第79話 ヘラクレスの冒険者たち
翌日、冒険者ギルドと商人ギルドとの交渉を経て、俺たちは正式に『王都直通街道の整備計画』に伴うSSS級モンスター、甲鋏竜の討伐依頼に関わることができるようになった。
しかも即日で。
よほどギルドの方でも困り果てていたようだ。
当然、これまでと依頼形態が変わることにより、その場には王国最強ギルド・ヘラクレスに所属する冒険者の面々──俺が市場で会った四人組も招集されることになった。
「……まあその、ヘラクレスのみなさんが依頼対象のモンスターだけ倒してくれていれば、こんなことにはならなかったわけでしてな。もちろん今さら依頼を取り下げることはしないが、今回の依頼を共同依頼に変更する件、ご理解いただきたい」
商人ギルド本部の大会議室にて。
向かい合わせに座る俺たちメシウマ、そしてヘラクレス所属の青髪たちの間に立つのは、商人ギルド長。彼は困ったように眉を八の字にして言う。
「モンスター数の激減により、町の経済は大きな痛手を負ってしまっているんだ。もう少し、周辺のモンスターへの被害は減らせないものかね?」
「そんなことを言われましても。それが俺たちのやり方ですので」
淀みなく即答したのは、青髪の冒険者。
スリをしたグリークを捕まえてくれた男だ。
「第一、冒険者にとってモンスターとは『討伐すべき』存在だ。その冒険者に対して、事もあろうにモンスターを生かせというのは、不条理というものでしょう」
「いや、だがね……この町リデーは、竜骸平野にいるめずらしいモンスター素材により発展してきた町だ。モンスターを駆逐するということは、この町を滅ぼすということだと理解いただきたい」
「モンスターがいなければ成り立たない町なんぞ、滅びてしまえばいい」
…………あんぐり。
商人ギルド長は、いいや彼だけではなく、俺たちメシウマの面々も含めた全員が驚きのあまり大きく口を開けてしまう。
今、あの青髪、なんて言った?
「……すまないが、今、なんと?」
「だから、モンスターがいなければ成り立たない町なんて──むぐっ」
「うんにゃあっ、申し訳ないニャ!」
青髪の青年の口を、後ろにいた同じヘラクレス所属の冒険者──ネコ耳の獣人の女の子が、その両手で慌てたようにふさいだ。
「ウチのリーダー、目を開けながら寝てるみたいなんだニャッ! なんか思想が強めの夢でも見てるのかニャ~ニャハハハ! 困ったやつだニャ! 今のはただの寝言だから聞き流してくれなんだニャ!」
「もがっ……放せっ、俺は寝てなどいない! 起きている!」
「いいから黙って寝てたことにしとけニャ、この激ツヨ思想クソアホ馬鹿真面目リーダー!」
フシャー! と牙を剥いて怒鳴るネコ耳の獣人と、それに戸惑うように顔をしかめる青髪。
青髪へと発言の意図を問い詰めようとしていた商人ギルド長も、その二人のやり取りに毒気を抜かれたように呆然と突っ立ってしまっている。
「ああ、オホン。ウチの者たちがうるさくして申し訳ありませんね、商人ギルド長」
咳払いと共にそう言ったのは、いかにも聖職者といった身なりをした長髪の、二十代半ばといった風貌の男。
「そちらの料理ギルド・メシウマとの共同依頼の件については承知しました。ヘラクレス本部への連絡には私の方からも一筆したためましょう。この町周辺のモンスターについても、善処します」
「は、はあ……感謝します。まあ、とにかく肝要なのはですね、これ以上の討伐依頼外のモンスター討伐は、必要に迫られない限り止めていただきたいということでして、」
「ええ、善処します」
ニコニコと。
長髪の男は青髪の青年と違ってとっつきやすそうな表情をしながらも、しかし頑なに「はい」とは答えない。
こちらもこちらで曲者そうだ。
「話が以上のようでしたら、われわれはまた甲鋏竜の捜索に向かわせていただきますよ」
長髪の男がそう言って立ち上がると、青髪たちもまたそれに続いて会議室を後にする。
「……フゥ、やりにくい。これだから冒険者ってヤツらは」
きっとあまりに濃い面々の相手で疲れていたからだろう。
商人ギルド長は、会議室にまだ俺たちメシウマが残っていることも忘れ、そうボヤいていた。
* * *
「──どうも、メシウマのみなさん」
俺たちが商人ギルド本部から出ると、その入り口ではヘラクレスの面々が待ち伏せしていた。
軽い雰囲気を身にまとった長髪の聖職者風の男が声をかけて近づいてくる。
フワッとムスクの香りが漂った。
「昨日、市場でお会いしましたよね? お名前はかねがねうかがっていました……なんでも討伐クッキングの走りになったギルドだとか」
「ああ。その節はご迷惑を。それにこちらこそ、ヘラクレスの名声はどこにいたって聞こえる」
「組織がデカいと声もデカいものですからね」
肩をすくめる長髪の男……いや、名前を知らないのは不便だな?
「俺はムギ・ウォークマン。あなたは?」
「俺はプレイボ・イモテルです。見た目でわかると思いますが、このパーティーの癒し役ですよ」
「回復役、でしょ。癒し役ってのは、そっちの <ウサ耳ちゃん>みたいな子のことを言うのよ」
そう口にするのは、黒い魔女帽とローブを羽織った黒髪の女。
「アタシはツンスよ。ツンス・マーシ。職業は魔術師……まあ、それはわかるわよね」
「そして <巨砲>とも呼ばれてるニャ。本人はそう呼ぶと嫌がるけど。あとは小さくて可愛いモノに目がない乙女な一面を合わせ持つニャ」
「ちょっと、ニャコ!」
「ニャハハハ~」
首根っこを捕まえようとするツンスの手を走ってかわし、俺のすぐ目の前で急停止したのは、先ほど青髪の口をふさいでいたネコ耳の獣人。
「私はニャコなのニャ! このパーティーの五感を司るスーパーレンジャー! 目と耳とこの鼻で、パーティーの行動をサポートしているんだニャ! そしてあそこにいるのが、私たちのリーダー!」
ニャコが手を向けた先に立つのは、青髪の青年。
青年はまるで石膏像のような無表情で俺たちを一瞥したまま動かない。
……いや、違うな。
ただしくは、俺を。
青年は俺のことをジッと、にらみつけるように見つめて動かないのだ。
「……あの、リーダー?」
「……」
「おおい、リーダー?」
「……フン」
リーダーと呼ばれた青年は素っ気なく鼻を鳴らす。
俺たちのことを <料理ギルド>だと知って、気分を悪くしたのだろうか?
気持ちはわからなくない。
人間を食べているかもしれないモンスターを食べるということ、それに忌避感を覚える人はもちろん、めずらしくないからだ。
この青年もそのうちの一人なのかもしれない。
「……甲鋏竜も食べるつもりか?」
満を持したかのように、ようやく青年が言葉を発した。
「まあ、毒がなければ」
「そして、俺たちが先に狩らなければだな」
リーダーの男は、抑揚のない声で続ける。
「俺たちは破壊する、モンスターの何もかもを。なぜなら、モンスターは人を喰らう悪だからだ」
「……悪、ってな」
それはあくまでも、人から見た側面にすぎない。
モンスターだって生きていくためには栄養を欲する。子どもに食べさせる食料も必要だろう。その行為を一元的に悪とまとめるのはいかがなものか。
……なんて頭の中では思っていたのだが、そんなに流暢に反論を並び立てられるほど、俺の舌は器用に回らなかった。
「この世の全てのモンスターは根絶されるべきだ。それこそが討伐任務の存在理由でもある。俺はこれまでそう信じて討伐してきたし、これからもそう信じて討伐をする……以上だ」
俺が言葉を返す前にリーダーの青年はそう言い切って踵を返し、リデーの人混みの中へと消えていった。
「……にゃあ、珍しい。リーダーがあそこまでムキになるなんて」
目を丸くするのは、同じパーティーメンバーのはずのニャコ。
「それにしたってうちのリーダーが急に突っかかってごめんニャ? あいさつをさせるつもりだったんだけど……気を悪くしたら……まあ、悪くもなるよね。あんなケンカ腰になられたら。申し訳ないニャ」
「いや、どっちかというと……面喰らった」
「うん。私もよくびっくらこくニャ。たいがい、持ち前の馬鹿真面目が空回りするだけなんだけど……さて、追っかけないと。またねっ!」
ニャコは微笑みを残すと、町中へと消えたリーダーへと駆けていく。
他のメンバーたち、プレイボ、ツンスもまたそれに続き、
「……残念ながら、共同歩調はとれないようだね。お互いがんばろう」
「バイバイ、ウサ耳ちゃん」
軽く手を振って離れていく。
「……ずいぶんと個性的な人たちでしたね」
ホッと大きな息を吐いたのは、オウエル。
「どうやら、リデー周辺のモンスターの駆逐については、本当にあのパーティーが原因だったようですね」
「みたいだな」
「特に、あのリーダーと呼ばれていた青髪の冒険者、モンスターのことがよほど……」
「そうだな。まあ、きっと何かあったんだろうさ。だけどその個人的な事情が、リデーの町の人々の生活を巻き込んでいい理由にはならない。俺たちは今までの俺たちどおりにやろう」
つまりそれは甲鋏竜の討伐と、その調理だ。
甲鋏竜……初めて聞く名だ。
それもそのはず、竜骸平野で最近見つけられた未確認種のモンスターなのだ。
おそらく竜骸平野の環境によって竜化した何かしら既存のモンスターの亜種か何かだとは思うが……。
「そういえば竜化したモンスターを食べるのも初めてだな」
「ピスッ! ドラゴン・ステーキみたいに美味しいかなぁっ?」
「向こうの面々に先を越されて、ミンチにされてなきゃそうかも」
「! なら早く行かないとっ!」
ウサチが鼻を鳴らして、待ちきれないとばかりに体をソワソワと動かした。
俺も、今回は討伐クッキングが主な目的ではないとはいえ、せっかくの未知のモンスターを台無しにされるのはゴメンだ。
「よし……それじゃあさっそく討伐に行くとしようか」
出発はすぐだ。
俺たちは準備を整えるために宿屋へと戻った。
「面白かった!」
「続きが気になる、読みたい!」
「今後どうなるのっ……!」
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