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ひよこ転生  作者: 野々村
2/2

②そして伝説へ

今回で2回目ですが最終回です。

「次は何に生まれ変わりたい?」


隣のひよこが、まるで辞世の句を語るようなトーンで、ぽつりと問いかけてきた。


何に?それは決まっている。俺は人間に生まれ変わりたい。

しかも、生まれつき容姿端麗のイケメンとしてだ。


人間ってやつは、本当に不公平だ。

生まれた瞬間から、才能や容姿に大きな差がある。

来世こそ、恵まれた才能と外見を持ち、楽しい人生を送ってみたい。


だが、隣のひよこは俺の願望を聞いて、鼻で笑った。


「人間に生まれ変わる?それ、宝くじの1等前後賞合わせて2回連続で当てるよりもはるかに難しいぞ。

人間に生まれるってことは、あり得ないくらい運のいいことなんだよ。

人間なら、体力や知力がなくても、そこそこ生きていける。三食与えられて、寝る場所にも困らない。天敵に怯えることもない。」


そう言って隣のひよこは、軽く肩をすくめる。


「そんな人間というプレミアチケットを手に入れたことにも気づかず、自分の命を粗末にする人間もいる。愚かな話だよ。」


知らなかった。

人間に生まれることが、プレミアチケット並みの幸運だったなんて、考えたこともなかった。

その事実が、胸にぐさりと刺さる。


俺は前世で、本当にそのプレミアチケットを活かしていたのだろうか?

才能に恵まれた人間を羨み、嫉妬しながら、少しでも近づこうと努力したこともない。


――もう人間に生まれ変わることは、ずっとないのかもしれない。


ベルトコンベアーの先で待ち受ける回転する何かよりも、その現実のほうがよほど恐ろしく思えた。


********************


「俺?俺はそんな高望みはしないさ。人間なんて、競争率が高すぎて、まず抽選に当たらないからな。抽選にはずれた後には、次の候補を選ぼうにも、とんでもない生き物しか残ってないし。」


――来世って希望制と抽選で決まるのか…。


「俺は、次はイースト菌がいい。パンを焼くために必要な生き物だ。

おいしいパンを焼くのに役立って、人間の喜ぶ顔を見られたら、それで満足だよ。」


――俺は、せめて、せめて来世は犬になりたい。近所のきれいなお姉さんがいつも散歩させているチワワ、あれがいい。


チワワなら、きっと一人暮らしの女性に飼われる可能性が高い。

ベッドで寝息を立てるお姉さんの隣にこっそり潜り込む――そんな夢のような生活を送りたい。


でも、犬も競争率が高いんだろうな…。

生まれた瞬間に保健所行きの犬もいるだろうし。


********************


「でも、ここの工場はまだマシだよ。

この先にある回転するシュレッダーに飛び込めば、苦しむことなくあの世行きだ。

他の工場だと、ひよこがそのまま袋詰めされて、圧死するか窒息死するか、そんなひどい扱いもされるらしい。

そうなったら、かなり苦しむことになるだろうな。」


隣のひよこは、まるで日常の雑談でもするかのように、恐ろしい話を続けていた。

俺はその話に耳を傾けながら、なんだか遠い世界の出来事のように感じていた。


「最後に一つだけアドバイスだ。シュレッダーに飛び込むときは、頭から行った方がいいぞ。

足から行くと、脳がまだ生きている状態で、下半身から粉砕されるから、ほんの少し苦しみを感じるらしい。

まあ、ひよこ人生最後の思い出として、ちょっとだけその恐怖を楽しむのも悪くないかもな。あっはっは!」


俺はその言葉を聞き流しながら、そんなことよりも来世で何になるかが気になっていた。

早く決めないと、希望制と抽選でとんでもないことになる。

俺は必死に考えをまとめようとしたが、頭の中は混乱するばかりだ。


そして、無情にもベルトコンベアーは動き続け、考えがまとまらないうちにシュレッダーの中に俺は吸い込まれていった。


********************


気づくと、まったく違う世界にいた。


ここはどこだ?

周りを見渡してみるが、色も形もない、まるで四次元のような不思議な空間が広がっている。


自分の姿を確認しようとするが、どうやら液体のようにかたちのない状態になっているようだ。

一体、今度は何に生まれ変わったんだ?


混乱していると、だんだんと香ばしい匂いが鼻をついてくる。

まさか、これは…。


そんなとき、「よう!」と誰かが突然語りかけてきた。


「また会ったな!お前もイースト菌に生まれ変わったんだな。これからもよろしく!」


声の主は、さっき隣にいたあのひよこだ。


どうやら俺はイースト菌に生まれ変わって、既にパン生地の中にいるらしい。なんてこった。


そんなことを考えていると、急に温度が上がり、だんだん熱くなってきた。熱い、熱い!もう死にそうだ!


よくよく考えれば、イースト菌としてパンを膨らませる役目を果たしたら、その後は消えていく運命なんだ。

人間がおいしいパンを食べて喜ぶ顔なんて見られるはずもない。この嘘つきめっ!


「俺たちはもうすぐ死ぬ。次は何に生まれ変わりたいか、また考えとけよ。」


その声を聞くのを最後に、俺はぼんやりと息絶えようとしていた。考えをまとめる暇もなく、もうすぐ終わりが来る。


神様、お願いです。次こそは――高望みはしません、こいつと同じ生き物だけにはしないでください。

<おわり>


最後まで読んでいただきありがとうございました。

感想聞かせてもらえると嬉しいです。

人間に生まれたということのありがたさと、ひよこのオスの虐待の実態について記載した、社会派の作品になった…と勝手に思っています。

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