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え?ギルド内で唯一【コック】を極めてる俺をクビですか?  作者: 浅見朝志


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第70話 ヘビ肉の酸っぱい煮カレー

「……今、喋ったよな?」



言って、俺はその少女を見やる。

オレンジ色の長い髪を地面に広げ、再び目をつむってしまったその子を。



「ええ、私も聞きました」



オウエルは少女の裸体を隠すように、リュックから取り出した毛布を優しくかける。



「そして……その口から光線を放ったところも」


「だよなぁ」



ということは、見間違いではない、ということだ。

改めて少女の顔をまじまじと見てしまう。

年の頃は十五かそこら、恐ろしいほどに美しく顔の整った子だ。

それはまるで超絶技巧で作られた人形のようで、だからこそ俺は、ガラス球の中の彼女を一目見たとき、すでに亡くなっているものだとばかり思ってしまったのだろう。



「この見た目でドラゴン? ってわけでもないだろうしなぁ」


「ムギ殿、これは私見だが、先ほどの一撃はドラゴンブレスとはまた違った気がするぞ」



マチメもまたうーんと唸って、



「ドラゴンブレスは魔力によるものだったが、これはなんというかもっと……」


「もっと?」


「どことなくスパイシーで、お腹が空く香りがしたような?」


「……へ? お腹?」



俺が聞き返した、そのとたん。

グゥゥゥッと大きな腹の虫が鳴った。



「……! わっ、私ではないぞムギ殿っ! これでも、時と場合くらいはわきまえているつもりだ!」


「わかってるよ」



今の音が聞こえたのは、マチメの腹からではない。



「今のはこの子の腹から聞こえていた」



俺たちが目をやるのは、今も眠りに就く少女。

光線を放った少女。

そして……眠りの間際に『カリーが足りない』とポツリとこぼした、その少女の腹。



「……考えていても仕方がないよな」



なにせ手がかりなんてものは皆無なのだ。

であれば、ここでいくら頭を悩ませていても望む答えが得られるわけもない。

それに、俺たちの後ろには今、ちょうどよく腹を満たす食材まで転がっている。



「メシにするか」



俺が提案するやいなや、再びグゥと。

今度は三人娘たちの腹が鳴る。

なんとも本能に忠実な素直な返事だった。






* * *






さっそく、俺は巨大ヘビの解体にとりかかることにする。

今回ばかりは誰かに手伝ってもらうわけにもいかない。

なにせ相手はヘビ。毒を持っていることもある個体なのだ。解体には慎重な作業が必要とされる。



「とはいえ、牙のある頭部分はもう吹き飛ばされているんだよな……」



少女の光線によってヘビの頭はもはや跡形もない。

であればすでに毒の心配はない……なんてことはない。



「問題は毒腺だな」



ほとんどのヘビ型モンスターの場合は後頭部の皮膚下に毒腺があるはずだ。

とすると、もろに光線の直撃によって弾けてしまっている可能性がある。



「念のため、毒がかかったり染み込んでいそうな場所は廃棄するか……もったいないけど」



俺は頭の傷口から五メートルほど離れた位置から、料理拳ナイフの型でヘビの体をストンと切り落とす。そしてそのまま断面、竜のように赤く硬質なウロコと肉の間に手を刺し込んで皮を剥いでいった。



「ムギ様っ、野菜は乱切りでよろしいでしょうか?」



尋ねてきたのはオウエル。

俺が調理に使う用にいくつか持って来ていた野菜をカットしてくれていた。



「カレーを作るのですよね? 具材はどれくらいの大きさにしますか?」


「そうだな、今日はオウエルの好きな食べ方に合わせるよ」


「! わかりましたっ、では小さめの乱切りにします! やっぱりカレーは、食べたときに野菜の食感が残っていると嬉しいですものね」



機嫌よく、リズムもよく野菜を切っていくオウエルへと、



「うぅ、グスン。私は煮込んで煮込んで具材がぜんぶトロトロになったカレーが好きだぞぉ」



涙を流しつつの主張をしたのはウサチ。

タマネギのみじん切りが過酷なようだ。



「カレーの好みか……」



マチメは綺麗に拭きあげた土鍋に米を入れて水を張りつつ、悩ましそうに天井を仰ぐ。



「私はそうだなぁ……お肉や野菜がゴロゴロとしているヤツが一番好きだったかもしれないな」


「マチメさんも私と同じ好みでしたか。よかったです。やっぱりカレーはさっぱりしたカレースープといっしょに掬って食べるのが一番美味しいですよね」


「ん、スープ? いや、私が好きなのは全体的にカレーの味のソースをまとった野菜やお肉の炒め物、という感じのものなのだが」


「えっ……?」



どうやら三人そろってカレーの好みは違うらしい。

まあ、そりゃカレーなんてひとくくりにはしても、その実態は国や地域によってもバラバラなのだから、好みが分かれたって不思議じゃない。

ちなみにマチメの言っていたカレーは <ティッカマサラ>だろう。

水の代わりにヨーグルトを使ったりなんかして、ドロドロのソースを作って肉と野菜と絡めるのだ。あれもまた実に美味なカレーである。



「へへっ、なんだぁ? 好きなカレー発表会かよ」



少女のかたわらで腰を下ろしていたダボゼまで参加してくる。



「俺はやっぱり牛すじカレーライスだな! ホロホロに崩れてカレーと一体になった牛すじをライスにかけてよぉ、いっしょに頬張るんだ。すると口の中にトロリ、ジンワリ旨味と牛すじに染みた赤ワインの芳醇な香り、そしてスパイスの爽やかな風味がいっぱいに広がってよぅ……! くぅ! たまんねぇーよなぁっ!!!」


「ダボゼ、ちゃんと働いてるか?」


「え? いやでも、この女の子を見張ってる必要があるし……」


「眠ってるんだからそのままにしておいてあげたらいいだろ?」


「でもホラ、いきなり暴れ出すかもしれないだろ?」


「そしたらすぐ側にいるダボゼがまっさきにやられることになるだろ。戦えないんだからさ」


「……」



気まずげに視線を逸らすダボゼ。



「他に何もすることがないならヘビのウロコを集めておいてくれ。煮込めば喰えるかも」


「喰えるかよそんなモン……というかよぉムギ、俺はここに来るまでに走り回ってもう疲れちまってなぁ……」



やはり、見張りというのはただの腰を下ろす口実だったか。



「カレー。要らないのか? 働かざる者喰うべからずだぞ?」


「……わかったよ、働きゃあいいんだろ、ちくしょう!」



ダボゼはしぶしぶ少女のかたわらから立ち上がると、俺が剥がしたヘビの皮から、さらにウロコを剥がして集め始めた。






* * *







コトコトコト。

各種パウダースパイスとタマネギ・その他の野菜をしっかりと炒めた鍋に少しの水を加えてじっくりと煮込み、カレールウは完成した。

土鍋で炊いていた白米もバッチリだ。



「あの、ところでムギ様」


「ん? なんだ?」


「調理中から気になっていたのですが、ヘビ肉は……?」


「そっちも大丈夫だ。しっかりと準備できているからさ」



カレールウとは別に用意していた少し小さめの鍋。

ヘビ肉の準備はそちらでしてあるのだ。

その蓋を開いて見せると、ウサチら三人娘があぜんとしたように口を開けた。



「真っ黒……だぞぉっ!?」


「そうだな。酒・醤油・各種スパイス……それにたっぷりの酢といっしょに煮込んでいたからなぁ」


「お醤油にお酢……!? カレーにお醤油をかけるのかぁっ!?」


「醬油も酢も、スパイスとはかなり相性がいいんだぞ?」



鍋の中身を掬ってみる。

トロトロにはなっていなかったが、しっかりとヘビ肉に穴をあけておいたので、中まで味は染み込んでいそうだ。


俺は平皿の上へとホカホカ白米を平らに均して載せ、そのライス半分にかかるように上から野菜カレーのルウをたっぷりとかけていく。そして最後に、さらにその上から黒いヘビ肉の醤油スパイス煮を載せた。



「完成! 『二色カレーライス~スパイシー野菜カレーとヘビ肉の酢っぱい煮カレー~』だ。さあ召し上がれ」


「「「い……いただきます!」」」



三人娘とダボゼらは、おそるおそるといった様子でカレーを掬うと口へと運んだ。

そして、その目を見開いた。



「び、びっくりするくらい美味しいです……!」



最初に口を押え、そう感想を漏らしたのはオウエル。



「ヘビ肉ということで少し覚悟していましたが、お肉の臭みもなければお酢の匂いも全然なく、ただただ香りのいいスパイスと少しの酸味が舌の上をなでていきます……! そして噛めば噛むほど野菜カレーと味が混じっていって、スパイシーさが増していくのがとてもおもしろいです……!」



そう言って、力強いグッドサインを俺に向けてくる。



「むふぅ、美味(んみ)ゃあだなぁ! やっぱりムギはすごいなぁっ!」



「素晴らしい味わいだぞ、これは! 本当にヘビ肉なのか!? お肉が口の中でホロホロと角煮のようにほぐれていくぞっ!? こんなの……おかわりせずにはいられないじゃないか!」



続いてのウサチとマチメからも好評のようだ。

ダボゼも……「んん、んまい! んまいな!」とモクモクと食べている。

どうやら久しぶりのカレーは大成功のようだった。



「さて」



俺はカレー皿の一つを持つと、立ち上がる。

本題はむしろ、ここからなのだ。

向かう先はいまだ横たわり眠る、謎のオレンジ髪の少女だ。



「カレー、できたぞ。喰ってみるか?」



声をかけてみるが、反応はない。

試しに俺はカレーをスプーンでひと口分だけ掬うと、それを少女の鼻先まで持っていった。

すると、



「──カリー検知。再起動しますです」



そんな声とともにパチリ。その目を見開くやいなや、



「うやぁぁぁ! カリーが! 起きたらカリーが目の前にありますのです!!!」



少女はエサに喰いつく鯉のように口をすぼめ、俺の差し出していたスプーンの先をチュポンとその口に吸いこんだ。



本日AM11時より、以下のコロナEX様において、

本作のコミカライズ作品【第四話②】が配信予定です!


https://to-corona-ex.com/comics/227349160853697


ムギの戦闘シーン再び!

そして先輩ミルガルドも登場です。

ムギがかつて伝説的&猟奇的な冒険者である【腹喰い】だと知って、果たしてオウエルがどんな反応をするのか・・・!

(その話kwskとメモを取ります)


まだ前話を読んでいない方も、ぜひこの機会によろしくお願いいたします。

ぜひぜひマンガ版も楽しんでいただけますと幸いです!


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【 書籍1、2巻発売中! 】

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