第78話 死神の軌道
リデーの入り口付近に取った宿へと帰り着いた頃には、すでに空に紺色の天幕がかかりつつあった。そしてやはり、オウエルたちもすでに戻ってきている。
「ムギ様、私たちの聞き込みの結果、今起こっている異常事態についていくつかわかったことがありました」
俺たちはオウエルたちがまとまって寝ることができるようにと借りた女子用の大部屋へと集まって、さっそく情報共有を──
──グゥゥゥゥゥッ!
──ぎゅぅぅぅぅっ!
──クルルルルルッ!
──カリーリリリッ!
オウエル、ウサチ、マチメ、そしてシナモンの腹の虫が盛大に鳴いた。
まるで夜の到来を告げるコオロギのように、一斉に。
「……情報共有の前に、腹ごしらえが必要かな?」
「で、ですね……」
お腹を押さえつつ、オウエルがはにかんだ。
* * *
「──ムギ様、それで話の続きなのですが」
宿屋で借りたダイニングキッチン。
そこで俺たちは先ほどフェヌとグリークたちの家で作ったものにチーズをプラスした、チーズカレーリゾット風粥を作り、そしてそれを食べながら情報共有を始めることにした。
「結論から申し上げますと、リデー周辺の竜骸平野のモンスターが狩り尽くされているのは、リデー町長が推し進めている『王都直通街道の整備計画』に関係しています」
「王都直通の……街道? それってまさか、」
「はい。この竜骸平野を北西へ向けて突っ切る街道の整備計画です。その工事のため、討伐難易度SSS級の危険な未確認種モンスター……通称 <甲鋏竜>の排除をしようとしているのだとか」
「それって……聞いてる限りにおいては、ただの討伐依頼に聞こえるんだが?」
「そうです。ただの討伐依頼だったのですが……そこに至るまでの経緯が複雑でして」
オウエルは鍋の中のおかわりに手を伸ばしつつ、ため息。
「まず前提として、この計画を共同で推し進めている町長と商人ギルドらは、やはり周辺モンスターの駆逐なんてことは冒険者ギルドに依頼していないんだそうです。あくまで彼らが依頼しているのは、ここから王都に至るまでの道のりにいる甲鋏竜だけなのだと」
「じゃあ、いったいなんでハバネリーパーは狩り尽くされていたんだ? それに、俺たちの方で聞いた話だと、ハバネリーパーに限らず、多くのモンスターたちが忽然と姿を消してるって……」
「はい。商人ギルドの方々もそれについては危機感を覚えているらしく」
オウエルはフウフウとおかわりの熱々のチーズカレー粥を息で冷ましながら、言葉を続ける。
「ですので、今度は商人ギルドが討伐依頼をしたというこの町の冒険者ギルドに話を聞きに行ったんです。すると、『自分たちでは手に負えないから、王都の冒険者ギルドに再依頼した』んだそうです」
「王都の冒険者ギルド……?」
「ええ。 <ヘラクレス>という名前の冒険者ギルドです。ご存じでしょうか?」
「王国最大にして最強の冒険者たちが揃うと名高いギルド、だな。歴史は当然、マグリニカ以上に長い」
そう答えたのは俺ではなく、おかわり三杯をすっかり完食し切ったマチメ。
「どうりで納得がいった。そういうことだったか」
「何がだ?」
「ムギ殿、今日市場であった冒険者の四人組を覚えているか?」
「ああ、そういえば……」
思い返せば、あの青髪の青年たちはこのリデーの町を拠点にしている商人や住民たちのように陽に焼けた肌をしていなかった。
ということは、まさか……!?
「気づいたようだな。その通り、あの者たちはヘラクレスに所属する冒険者だ。マグリニカで討伐依頼を受けていたとき、何度か王都付近で見かけたことがある」
「どういうことです? すでにムギ様たちは会っていらしたのですかっ?」
「ああ、まあ会ったというかなんというか──」
俺はオウエルたちに、今日のあらましを伝えることにした。
青髪の青年冒険者たちとの出会いと、フェヌとグリークたちのことも。
「……! 聞いたことがあります。ヘラクレスに所属する青髪の冒険者の剣士! 確か二つ名は <死神の軌道>」
「なんだ、その物騒な名は」
「彼の歩いた道にはモンスターの死骸で道ができるから、とかなんとか。私はそれを、圧倒的な強さを表現している比喩か何かだと思っていましたが……」
「比喩でもなんでもなかった、ってことか」
「あくまで可能性として、ですが」
「……だとしてもなぁ。……いちおう、念のための確認だけど、この町の冒険者ギルドは、ヘラクレスに対してどういう再依頼をしたんだ?」
「やはり、こちらもリデー周辺のモンスター駆逐の依頼なんてしていないんだそうです。甲鋏竜の討伐依頼をしただけだそうで」
やっぱり、まだまだわからないことだらけだ。
モンスター駆逐の依頼料を別途受け取っているわけでもなく、その素材を売りに出すわけでもなく……何のために依頼外のモンスターを狩り尽くしたりしているんだろうか。
「謎が深まるな……」
考えていたらカロリーを使ってしまった。
俺もまたチーズカレー粥のおかわりに手を出そうとして……あ、もうない。
空っぽだ。
俺まだおかわりしてないのに。
「ム、ムギ……ごめん。コレ食べるかぁ?」
ウサチがお粥の乗ったスプーンを差し出してくれる。
「よく考えたら私、もうお腹いっぱいだったぞ」
そりゃあ、おかわり六杯もすればお腹も膨れるだろう。
ただでさえ後からお腹が膨れてくるお米なんだし。
「ありがとう。それじゃあいただくことにするよ」
ウサチは明らかに食べ過ぎなので、お言葉に甘えていただく。
パクリ。うん、われながらやはり美味い。
「青髪の冒険者はさ、モンスターを討伐だけして素材は放置する、なんて奇特なヤツなのかな?」
「どうだろう。実直な男だとは聞き及んでいるが」
マチメは軽く両肩を上げて答えた。
どうやら詳しく知っているわけでもないらしい。
……まあ、いいか。なんにせよ問題の根っこになっているものはわかった。
「これは提案なんだが……みんな、よかったら俺たちでその甲鋏竜とやらを倒してしまわないか?」
「……! なるほど、根本的解決ですね」
オウエルが理知的に、そのメガネを押し上げる。
「確かに甲鋏竜が討伐されたなら、死神の軌道たちがこの町に滞在する理由はなくなります。問題はそれが討伐対象の横取りにあたるのではないか、ということですが……」
「明日、依頼主の商人ギルドと、一次請けであるリデーの冒険者ギルドに掛け合ってみよう。そこで合意が取れたら、俺たちメシウマも参入しての共同依頼って形にできるかもしれない」
「……モンスターが駆逐されつつある現状と、それによってリデーが受けている経済的損失を考えれば、交渉の余地はありそうですね」
オウエルも納得してくれたところで、改めて俺はみんなを見渡した。
「さっき話したように、もうハバネリパウダー自体は手に入れることができている。だからこの町での用はもう済んでいるんだ……。でも、俺はできれば今起きてる事態を解決したいと思ってる。どうかそれを、みんなも手伝ってはくれないか?」
「当然だとも」
即答するのはマチメ。
それに追随して、オウエルもウサチもシナモンからも。
次々と首肯が返ってくる。
「まあ、別に俺もいいぜ。長く市場に滞在できりゃ色んなモンが喰える。今日は珍しくチーズも喰えたことだしな……やっぱりカレー味ではあったが」
機嫌良さそうな赤ら顔でダボゼも言った。
いつの間にか赤ワインを開けている。
合うのか? いや、合うかも。
チーズとワイン、スパイスカレーとワイン、それぞれ相性はバッチリだ。
まあ、それはともかくとして、
「シナモン、ありがとうな。伝説のカリー素材集めでも、記憶探しでもない寄り道に時間を使わせてくれ……」
「いいえっ、とんでもございませんのです! わたしもどうにかしたいと思っていましたから。フェヌさんとグリークくん、そしてこの町のみなさんの日常を少しでも取り戻してあげたいです!」
「……だよな。ありがとう」
「わたしも精いっぱいがんばるのですっ!」
気合い十分に両手の拳を胸の前で握るシナモン。
俺たちは明日に備え、その日は早々に寝る事にした。
「面白かった!」
「続きが気になる、読みたい!」
「今後どうなるのっ……!」
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