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え?ギルド内で唯一【コック】を極めてる俺をクビですか?  作者: 浅見朝志


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第82話 甲鋏竜の正体と攻略法

「──撤退戦だ、おまえたち!」



こちら、プレイボやツンスのいる方へと駆けながら、青髪リーダーは叫ぶ。



「あまりにもモンスターの生態が知れなさすぎる。今回の敵の情報を持ち帰り、有効な攻撃方法を検討してから再び戻って来るぞ」


「んだな。そうした方がいい」



プレイボは聖典を閉じると、お手上げのポーズ。



「まるで古い聖典に出てくる天使のような不気味な姿だぜ、ありゃあ。情報もなしに対峙するのは嫌だね」


「そうね。私の一撃も効かないんじゃ、他の攻撃も通らないでしょうし」


「うにゃあ……ここまで来て帰るのはダルいけど、安全には変えられないししょうがないね」



ツンスもニャコもリーダーの決定には異存ないようだ。

パーティーの全員がなんとも潔い。

不確定要素の多い戦闘は避けるという、当たり前に思えてその実、上位の冒険者ほど実践できてないそれを徹底している。

レアのモンスターを前にすればするほど、その素材をわが物にしようと粘り、そして潮時を逃して全滅してしまう……そんな冒険者パーティーは腐るほどあるものなのだ。



「ムギ殿っ、われわれはどうするっ? 撤退か!?」



そう尋ねてくるマチメへと、



「いいや。攻略法はある」



俺は首を横に振った。



「今回鍵になるのはマチメ、そして……シナモンだ」


「っ! わ、わたしなのですかっ!?」


「ああ。シナモンの <例の一撃>、使えるか?」


「……! はっ、はい! 問題ありませんです!」


「よし。それじゃあ作戦はこうだ──」



俺は短く、作戦の概要を三人へと伝えた。






* * *






しばらく動きの無かった空中の甲鋏竜……そのヤドカリの目はようやく再び動き始めたかと思うと、下にいた俺たちに焦点を合わせた。



「よし。作戦開始だ」



俺とウサチが行動を開始。前に飛び出る。

とたん、その白い触手──いや、ヤドカリの体を棲み処に定めた <寄生キノコ>の太い菌糸がムチのようにしなり、俺たちの頭上へと迫ってきた。



「ウサチ!」


「うん!」



俺たちはそれぞれその初撃をかわすと、菌糸を掴む。あるいは飛び乗ると、息を潜めて動きを止めた。

すると菌糸は宿主であるヤドカリの元へと戻っていく──俺たちを連れて。

攻撃によって俺たちを仕留められたかどうか、確認もされない。

それもそうだろう、ヤドカリそれ自体にもはや意思はないからだ。



……このヤドカリは、生きながらにして死んでいる。自らに寄生するキノコを育てるためにせっせと栄養補給するだけの人形なのだ。



この寄生キノコのことは俺もよく知っている。

ここまで巨大な甲殻類に寄生した例は初めて見るが、しかしその実態は同じだろう。

寄生キノコには高度な知性はなく、寄生したモンスターをキノコ自らが育ちやすい陸地へと誘導して、そこで成熟を待つ……それだけが設定された菌類だ。


シナモンのスパイスレーダーが反応したのも、それが寄生キノコに対してだった、ということならうなずけた。

なにせ、生物の栄養を吸って育った寄生キノコは <冬虫夏草>と呼ばれ、生薬として使われることがある。

スパイスレーダーがカレーのスパイスに使われるもの全てに対して反応を示すのだとすれば、ハーブ・薬草・生薬だってその対象に含まれる可能性は十分にあるのだから。



「さあっ、次のエモノはここにいるぞっ! かかって来いッ!」



地上にて、そう大きな声で叫ぶのはマチメ。

その盾を大仰に振るって、甲鋏竜の注意を引いた。



「カシャカシャッ!」



その外界からの新たな視覚的刺激の発生に、甲鋏竜は疑いを持つこともなく反応する。

何十本もの白い菌糸が、今度はマチメ一人に対して勢いよく伸ばされた。

マチメはその盾を構えると、



「見ていてくれ、ムギ殿っ! 私の修練の成果を! 魔力防壁最大展開(シールド・イクシード)!」



マチメが自らの持つ盾へと魔力を込めると、緑色の光が半球状に大きく広く展開する。それはマチメとその後ろにいるシナモンをすっぽりと覆い、一部の隙もなくなった。



「そしてこれがムギ殿に伝授いただいた私だけの料理拳奥義! <水の型>、アイスボールだっ!」



マチメの張った魔力シールドが、冷たい青色に変化する。

すると四方八方から迫りきた菌糸による攻撃は、その全てがシールドに触れるや、ツルッと。

本物の氷に足を取られたかのように滑り、見当違いな方向へと逸れていく。


もちろん、実際にシールドが氷製になったわけではない。

水の流れを意識したマチメによる繊細な魔力操作によって受け流された菌糸の攻撃が、氷の上を滑るように見えるだけ。



「やっ──やったぁっ!!! 成功だ! ムギ殿っ、見ていてくれたかっ!?」


「ああ、もちろんだっ! よくやった、偉いぞマチメ!」



上空、甲鋏竜のヤドカリ本体の上から俺はそう返す。

その繊細な魔力操作を獲得するのに、マチメの才をもってして一ヶ月以上はかかっていた。



……立派なもんだ。



その苦労を間近で見ていたからこそ、感慨深い。



「ウンナァァァッ! 私だって料理拳奥義ができるようになったんだぞぉっ!!!」



ほとんどの菌糸の攻撃が空振りとなって無防備となったヤドカリの下へと、俺の隣からウサチが跳び出した。

作戦はこれで佳境。次は俺とウサチのターンだ。



「シューーートッ!!!」



ウサチは空中でその身をひるがえし、そしてヤドカリを下から上へと蹴り上げる。

それこそ料理拳奥義・ <屠殺気絶足蹴(ノッキング・キック)>。

その本領は相手の硬さ関係なく、その内側の脳や内臓にダメージを与える技だが……残念ながら、今回の寄生キノコ相手には決定打とはなり得ない。

寄生キノコには脳も内蔵もないのだから。


だが、その威力にヤドカリの体は上を向く。

そしてあらわになるのは──その抉れた胸部。

先ほどのツンスによる大規模魔術攻撃でつけられた傷だ。

そこへと、今度は俺が跳んで、飛び込んだ。



「料理拳の師匠として、俺も負けていられないな……!」



俺もまた見せるとしよう、料理拳を。

右の手を鋭くし、魔力を集中。

構えるのは料理拳・包丁の型。

繰り出す技は料理人としての研鑽が現れる妙技。



──隠し包丁・筋切り。



シュババババッと。

俺はヤドカリの胸部の傷口へと、包丁と化した右手を数度振る。

これで下準備(・・・)は完了だ。



「仕上げだ──シナモン!」


「合点承知の助、なのですぅ!」



マチメの後ろから登場したシナモンが、狙いを定めるように両手を構えた。

両手の指で長方形ののぞき窓を作り、



「──PPP、対象ロック・オン。射程ヨシ。カリー充填率八十二%……現時点における最大火力で放射します。危険──周囲のスタッフは退避してください──」



一連の無感情な報告・警告を終えたその直後、シナモンの目が輝いた。



「──火竜(カリーほう)砲、撃て(ファイア)



その口から放たれるのは、真っ赤な光線。

それは俺たちがシナモンを見つけた場所──あのゴーレム文明の遺跡で使われたものと同じ、 <対ドラゴン用の超兵器>だった。



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