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え?ギルド内で唯一【コック】を極めてる俺をクビですか?  作者: 浅見朝志


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第85話 ビリヤニ・イズ・ビリヤニ

「──いやぁ、豊作だ豊作だぁ~」



ちょうど俺の調理が終わったタイミングで、ダボゼがご機嫌よく厨房へと戻ってきた。

背負うそのリュックからは、高級そうな酒瓶が何本も突き出している。



「結局、今回はキンキンに冷えた麦酒にしたぜ。なにせこの町は熱い! ゴクゴクと飲んで喉を潤してから、ウマいメシに舌鼓を打とうと思ってな!」


「おいおい、どんだけ買ってきたんだよ……小遣いで足りたのか?」


「まあな。そういえばよ、酒屋にいく途中で商人ギルド長にバッタリと出くわしたぜ」



ダボゼはさっそく厨房の真ん中にあるテーブルへと酒瓶を置くと、その内の一本のコルク栓を慣れた手つきでキュポンと抜く。



「『メシウマのみなさんには改めて感謝します』って言ってたよ。まあそりゃそうだよな。討伐したモンスターの素材を無償でリデーの町にくれてやるんだから」


「俺たちで使い切れなかった分なんだから、そんなに恩着せがましくすることでもないだろ」


「かぁ~っ! ムギ、おまえってヤツはなぁ……欲がなさすぎる! 恩なんていうのはな、作ってでも売りつけとくもんなんだよ! 生き馬の目を抜く商人の世界じゃなあ、おまえみたいな人が良いヤツがまっさきに餌食になっちまうんだぜっ!?」


「いや、別に俺は商人じゃないし……」


「まあ、おまえはそういうヤツだよな。そういうのは俺の得意分野だ。そんなわけで、」



ダボゼは得意げにフフンと鼻を鳴らして、コポコポとグラスに麦酒を注ぎつつ言う。



「俺の方で商人ギルド長にはちょいと融通を利かせてもらったぜ。『ウチのムギは、だいぶ気を張って討伐依頼に臨んでいたみたいでしてね。良い酒でも持って帰って労ってやろうと思いまして』と話したら、ここの高級酒を全部半額にしてくれたんだ」


「ダボゼ、おまえ……」


「いやいや、俺は別に何も言ってないって! 向こうが気を利かせてくれただけさ!」


「だからってそんなの、商人ギルド長の弱みに付け入ってタカるのと同じだろ」


「いいや違うね。ムギ、この世は貸し借りの世界さ。無償の善意なんてのはな、タダでもらう方にとっては居心地の悪いもんなんだぜ」



ダボゼはそう言うと、グラスを俺に渡してくる。

中に注がれた黄金色のシュワシュワの液体は氷のようにキンキンだった。



「だからこの件で、向こうも少しは恩返しができた気持ちになったハズだ。俺はな、商人ギルド長の弱みに付け入ったわけじゃない。むしろその肩の荷を下ろしてやったのさ」


「……なんとなく理屈はわかるような気がするが、何故か釈然としないな……」


「ムギ様、それはムギ様たちが立てた功績をダボゼが勝手に利用しているからかと」



冷静にオウエルがツッコミを入れてくれる。

ああ、確かにそれはあるかもしれない。



「……まあまあムギ、そんなことよりメシにしようぜ! せっかくの酒がぬるくなっちまう!」



誤魔化すように言うダボゼ。



「さあさあ、今日のメシはなんだっ? 肉かっ? 魚かっ?」


「まあ、強いて言えば……米かな」


「米? まあ主食が米なのは大歓迎なんだがよ、俺が知りたいのは主菜なんだよ」


「うん。だから、米。主食と主菜が今日は一緒になってるんだ」


「??????」



ダボゼは首を傾げていたが、ちょうどその時マチメやウサチが厨房に顔を覗かせた。



「ムギ殿、遅くなって申し訳ない。だいぶ待たせただろうか?」


「いや、ちょうど今できたところだよ」


「それはよかった……実は、シナモンを洗ったり着替えさせたりするのに手間取ってな」



苦笑いするマチメ。

その背にはスウスウと寝息を立てるシナモンがおぶさっている。



「カリー充填率とやらが低いからだろう、脱がせても水をかけても目を覚まさない。ウサチと二人がかりで協力して洗ったのだが、やはり慣れないから時間がかかってしまった」


「ピスッ! マチメとがんばった!」



手ぬぐいを首にかけたウサチも手を挙げる。



「マチメが恥ずかしがってたから、私がシナモンの体を洗った!」


「いや、普通恥ずかしいだろう!? 同じ女とはいえ、あんな、文字通り赤裸々な状態でグッタリと──」


「いやいい。マチメ、それ以上は言わないでやってくれ……ただただ本当にご苦労様だったな」



顔を真っ赤にしていたマチメの言葉を、先んじて閉じさせる。

何だか聞いたらシナモンに悪い気がしてしまうので。

咳ばらいを一つ、気を取り直す。



「さて、それじゃあシナモンにもそろそろ起きてもらうとするか」


「……ん? お、おい、ちょっと待てよ、ムギ」



先ほどから首を傾げていたダボゼが額に冷や汗を浮かべていた。



「今日の料理はカレーとは趣向を変えるって、そう言ってたよな……?」


「ああ。カレーではないぞ」


「……『ではない』って、どういうことだよ?」


「ああ。今日は趣向を変えて、カレーではないけどシナモンが起きそうな料理を作ってみたんだ」



俺はさっそく、厨房に置いてある大鍋を開く。

ムワリ、強烈なスパイスの香りが辺りへと立ち込めた。

その瞬間、



「──カリーの匂いがッ! するのですッ!!!」



目を唐突に光らせるようにしてシナモンが跳び起きた。



「ハッ!? アレ、いったいここは!? 討伐依頼はどうなりましたのですっ!?」


「おはようシナモン。討伐依頼はシナモンの活躍のおかげでもう終わって、これからメシの時間だよ」


「そ、そうですかぁ。少しでもお役に立てたのであれば──『カリー充填率1%です』──よかったのですよぉ」


「……なんか、途中で変な声が挟まってたぞ。さっそく食べるとするか」



俺は一人一人の平皿へとその料理をよそっていく。



「ム、ムギさんっ! その料理は、まさか……!?」


「おう。やっぱり知ってるよな、シナモンは。今日の料理は『海と山の幸の良いトコ取りビリヤニ』だ」



──ビリヤニ。それはこの地域特有の長粒米に、具材と数種類のホールスパイスで香り高く仕上げた炊き込みご飯だ。



具材として使用したのは、今回の討伐依頼で手に入れたヤドカリ肉と、冬虫夏草のキノコ。

たっぷりの油とスパイスで炒めてから混ぜ込むことにより、米一粒一粒に具材の旨みとスパイスの香りが染み込んで、平皿に盛りつけられたソレはまるで金貨の山のようだった。



「「「「ゴクリッ!!!」」」」



シナモンを始め、オウエルたち三人娘もまた喉を鳴らした。

しかし、ただ一人、



「け、結局……カレーの炊き込みご飯じゃねーか……」



ダボゼだけはガクリと肩を落とす。



「そ、そりゃないぜ、ムギ……」


「いやいや、まあとにかく喰ってみろ。カレーとビリヤニはさ、似て非なる料理なんだって」



俺がダボゼを諭していると、トントンと。

肩を叩かれる。

振り返った先、スプーンを握りしめてウズウズとしていたのは、オウエルたち。



「ム、ムギ様……! も、もう私たち、この黄金の山に突撃してもよろしいでしょうか……!?」


「あ、ああ。悪い。それじゃあ食べよう。いただきます」


「「「「いただきまーすっ!!!!」」」」



俺が号令をかけるなり、女子たちはもはや座るのも忘れて厨房で立ち喰いをし始める。

ああ、しまった。

せめて部屋に運んでからにするんだった……。

だが、もう時すでに遅し。



「ああっ、お米がジューシー! 海と山の幸からたっぷりと出たダシがスパイスと合わさりお米に染み込んでいて……噛みしめるたびに口の中へと味と香りがジュワッと広がります!」


「ヤドカリ美味(うみ)ゃあ! プリプリのエビみたいだぞぉ! トウチュウカソー? も美味(うみ)ゃあ! 分厚いエリンギだぁ!」


「タマネギやパクチーなどの香味野菜もシャキシャキで美味しいなっ! しかも添えられている白いヨーグルトソースで味も変えられるとは! ビリヤニの風味がまろやかになって……ちょっと酸っぱいのがまた食欲をそそる!」



オウエルら三人娘はバクバクと食べ進めつつ、いつもながらにたくさんの感想をくれる。

その傍ら、シナモンはというと、こちらも意気揚々と食べているのかと思えばそうではなく、



「──ああ、ビリヤニ。確かに炊き込みご飯の一種と位置付けてしまえばそれまでなのです。ですが、他の炊き込みご飯が具材とお米との調和を目指す中で、ビリヤニだけはそうではありませんのです。その真髄は……お米の中に潜みし、このホールスパイス」



とつとつと語りながらシナモンはビリヤニをひと掬いする。

そしてジッと、スプーンの上に載ったお米と、その合間に隠れたグリーンの実を見やると口に運び、ガリッ! 口の中で躊躇なく噛み砕く。

直後、カッ! と。



「ああっ、ああっ! キタキタキターッ!!!」



シナモンのその目が見開かれた。



「これを待っていたのですぅッ! スパイスの一種、グリーンカルダモン! 一粒丸ごと炒められたこれを噛み砕いたその瞬間に一気に口の中で爆発するこの香り! レモンやオレンジともまた違った柑橘系の空気が、刃物のような鋭さで一気に鼻へと突き抜ける! 他にも多種多様の暗器(スパイス)をお米の中に仕込んでいるこのビリヤニが、平和の象徴たる炊き込みご飯であっていいわけがないのです! ビリヤニ・イズ・ビリヤニ! だからわたしはあなたが好きです! カリー充填率もギュンギュンに回復なのですよぉっ!」



どうやら大満足らしい。

オウエルたちに負けず劣らずの勢いでビリヤニをかき込み始めた。



……にしても、カリー充填率って結構判定がガバガバだよな? もしかしたら、スパイスが入ってれば何でもいいのかもしれん。



「むっ……確かにこりゃあ、ウマいな……」



俺が四人を観察していると、隣で渋々だったダボゼもビリヤニを口に運んでいた。



「カレーってわけじゃねぇ。だが炊き込みご飯みたく落ち着いたものじゃねぇな……これ一品で、主菜副菜がなくても満足できちまう不思議さ……こりゃあいったい……」


「だから、ビリヤニだよ」


「これがビリヤニか……!」



ダボゼは厨房のテーブルの上に置きっぱなしになっていたグラスを掴むと、中身の麦酒をグッと一息に飲み干して、プハーと満足そうにため息を吐いた。




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