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第7話 餌付け?

「さすがはムギ様、見事なご手腕でした」



背中に小柄なウサ耳少女をおぶり、そして頭にスコーピオンの剥き身を載せて帰ると、オウエルが拍手で迎えてくる。

褒めてもらえるのはありがたいんだけれどもさ、



「とりあえずこの子頼むわ」


「かしこまりました。ああ、やはり。"ウサチ"さんでしたか」


「ウサチ?」



俺が剥き身を降ろしつつ訊き返すと、オウエルは自身の手荷物を枕代わりにその少女を寝かしながら、



「マグリニカの四天王に数えられる冒険者の1人ですね」


「四天王……それダボゼも言ってたな?」


「ええ。ダボゼが作った制度ですので。ご興味など微塵も無いことは存じておりますが、いちおう説明いたします」



オウエルは眼鏡の位置を直し、俺へと向き直る。



「ダボゼはマグリニカを代表する"主要冒険者"の中から、特に"力"、"堅さ"、"速さ"、そして"知"の面で抜き出た才能を発揮しギルドに貢献する者たちへの超優遇制度を作りました。それが四天王です」


「超優遇って……実力に応じて給料が変わるっていうのはギルド創設時もそうだったと思うけど、その時とはどう違うんだ?」


「具体的な優遇の一例としては、"高級住宅"が与えられます」


「住宅っ!?」


「それに加えてハウスキーパー、馬車とその御者なども専用の者が仕えます。さらに給料は駆け出し冒険者の数百倍に相当しますね」


「オイオイオイ、いくらなんでも盛り過ぎだろっ!」


「あとは……」


「まだあるのかよっ」


「月に一度のダボゼとの食事会への招待券ですね」


「それは要らねーな……」



とはいえ、確かに破格の優遇っぷりだ。

それだけ特典が盛りだくさんなのであればダボゼになびく冒険者がいるのも頷けるというものだ。


まあその分だけ他の冒険者たちが安月給でこき使われているという事実があるから、俺は賛同しかねるけど。



「で、このウサチって子もその優遇で買収された1人ってことか?」



地面に横たわるウサチを見る。

一見してそんなに金にがめつい子とは思えないが……



「いえ、どうでしょうね」



オウエルは首を傾げて言う。



「ウサチさんとは私も業務でときおり顔を合わせていましたが、無口で表情もあまり変えない方なので何を考えているのか分かりかねていたのです。ただ……」


「ただ?」


「ムギ様の食堂の常連ではありましたね」



オウエルがニヤリと意味深な笑みを浮かべた。


え、なに?

そりゃ食堂は俺の居たところひとつなわけだから自ずと常連になるのは自然な流れだとは思うけど……

それがどうして"ニヤリ"に繋がるんだ?



「まあともかく、腹を空かせてるヤツをそのままにはしておけん──料理()るか」



俺は腕をまくる。

獲れ立てプリップリのスコーピオン肉……

コイツはこんがり焼き目をつけたホットサンドにしてやろうッ!



「では私は野営の準備をしてしまいますね」


「頼んだ!」



オウエルがテントなどの準備をしてくれている間に、俺は火を起こし調理準備に取り掛かった。

スコーピオン肉は身が淡白で分厚い分、どんな味つけもできて食べ応えがある。

味変し放題というわけだ。



「ガーリック&ハーブで味付けをしたバツグンの風味のホットサンドに、ソイソース&ペッパーで病みつき間違いなしの濃いBBQホットサンド。あちらを食べればこちらも食べたくなる板挟み料理(サンドイッチ)ディナーで決定ッ!!!」



ジュウッ!

スコーピオン肉を豪快に焼き、味付けをしていく。

手持ちの調味料はケチらない。

いま作る料理を最大限美味くする……

それが俺のコックとしての信念だ。



「朝・昼・晩のどんなシチュエーションにも対応できるバゲットを持ち歩くようにしていて正解だったぜ」


「準備が良すぎますね、さすがムギ様です」



野営の準備をたったひとりで終えてくれたらしい超有能秘書オウエルがツッコミか褒め言葉か微妙な線で俺の太鼓持ちをしつつ、起こしたウサチを連れてやってきた。



「スンスンっ、このニオイは……"サンド"っ!?」



鼻をピクピクとさせつつ、ウサチはゾンビのようにヨタヨタと俺の方へと歩み寄る。

本当ならダボゼの刺客じゃないかと警戒した方がいいのだろうが……

でもまあお腹が空いてるならまずは食事が第一優先だ。



「ホレ、喰え」



俺はウサチへとガーリック&ハーブのホットサンドを手渡した。

ポタリ。

ウサチの口端からヨダレが垂れる。

ウサチは俺とサンドの間に視線を何回か行き来させた後、



「いっ、いただきますっ……」



ガブリ。

ホットサンドへと喰らい付いた。

そして飛び出すんじゃないかというほどに目を見開くと、



「ウ、美味(ウミャ)ぁぁぁ~~~」



兎人種のハズのウサチは産まれたての子ネコみたいな声を出して頬を押さえた。



「サンド、サンドぉぉぉ……」



よほど腹が減っていたのだろう。

ウサチは泣きながら、しかしとても嬉しそうにピスピス鼻を鳴らし心底ウマそうにホットサンドを頬張っている。

口に合ったようでよかった。



「ホレ、違う味もあるぞ」



ペロリと一個食べてしまったウサチへと、今度はBBQ味のホットサンドを差し出した。

すると、



「ありがと……」



ウサチは俺の方へドンドン近づいてきて、

ポスリ。

俺の膝の上へと座った。

そしてピスピスと鼻を鳴らしながら、ホットサンドを受け取るとまた食べ始めた。



「えっ?」



俺は思わず首を傾げて、オウエルを見る。

オウエルもまた首を傾げていたが、



「まあ……敵対意思はまるで無いようですね。予想通り」


「そうだな……って、"予想通り"?」


「何でもありません。それよりムギ様、私たちも食べませんか?」



オウエルもまたお腹を押さえていた。

まあ、そうだよな?

俺たちも昼から何も食べてないワケだし。

俺も腹が減ったよ。



「じゃ、いただきます」



俺とオウエルもまたホットサンドを食べ始めた。

うん、味がしっかり付いていてジューシー。

我ながら会心のデキだ。

マグリニカ脱退後初の料理は大成功のようだ。


ここまでお読みいただきありがとうございます。


もし「おもしろい」「続きも楽しみ」と思ってもらえたら、

1つからでも評価やブックマークをいただけると嬉しいです!


明日もよろしくお願いいたします。

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