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え?ギルド内で唯一【コック】を極めてる俺をクビですか?  作者: 浅見朝志


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第74話 クソカラインダシン

昼ご飯を終えると、俺たちは竜骸平野を北、王都方面へと歩む。

相変わらずの徒歩移動のため速度は出ない。

多くの荷物は二頭連れてきている乾燥地帯の環境に強い馬の背に積んでいることもあり、だいぶ楽ではある。

とはいえ、荷馬車ほどの量を積載できるわけではないため、二、三日くらいで一度スター子爵の家へと帰りたかったのだが──



「……妙だな」



俺たちがスター子爵家を出て丸二日が経った。

空気がいっそう乾燥してきて、風が吹くと簡単に足元の砂が舞い上がる。

そこは竜骸平野の半ほどまで来ただろう、という地点だった。



「なあ、今日は一回もモンスターと遭遇してないよな?」


「うん。間違いない」



先頭からの俺の問いかけに、列の最後方を歩いてくれていたマチメが頷いた。



「私も確認していないぞ、ムギ殿。遠目に見かけるということもないから、警戒されているわけではないと思うが……」


「だよな。逃げていくモンスターがいるなら、ウサチの耳が聞き逃すはずもないし」



俺の隣、今もピョコンと長く伸びているウサチの耳が、何かの物音をとらえたという様子もない。



「そうですねぇ……」



そう言って周囲をグルリと見渡すのはシナモン。



「わたしのスパイスレーダーにも、何も引っかからないようなのです」


「スパイス <れーだー>?」


「スパイスやそれに類するモノを探し当てる機能なのですよ」


「……そんなものがあるなら、最初から使っておいてほしかったんだが」


「すみません。いま存在を思い出したもので」


「それはつまり、記憶が戻りつつあるってことか?」


「……いえ。記憶はあまり。どちらかというと、泳ぎ方を思い出した、みたいな感覚ですね。まあとにかく、」



シナモンは小さくため息交じりに、



「どうやらこの辺りにはスパイスになり得るモンスターはいないみたいですね。もうちょっと別の位置を探ってみるべきかと」


「まあ、そうだな。そうするしかないか……」


「? 別の位置だと、なにか不都合がありましたですか?」


「不都合……というか、この一帯なんだよな。俺たちがターゲットにしてる <ハバネリーパー>の生息地が」



ハバネリーパー……それは死神の鎌にも似た頭のヘタを持つのが特徴の植物系モンスター。

その外観は、一メートルほどの丸いトウガラシだ。

植物系モンスターにしてはめずらしく、乾燥地帯にしか生息せず、その中でも特に雑草すら根付かないほどに枯れ果てた地でしか種を増やさないという生態を持つ。



「ムギ様、竜骸平野ですがここから東の方面にもハバネリーパーの生息に適した、乾燥の激しい地帯があるようです」



俺の後ろで、オウエルが言う。



「東であれば <リデー>という町も近いです。水や食料の補給のためにそちらへ向かいつつ、ハバネリーパーを探してみるのはいかがでしょう?」


「……それがいいな。このまま子爵家に戻るよりかは、よほどハバネリーパーと遭遇できる可能性がある」



用意周到に周辺地理を調べてくれていたオウエルへと感謝しつつ、俺たちは北から東の町リデーへと進路を変更する。



「ところでムギぃ、ハバネリーパーってどんなモンスターなんだぁ? 強いのかぁ?」



ウサチが首を傾げて聞いてくる。

そっか。

そういえばまだ討伐方法について説明していなかったっけ?



「強くはないし、こっちから仕掛けなければ危険でもないんだがな、ハバネリーパーからとれる <ハバネリパウダー>の入手方法が難しいんだ」



ハバネリーパーは基本的に攻撃手段を持たない。

手脚もなく、ただ弾力性のある丸いトウガラシの胴体で地面を移動しているだけだ。

しかし、こちらから接触するととたんにその牙を剥く。



「ハバネリーパーは危険を察知すると、その胴体に蓄えているハバネリパウダーを全て噴射して逃げるんだよ」


「そっかぁ。地面に落ちて砂と混じっちゃったら、お料理に使えないもんなぁ」


「いや、それだけじゃないんだ」



俺は首を横に振りつつ、言葉を続ける。

ここからが要注意ポイントなのだ。



「一番の問題はな、ハバネリパウダーに含まれる成分が、劇薬とも呼べるほどの強さの辛味成分だっていうことなんだ」



それはカプサイシンとは似て非なる別の成分──クソカラインダシン。



「クソカラインダシンは目鼻に入れば三十分は涙とくしゃみが止まらず、吸い込んでしまえば翌日は丸一日腹を下しトイレから出てこれなくなる他、痔を併発することもある」


「うげぇっ! そ、そんなに辛いのかぁっ!?」


「ああ。だからハバネリーパーのことは絶対に刺激しちゃならない。慎重に近づいて、ハバネリパウダーを噴射するスキを与えずに仕留め切らないといけないんだ」


「う、うん。わかった……でも、」



ウサチはシュンと肩を落としつつ、



「その激辛のハバネリパウダーを食材に使うってことは、伝説のカレーって、もしかして辛口なのかぁ……?」



ああ、なるほど。

ウサチはカレーは中辛派。

伝説のカレーが自分の口に合わないのではないかと危惧しているのだろう。

だが、それについては問題ない。



「安心しろ、ウサチ。クソカラインダシンは紫外線に弱い。日光にしばらく晒すことで、その独特な風味と色みだけを残して辛味は抜けるんだ」


「! そうなのかぁ、それなら安心だなぁ!」



ニッコリ。

ウサチはすっかり機嫌を取り戻したように意気揚々と手を振って歩き出す。

そうして複数の大きな竜の重なり合って丘のようになっていた化石を乗り越えた、その先の出来事だった。



「──オイオイ、なんだこれは……!」



丘の下、吹き荒れていたのは赤い旋風。

それが周囲一帯をまるでカーテンのように覆い尽くし、波のようにして丘を登りこちらに迫ってきていた。



「みんな、マントで顔を覆え!」



吹き上がってくるわずかなニオイから察することができる。

風に巻き上げられているその赤いモノの正体が、つい今しがた話題に出したハバネリパウダーであるということを。



「この場で大人しく座ってやり過ごそう!」



俺の指示に、オウエルたちが急いで顔を覆いその場に座り込んだ。

俺もまた馬たちの顔も布で覆うと、オウエルたちとひと固まりになるようにして座る。

その直後、赤い風が俺たちへと覆いかぶさってくる。



──叩きつけられる、芳醇なスパイスの香り。



ムスクのような甘さと、鼻の奥を駆けていくようなトウガラシの刺激をブレンドした特徴的なその香りが俺たちを包み込む。

一方でクソカラインダシン特有の血の味を思い出させる辛い香りは感じられなかった。


「……放出されてから、だいぶ時間が経っているのか?」



思い切って、外の光景を見る。

赤い風は目に染みる感じもしない。

見る見るうちにハバネリパウダーは俺たちの後ろへと吹き抜けていき、そして風とともに去っていった。



「みんな、大丈夫かっ?」


「……はいっ、私はなんとも」



オウエルが答えると、それを皮切りに全員から問題ないと返ってくる。

被害はゼロのようだ。



「しかし、なんだってあんな量のハバネリパウダーが……」



顔を覆っていたマントを脱いで、砂とハバネリパウダーの入り混じった塵をはたき落しつつ、俺は丘の下の光景を見て──絶句する。

言葉もなかった。

丘の下を埋め尽くす、大量のハバネリーパーたちが斬り捨てられ、そしてそのまま放置されている姿を見て。



……いったい、誰がこんなことを……!?



「面白かった!」


「続きが気になる、読みたい!」


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