぉ! わたしもついて行ってもいいでしょうか?」


「ああ。もちろんだ」



良い食後の運動にもなるだろう。

シナモンも他の三人娘たち同様、かなりビリヤニをおかわりしてたからな。

そして俺たちはすっかり人気の失せた市場を歩いて抜けて、リデーの町郊外へと向かう。

山の麓に差し掛かった辺り、オレンジのランプがぼんやりと照らす小屋が見えた。



「あっ……ムギさん! シナモンさん!」



その小屋の手前にいて俺たちに気づいてくれたのは、グリーク少年。

どうやら水を汲んで来ていたところだったらしく、その手に桶を持っていた。



「お姉さんの具合はどうだ?」


「はいっ、おかげさまで今朝から元気ですっ!」


「それはよかった。あと今日は差し入れを持ってきたんだ」


「えっ! 本当ですかっ!? ありがとうございます!」



パァッと表情を明るくしたグリークは、小屋へと俺たちを招き入れてくれる。



「ムギさん……昨日は本当に、どうもありがとうございました」



小屋の中へと入ると、フェヌは内職なのか腕飾りのようなものを編んでいるところだった。

昨日倒れたばかりだというのに、さっそくもう仕事をしているらしい。

もうちょっと安静にしてほしいところなのだが……。



……でも、そうも言っていられないんだろう。



「いいんだ。元気になってくれたなら。今日はさ、ビリヤニを差し入れにきた。作り過ぎちゃったから、二人で食べてくれると助かる」


「ビリヤニ……!? そんな、お祝いの席の豪華なお料理を……!?」



ギョッとしたように、フェヌ。



「う、嬉しいのですが……申し訳ありません、私たち、もうお返しできるものなく……」


「え、でも俺はそんなお返しを求めて来てるわけじゃないから」


「いえ、そんなワケには!」



さて、どうしたものか。

頑なにフェヌから遠慮されてしまう。



『無償の善意なんてのはな、タダでもらう方にとっては居心地の悪いもんなんだぜ』



ダボゼはそう言っていたが、その通りなのかもしれない。

でも、



「俺はコックだからさ。腹を空かせたヤツがいるなら飯を喰わせたいし、そうしてウマいと喜んでもらえるのが好きなんだ」


「え……」


「だからまあ、ただの俺のワガママなんだ。昨日、俺の作ったカレー粥を美味そうに喰ってくれた君たちに、今日もメシを振る舞いたいっていうな」



別に、無償の善意なんて大層なものじゃないのだ、初めから。

いつだって俺は、俺がやりたいことをやっているだけ。

メシを喰ってもらいたいから、喰ってもらうのだ。

俺はフェヌの手の中にビリヤニを包んだ風呂敷を半ば無理やり押し付けると、立ち上がった。

もともと、長居をするつもりもない。



「また今度会った時に、感想を聞かせてくれ。美味しく仕上がってると思うからさ」


「あっ、えっ、ムギさんっ!?」



フェヌからの呼び止めに、しかし俺は軽く手を振って応えるとそのまま小屋を後にする。

さすがにこれでビリヤニに手をつけない、なんてことはないと思う。



「……フェヌさん、元気になってくれていてよかったですね」



帰り道。

隣を歩くシナモンが明るく口を開く。



「ビリヤニも、きっと喜んで食べてくれると思うのですよ」


「そうかな?」


「はいっ。あんなに美味しいビリヤニを食べたのはわたしも初めての経験ですからっ!」


「そりゃこれ以上ない評価だな」



俺はそう応じつつ、アレ? と思う。



「その口ぶりだと、他でもビリヤニを食べたことがあるって感じだけど……もしかして昔の記憶が戻ったりしたのか?」


「ああ、いえ、それはトンと思い出せませんですが……でもきっとそうだと思ったのです。だって、食べている最中、これ以上ないくらいに幸せでしたから」


「そうか……」


「記憶が戻らず、ご迷惑をおかけします……」


「いいさ。気長にいこう。それに、そんな風に料理を楽しめるってことは良いことだしな」


「そうなのですか?」


「ああ。だって、美味しい料理を食べて幸せだと思えるような心をシナモンに与えてくれた人がさ、シナモンのことを大切に思っていなかったハズがないと思うから」


「……!」


「だからきっと、シナモンにも確かにあったんだと思う。大切な家族というものがさ」


「……はいっ! きっとそうだと、何だかとても信じられる気がしてきたのですっ!」



満面の笑みでシナモンは答えると、大きく手を振って前へ前へと歩いていく。

時折こちらを振り返るその表情は、すっかり日が落ちて暗くなった空に輝く月よりも明るかった。

そうして宿へと帰り着くと、その前で立って俺たちを待っていたのはオウエル。



「ああムギ様! おかえりなさいませ!」


「どうしたんだ、オウエル。外に出て……」


「それが……ご客人がお越しになりまして」


「客? こんな夜に?」



いったい誰だろう、なんて思っていると。

ガラガラガラと。

宿の引き戸が開かれる。



「ああ、よかった……すれ違いになる前に会うことができて」



俺たちの姿を見てホッとしたのは見事なドレスを着こなした黒髪の褐色少女。

伝説のカリーレシピに記載されている食材集めを俺たちメシウマへと依頼したスター子爵、その姪のアニスだった。



「どうしてアニスさんがリデーに……!?」


「ええ。実はメシウマのみなさんがスター家を出立してすぐに <ある情報>を入手しまして。すぐにメシウマのみなさんへお伝えしなければと思い、竜骸平野周辺の町の冒険者ギルドを巡っていたところだったのですよ」



そう言ってアニスが懐から出したのは一枚の紙。

そこに大きく書かれていたのはこの文字だった。



『竜骸平野北端にSランクダンジョン発生!』


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【 書籍3巻まで発売中! 】

html> html> html>

【コミック1巻も発売中!】

html>
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ