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え?ギルド内で唯一【コック】を極めてる俺をクビですか?  作者: 浅見朝志


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第75話 大滝とスパイスの町、リデー

「──ヒドいな」



丘を下り、大量のハバネリーパーの死骸の側へ立つ。

数はおおよそ二十から三十。ここはもともと、ハバネリーパーの群生地だったのだろう。

今は全部干からびているようだった。


先ほどの風に乗っていたハバネリパウダーがここにいるハバネリーパーたちから放出されたものだと考えると、辛味成分であるクソカラインダシンが抜けていることも鑑みて、どうやら『狩られてから』だいぶ時間が経過しているらしい。



──そう、狩られているのだ。



その体には魔術攻撃や、近接攻撃の傷跡がしっかりとついている。

つまり天候や事故による異常死なのではない、明確な意思によって殺されているのだ。



「うぉお、パリパリだぞぉ」



驚嘆の声を上げるウサチ。

その目線の先のハバネリーパーの、乾燥海苔のようにパリパリな死骸の破片が風に吹かれるたびにさらわれていく。



「前にも話したけど、野菜はそのほとんどが水分で構成されているからな。植物系モンスターであるハバネリーパーも例外じゃない。体の九割が水分でできているんだ。それが全部抜けると……」


「こんなパリパリになるんだなぁ」


「そういうこと」



特に、この竜骸平野は土と砂、そして化石ばかりの荒野なだけあって陽射しがキツい。

立っているだけで天日干しされている気分だ。

こんなところに三日も放置されていれば水も抜けきってカラカラになること間違いなし。



「しかしもったいないなぁ……このハバネリーパーを狩ったヤツらはいったい何を考えてるんだ? 狩るだけ狩って放置するなんて」



ハバネリーパーの体は風味付けの調味料として全身余すところなく使えるというのに。

そうでなくとも、ハバネリーパーの体は赤染めの染料として有効活用できるので、食品としてでなくても価値はある。

二十も売れば、一、二ヶ月は遊んで暮らせるだろう。



「ムギ様、いかがしましょう? ハバネリパウダーを集めますか?」


「いや、もうここにあるものは何も使えないよ。長く日にさらされ過ぎていて、パウダーは元の風味をほとんど失っているし、ハバネリーパーの体自体も色が褪せ過ぎてる」


「そうでしたか。では他の場所を探してみましょうか」


「ああ。そうだな……だけど」



果たして、他の場所に生息しているハバネリーパーは、ちゃんと生きてくれているだろうか?

その俺の心の中での問いに応えるように、首を横に振るのはシナモン。



「……ムギさん、残念なお知らせなのですが、わたしのスパイスレーダーはこの一帯においても反応を示していませんのです」


「ハバネリーパーはいない、ってことか」


「はい。少なくとも、生きている個体は」



いったい何が起こっているというのだろう?

ハバネリーパーがその生息に最も適したであろうこの地から姿を消す……あるいは消されてしまうだなんて。



「申し訳ございません、ムギ様。私が東方面に進もうと提案したばかりに」


「謝らないでくれ、オウエル。オウエルも、誰も何も悪くない。確かにここには群生地があったじゃないか。その先で予期せぬ事態が起こっていた、ってだけだ」



むしろ、その異変にいち早く気づけたのは不幸中の幸いだっただろう。

これ以上、竜骸平野を無駄にさまよわずに済んだのだから。



「予定通り水と食料の補給も兼ねて東の町リデーへと寄ろう。そこにいけば、どうしてこんな事態が起こっているのかもわかるかもしれないし」



その今後の方針にはオウエルや他のみんなも頷いてくれ、俺たちメシウマ一行は進路は変えず、そのままリデーを目指すこととなった。






* * *






大滝とスパイスの町、リデー。

竜骸平野の外周にあるその町は、エルフの里が内包される大森林をさらにその外側から包み込む広大な山脈に接しており、そこから流れ落ちる大滝の近くに築かれた荒野のオアシスだ。

リデーを境にして緑と茶色がくっきりと分かれており、その境界線を踏み越えるやいなや、スパイスの際立ったエキゾチックな空気が出迎えてくれる。



「それじゃあ班分けといこう。ハバネリーパーについての情報収集はオウエルとウサチ、それとダボゼに任せる。冒険者ギルドや商人ギルドをあたってみてほしい」


「承知いたしました。必ずや名誉挽回となる情報を入手して参りますねっ!」


「全然名誉は傷ついてないけど……でも、少しでも多くの情報を仕入れてもらえると助かるよ」


「ムギ殿、残りの私とシナモンは?」


「マチメとシナモンは俺といっしょに市場で水と食料品の買い出しだ。ついでにスパイスを売っている屋台の店主にハバネリパウダーについて聞いてみよう」



役割分担を済ませると、俺たちは町の出入り口付近の宿を取って馬を預け、さっそくそれぞれ町へと繰り出した。



「……すごい人なのです!」



目を輝かせてシナモンが言う。

確かに驚くのも無理はない。

市場に足を踏み入れれば、そこは一面、人、人、人だ。

この一帯のキツい日差しにこんがりと焼かれた小麦色の肌に汗水を垂らし、馬車が一台通るのがやっとな道幅を、みんな肩をぶつけ合うようにしてすれ違っている。



「竜骸平野では誰とも会わなかったのにすごい落差だな、ムギ殿」


「まあ竜骸平野は危険だからな。みんなそこを迂回するように作られた街道を通ってこの町にくるのが普通なんだ」



なので俺たちのルートが例外も例外なのだ。



「いろんなお店があるのだなっ! 食べ物にアクセサリー、衣服に……乾燥コウモリっ!?」


「あっちは果物、こっちではスパイシーなカリー風味の串焼肉を焼いてるのですぅ! じゅるりっ」



マチメとシナモンは物珍しそうに左右の屋台を見ている。

俺もついつい色んな店先の商品に目移りしてしまう。

屋台は他のオウシアンなどの都市のような洗練さはなく、みんな好き勝手に売りたい物を売っているのだ。

だからこそ掘り出し物も多い。



……だが、ガマンだ。まずは必需品の買い出しを済ませてしまわなくてはっ!



と、俺たちが日持ちのするものから順に買い出ししていた時だった。



「……ん?」



ドンッと。

背中に誰かがぶつかってきた。

それはマチメやシナモンではない。



「あ、ご、ごめんなさい」



震える、か細い声。

俺にぶつかったのはきれいな目をした少年だった。

六、七歳に見える。

やはりここの住民なのだろう、その顔は他の人々同様にやはり日によく焼けていて乾燥していた。



「いや、別にいいよ」


「……ほ、本当にごめんなさい。それじゃあっ」



謝った少年は目を逸らすと、慌てたように小走りで市場を駆けていく。

その表情にどことなく違和感を覚えて、俺は後ろポケットへと手をやった。



「あ」



思わず、小さなため息を吐いてしまう。

やられた。



「どうしたムギ殿?」


「いや、それがね……財布の一つをスられちゃったみたいで」


「えっ!?」



おそらくはさっきの少年だろう。

俺としたことが警戒を怠るとは……。



「けしからんな! それでは取り戻しに行こうではないか! その後でキツーく叱ってやらなければ!」


「いや、別に取り戻さなくてもいいよ。あれはダミー用財布だし」


「ダミー用財布?」


「ああ。銀貨二枚分の額しか入ってない。買い出しに使ってる財布はちゃんと懐にしまってるんだ」



俺が懐から取り出した小袋、その中にちゃんと詰められている金貨銀貨を見て、マチメは眉をひそめる。



「なぜわざわざそんなものの用意を……?」


「スリってさ、個人でやるのも多いけど集団でやるものも多いんだよな。特に子どもがやるのは大人によって組織化されていることが多い。で、観光客は特に組織の方に狙われやすいんだ。金を持っていると思われてるから」


「そうなのか?」


「ああ。だからダミー用財布にはした金だけ入れておいて一度盗ませてやれば、向こうは俺たちのことを貧乏人だと思うし、そうでなくても一度スラれて警戒もしてるだろうと思うから、今後ターゲットから外してくれるわけだよ」


「な、なるほどな。理にかなっている……のか?」



まあ、損なことに変わりはないよね。

あと今回に限っては今説明した効果も薄いだろう。

なにせ、あの少年がスリ組織の一員だとは俺には思えなかった。


少なくとも常習犯ではないことは確かだ。

声が震えていたし……それに着ているものも古い。

スリは疑われにくくするように、みすぼらしい恰好は避けるはずだから。



「気を取り直して買い出しの続きをしよう。確か次は──」



そう言いかけて、市場の人垣の向こうからザワッと騒ぎが聞こえてきた。



「──スリは犯罪だ。看過はできない」



人波が割れる。その間にできた道を四人の男女が歩いてくる。剣や杖を持ち、鋼の装備を身に着けているところを見るとどうやら冒険者パーティーのようだ。

そしてその中の誰より目を引くのは、その四人の先頭に立つ男。スラリとした長身で、短く切り揃えた青髪が特徴的な青年だ。

その青年が目を引くのは彼が二枚目だから……というわけではなく、その肩に先ほどのスリの少年を俵でも担ぐようにして乗せているからだ。



「これは貴様の財布だろう」



ヒュッ、パシッ。

直線的に鋭く投げて返された財布を、キャッチする。



「財布は後ろポケットに仕舞うな。体の手前側に仕舞え」


「あ、ああ。スマン……ありがとう」


「フン」



青年は用は済んだとばかりに踵を返す。

涙ぐんで震える少年をその肩に担いだまま。



「なあ、その子をどうするつもりなんだ?」



思わず問いかけた俺の言葉に、青年は足を止めた。



「どうするつもりか? そんなの決まっている。この町の警吏に突き出す。それともなんだ、おまえはコイツが子どもだから逃がしてやれ、とでも?」


「……いや、そんなことはない」


「だろうな。罪は罪。子どもだろうが大人だろうが関係なく償うべきものだ」



その通りだと、俺も思う。

だけど……。

少年を見る。

弁解するでもなく、ただ悔いるように歯を喰いしばるその少年を。



「……重ねてすまない」



気付けば、俺は青年に対して頭を下げていた。



「実は、その財布は初めからその少年にやろうと思っていたものなんだ。紛らわしいことをして申し訳ない。だから、その子をひとまず放してやってはくれないか」





「面白かった!」


「続きが気になる、読みたい!」


「今後どうなるのっ……!」


と思ったら


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