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え?ギルド内で唯一【コック】を極めてる俺をクビですか?  作者: 浅見朝志


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第71話 シナモンとの出会い

──パクリ、モグモグ。


──パクリ、モグモグ。


──パクリ、モグモグ。



カレーを咀嚼する音だけが響き渡る。

そのオレンジ髪の少女は目の前の皿に盛られたカレーを食べることにひたすら夢中になっていて、その周りを囲むようにしてその様子を見やる俺たちへとまるで関心を示さなかった。


しかしカレーとは、非常に残念なことに、食べれば無くなってしまうものだ。

皿の上に終わりはやってくる。



「……はぁあ」



オレンジ髪の少女は、盛り付けられたカレーを全て食べ終わると、そう満足そうに息を吐いた。そしてそれから、ふと気が付いたように、俺たちの顔を見渡した。



「あなたたちは誰ですか」



それは俺たちが一番聞きたい問いだったのだが……まあいいか。

話を円滑に進めるためにはこちらから名乗っておこう。



「俺たちは料理ギルド、メシウマだ」


「誰がギルドさんで、誰がメシウマさんなのでしょう」


「いや、今言ったのは名前じゃなくてだな、団体とその団体名っていうか……」


「?」



オレンジ髪の少女は不思議そうに首を傾げてしまう。

どうやらだいぶ世間ズレしているようだ。



「俺の名前はムギ・ウォークマンだ。ムキでいいよ。それで、俺の左からオウエル、マチメ、ウサチ、ダボゼ」


「……覚えましたです。ムギさん、オウエルさん、マチメさん、ウサチさん、ダボゼさん、ですね?」



少女はものの見事に一発で俺たちの名前をそらんじて見せると、それから空になった皿を顔の前まで持ち上げて、



「ところで、こちらのカリーを作った方はどなたでしょう」



丸い目で俺たちのことを一人ずつ見つめてくる。



「俺だけど」



俺が手を挙げると、ギュイン!



「あなたでございましたですか!」



少女は首をものすごい勢いで回してその顔を俺に向けると、キラキラとしたまなざしを向けてくる。



「このたびは大変素晴らしいカリーをごちそうになりまして、誠にありがとうございましたです!」


「え、ああ。口に合ったようで何よりだったよ」


「はいですっ。口に合うどころか親和性バツグンでした! わたしの動力源として非常に理想的なカリーであり、さらにはその味も『得も言われぬ』とはまさにこのことで、その感想を紡ぐために言葉を選ぶことは、まるで天の川に流るる万を超える星々の、いったいどの綺羅星に願いを歌えばいいかに頭を悩ませるがごとしです」


「そんなにか」


「ですが強いて言葉に表すならば、とても美味しかったです!」


「語彙力の落差が酷いな……」



なんというか、脱力感。

肩の力が抜けてしまう。

とはいえ、まだ肝心なことを聞けていない。



「ところでさ、そろそろ君の名前を聞いてもいいか?」


「ああ、これは自己紹介が遅れまして申し訳ございませんです」



少女はペコリとその場で小さく会釈をすると、ニコリ。



「わたしはシナモン・エクスマキナと申しますです。見ての通り、天才錬金術師であり天下一のカレー好きであるタマリンド・エクスマキナ博士から生み出されたゴーレムでありますです」


「ゴーレム……!? 君がっ?」


「はいです。ところでなのですが、」



シナモンは小さく首を傾げつつ、



「タマリンド博士は今ドコにいらっしゃるのです? そしてわたしはなぜスリープモードに入っていたのでしょうか?」






* * *






──シナモン・エクスマキナ。



シナモンの記憶が定かであるのならば、彼女は天才錬金術師タマリンド・エクスマキナによって作られた、人の肉体と感情を持つゴーレムらしい。

タマリンドの正体はおそらく、俺たちの暮らす王国が興るよりも昔、多種多様なゴーレムを量産してゴーレム文明を築いたという逸話が残される伝説的人物だろう。


『だろう』という推測でしか語れないのには理由がある。

ゴーレム文明の文献が、今の世にほとんど残っていないのだ。



「──にしても、ある日突然に歴史上からその姿を消してしまった謎の高度技術文明……ゴーレム文明の生き残りと出会うとはなぁ」



遺跡内で一夜を明かし、翌日。

俺たちはさっそく来た道を引き返し、子爵家へと歩みを進めていた。

危険な竜骸平野を抜けて、ダボゼは長年の刑期から解放された囚人のごとく鼻歌交じりに軽やかな足取りだ。



「貴重すぎて、ドルフ伯爵なんて領地をほっぽって会いにきそうだぜ」



確かに、ピザ窯ゴーレムの時もハシャぎようを見ればそれはあり得たが、しかし。



「自重しとけ、ダボゼ。本人を……シナモンの気持ちもちょっとは考えろ」


「あ……」



俺の言葉に、ダボゼはハッとしたようにしてシナモンを見やる。

シナモンはうつむいたまま、竜骸平野から吹き付ける乾いた風に、俺たちの貸したフードマントを揺らすばかりだった。



……まだ、心の整理がつかないのかもしれない。



それもそのはずだ。

自らの生みの親が数百年以上も前にすでに亡くなっていて、暮らしていた場所も何もかもがすでに失われているのだから。

悲しく、絶望すらして当然だろう。



「す、すまねぇな、シナモン……」



ダボゼはやっちまったとばかりに気まずげに謝罪する。

だが、



「ほんっと、デリカシーのない男ですね」


「サイテーだぞぉ」


「なぜ言葉にする前に考えることができないのだ、おまえは」



寄せられるのは、メシウマ三人娘による容赦のない言葉の数々。



「は、反省します……」



ダボゼは肩を縮めて深いため息を吐いた。

その様子に、シナモンは困ったような表情の顔を上げる。



「い、いえ、そんなお気遣いをさせてしまってむしろ申し訳ないのです」


「そんな、遠慮しなくていいんですよ、シナモンさん。ダボゼはこれまでもこれからも、数々のやらかしをする学びの少ない男ですから、罵ってあげた方が本人のためにもなります」


「お、おぉ……そうだったのですね、理解しましたのです」



オウエルの言葉にシナモンはコクコクと首を縦に動かした。

ちょっと素直すぎる気もする。



「とはいえ、本当にお気遣いはしないでいただきたいのです」



言って、シナモンは自身の頭を押さえて、



「記憶領域が破損でもしているのか、過去の記憶がほとんど無く、何百年もの時間を眠って過ごしていた実感がまだあまりないですので」


「……そうか。一晩明けても思い出せなかったか」


「はいです。タマリンド博士に生み出してもらったことと、カリーがわたしの動力源であること、そして伝説のカリーレシピ以外は、ほとんど……」



腕を組んでうなるシナモン。



……そう。それが俺たちがシナモンを連れて、早々に遺跡から引き返したわけでもある。



シナモン自身に記憶も行き場もない現状、誰かが彼女を安全圏で保護する必要があった。

加えて、伝説のカリーレシピを見つけることもできたのだ。

それは紙や石板に記されているようなものではなく、シナモンの頭の中に、記憶として存在しているものだった。

ゆえに子爵家に戻るタイミングとしてはばっちりだろう。

ただ、カリーレシピについては少し問題があった。



「オウエル、その伝説のカリーレシピについてだけど」


「……申し訳ございません、ムギ様」



俺が話を振ると、オウエルは悔しそうに唇を噛む。



「いまだ暗号化されたレシピを紐解けず、またその見込みもない状況です……」



伝説のカリーレシピは暗号化されており、しかもそれはシナモン本人にも解けない難問だったのだ。ゆえに、メシウマ内で一番の頭脳を持つオウエルに解析してもらっていたが、進捗は芳しくない様子。



「いや、仕方ないさ。気にするな」



オウエルに解けないなら俺たちの誰にも解けないだろう。

自分たちにできないことをやってもらっていて、文句など出るはずもない。



「やっぱり一度、暗号化されたそのままの状態でスター子爵の元に持っていくしかないな」


「大丈夫でしょうか……暗号化された読めないものを持って行って、子爵家の不興を買わなければいいのですが」


「そのときはそのときだ」



その後、しばらくして俺たちは子爵家へとたどり着く。

そして謁見の場へと車椅子で現れたスター子爵とそれを押す姪の対応は、予想外のものだった。



「──ご苦労様でした、メシウマのみなさん。暗号の解読なら私ができますので、しばらくお待ちを」



「面白かった!」


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