裁判②
厚織りの窓掛けの隙間から、冴えた朝の光が入り込んでいる。
ゆっくりと浮上する意識とともに目を開けると、愛する妻の青藍の瞳に出会った。柔らかく微笑んで、挨拶する。
「おはよう」
返事と同時に、触れ合うだけの軽い口づけ。抱き締めて、柔らかなぬくもりを感じる。
穏やかな休日の朝。気持ちが興って、今度は食むように口づけ、下がって白い肌を強く吸う。焦った声が、鼓膜を震わせる。
「あっ、ちょっとヘンリクス……! そんなところにつけたらだめよ、もうっ!」
「いいだろう。まだ冬なんだ、見えやしないさ」
華奢な鎖骨の下についた赤い痕を、舌先で舐める。ほのかに弾む、妻の吐息。腰に手を伸ばそうとして、強く手首を掴まれる。
「……だめ。もう子供達が起きる頃だから」
顔を上げて、青藍の瞳を見つめる。妻と母との間を揺らめく色。一押しで傾くと察する。
腰を合わせ、手を頬に当てて、問うように微笑んだ。白い頬が薄紅色に染まって、青藍の瞳が潤む。
「……一回だけよ?」
ああ、と答えて、引き合うように口づける。絡んで深くなるとともに、寝巻きの裾をまくり上げていく。と、
「――ご主人様。お寝みのところ、申し訳ございません」
扉の叩く音とともに、下女の声がした。
一瞬無視しようかと、大人げない気持ちが湧いたが、わざわざ朝に呼びかけてきたのだ。何か重大事が起きたかもしれなかった。
仕方なく寝台から下りて、寝巻きの上に羽織を着る。わずかばかりの隙間から顔を出すと、申し訳なさそうな表情が見えた。
「……どうした?」
「従家の次男様がお見えです。当主様から火急の言伝がある、とのことで――」
嫌な予感に背筋がさざめく。
頷いて下女に礼を言うと、振り返って、仕事だと妻に告げる。甘く微睡んでいた表情が、ぐっと引き締まる。下女を呼びつけると、身支度を手伝うよう指示した。
扉を引き開けて下女を通し、居室に出る。気配に敏く気づいて、アドルフがソファから立ち上がって、礼をした。
「すまんな。こんな格好で」
「いえ、朝早くに申し訳ありません」
定型の挨拶を返しつつも、若緑の瞳に灯る微妙な表情。寝坊がばれたな、と心中で苦笑する。
「ブラッツから言伝だと聞いたが?」
応えて、封筒が差し出される。糊で貼って、印をつけただけの簡易な閉じ方。
端を千切って、一枚の紙を取り出す。たった数行の文言に、戦慄した。
――ワルターが、次代様の秘密について、証言しました。ルキウス前王太子の暗殺に対する嫌疑で、明朝から宰相の事情聴取が行われます。
全身から、血の気が引いていく。もし宰相が罪を認めて、裁判でワルターの証言が強化されるようなことがあれば、周囲の耳目は、確実にフェリックスに集まる。
王家ノクサートラ家の血筋が途絶えた今、正統な嫡子の存在は、まさに僥倖であり、輝かしい希望だ。
そんな状況を、フェリックスがどう受け止めるか。一途で真っ直ぐな心が、邪気のない悪意に追い詰められたら――。
封筒に便箋を仕舞いながら、アドルフに告げる。
「お前、騎士舎に戻るだろう。俺も執務館に行くから、少し待っていてくれ」
「承知しました」
礼をする姿を一瞥し、身支度すべく、すぐさま寝室に戻った。
雪の轍を、ゆっくりと進む馬車。緩慢な速度に、苛立ちが募る。
それでも、歩くよりは速いのだ。白銀に冴える朝の街並みを眺めながら、何をすべきか考えを巡らせる。
と、とげ立った沈黙に耐えかねたのか、遠慮がちな声が、耳をかすめた。
「……法務官様に……宰相様の事情聴取の中止を求めることは、難しいでしょうか」
思考の邪魔をするな、と一瞬言い放ちそうになるが、不安に揺れる若緑の瞳に、冷静な心持ちが降りてくる。
細く長く溜め息をつくと、静かに答えた。
「無理だな。法務官が事実を捻じ曲げたら、法への信頼は揺らぐ。そうなれば、誰も守ろうとはしなくなる。家の威信どうこうではなく、治安に直結するからな」
若緑の瞳が、苦しげに歪む。落胆の少ない色。わかっていて、それでも言わずにはいられなかったのだろう。哀れさに、胸が詰まる。
戦慄く、仕官服の裾を握る手。訴えるように、真っ直ぐに見つめる目を受け止めて、しかし、肯定も否定もしなかった。非難する色が浮かぶ。
「……昨日の夕方――馬車に乗ろうとする兄を見かけて、声をかけたんです。そうしたら、一緒に帰ってくれないかって……」
馬車が、緩やかに速度を落として停まる。馭者が挨拶を交わす声。ややして、再び発進する。
「新婚だから、邪魔したら悪いと思いましたが――様子がいつもと違ったので、ついていきました」
身体が左に振れて、角を曲がったと知る。アドルフの苦渋に満ちた声が、鼓膜を打つ。
「兄が言ったんです。――フェリックスを傷つけてしまった。僕は選べなかった、と……」
ゆっくりと、血の気が引いていく。
エルドウィンは、まさに命綱だ。二人の間に、一体何があったというのか。
「それから――義父上のことで、イドニアを責めそうになったら、止めてほしい、と。……それで、証言の内容を知りました」
仕官服に、さらにしわが寄る。街区境の敷石を踏んで、がたりと、馬車が軽く跳ねる。
「兄は話してくれませんでしたが――おそらく次代当主として、ご当主様を優先したんです。本当は、全力で次代様のために動きたかったはずなのに。……あんなに混乱した兄を……初めて見ました」
さざめいて、腑に落ちる。苦しさが、心を食んだ。
従家にとって、何よりも重んじるべきは、主家の要である当主だ。どんなにかけがえのない存在だと大切に思っていても、天秤にかけろと迫られれば、当主を選ぶ。
頭ではわかっていても、深く繋がった心が、追いついていかない。
傍にいるって言ったくせに、と詰る少年の日の声が、心にこだまする。フェリックスとエルドウィンの心中を思うと、たまらなかった。
「……真実なんて……どうでもいい」
微かに震えながら、ぽつりと落ちる言葉。若緑が滲んで、悲しく声が裂ける。
「俺はただ……次代様と兄が苦しむところを、見たくないんです」
切実に訴える面立ち。
気持ちは痛いほどわかったが、賛同するわけにはいかなかった。
「……俺にとって、フォルティスもエクエスも、大切な家族だ。だがな、だからこそ――その場の感情だけで、動くわけにはいかん」
若緑の視線が逸れる。もどかしそうな表情。若者らしい直向きな姿に、わずかばかり心がほどける。
正門の前で、馬車が停まる。
掛け金を上げ、小さな窓を開けて、近寄ってきた門番に騎士証を渡す。紙面を確認し、他の門番に声をかける。鉄扉の開く軋んだ音。
差し出された証を受け取ると、馬車が緩やかに発進した。
気を遣ってついてこようとするアドルフを、休むのも仕事だ、と諭して、宿舎に帰し、一階の従家当主の執務室に向かった。
扉を叩くが、反応がない。不在かと思って、とりあえず待とうと押し開ける。
奥に進んだ先、二人掛けのソファにブラッツがいた。
肘掛けに、長い脚を投げ出して寝入る姿。起こさないよう、そっと対面に腰かける。しかし、敏い感覚に触れてしまったらしく、うっすらと瞼が開いて瞬いた。
秀麗な顔を眩しそうにしかめて、微かに呻く。ゆっくりと視線が向き、寝起きの声が漏れた。
「……ヘンリクス――知らせが、届いたんですね……」
「すまん。起こしたな」
ゆるゆると首を振って、緩慢に起き上がる。思いきった伸び。ふあと欠伸がこぼれて、容色の変わらない顔が苦笑する。
「もう歳ですね。この頃、夜勤明けから続けて、起きていられない」
否定しかけて、酷く疲れた表情に言葉を止める。そっと、静かに問う。
「大丈夫か? なんなら、仮宿室で寝た方が――」
「いえ、もう十分ですから」
全くそんな様子には見えず、言い募ろうとする。しかし、察したように話し始めた。
「現状ですが――裁判の終了が夕方だったのが幸いして、証言の内容は、まだそれほど広まっていません。ただ、明後日は週末ですから、それ以降は期待できないでしょう」
同意しつつ、厄介なことになったと唸る。
六貴族において、当番制を全面的に採用しているのは、フォルティス家だけだ。シエンティア家でも、医務と刑務に関わる者達は当番制だが、他は週に沿う。
そのため、週末は、食事会など交流の場が開かれやすい。噂が噂を呼び、余計な尾ひれがつく可能性も高まる。
疑念が強まる危険はあるものの、長兄を頼って、箝口令を敷くよう要請すべきか。あえて放っておいて、偽証だと思わせるか。
逡巡していると、苦しげな声が落ちた。
「……今朝、ご当主様の要請で、事実無根であるとの申し入れ書を、法務官様に提出しました。法務官様は、正当な裁判での証言だから、恣意的な操作は認められない――ただ、暇潰しの種になるのは本意ではない、通達は出す、と仰いました。ただし――裁判後に、審理の場を設けるのが条件だ、と」
「ちょっと待て。義父上の要請だって……?」
あまりにも意外な対応に仰天する。
五歳上の長兄は、ルキウス前王太子が立太子する前から仕官している。反応は当然だ。そんな簡単なことを、義父がわからないはずがない。
秀麗な顔が、苦しげに歪む。明緑の瞳が、滲んでいく。
「……もうずっと前から――ご当主様は、フェリックスをご自身の子として話す時があるのです。……まるで、全てを忘れてしまったかのように」
衝撃に息を呑む。
感情のない、彫像のような巨躯。淡々と言葉を発する普段の義父からは、全く想像がつかなかった。
「私は、あの方の孤独を埋めることができなかった……その結果、二人も差し出した」
歳月を重ねた瞳から、色が消えていく。口元だけが微笑んだ、不均衡な表情。平板な声が、滑り落ちて語る。
「まだ子供だったあの子にとって――嫡子として、ご当主様を父と仰ぐことが、生きる術だった。腹心も奥方も喪ったご当主様には、望んでも得られなかった男子を育てることが、生きる喜びとなった。そうして今は――フェリックスが、あの方の心の杖なのです」
血の気が引く。昨年末の、穏やかだが不敵な微笑が、心に閃く。声が、戦慄いた。
「……ブラッツ……お前、わかっていて……」
「あの時言ったことは、全て本心ですよ。ですが、あなたが思うほど――あの二人は、単純ではありません。引き剥がそうとすればするほど、閉じていく。陛下がお還りになり、抑える存在がなくなってしまった。どう転ぶか――もう誰にも、わかりません」
まるで、幼い子供に言い含めるような、饒舌な単語の羅列。心底苦しんでいる時の話し方だとわかっていても、沸々と湧く怒りに、声が荒くなる。
「……どうして、話さなかった」
「あなたが、望んでいたから。知ればあの時、配置の転換を指示しなかったでしょう?」
首を軽く傾げて、薄く微笑む秀麗な顔。
瞬間、かっと目の前が真っ赤に染まる。低い卓に片膝をついて身を乗り出し、胸倉を掴んだ。表情の張りついた顔の前で、絶叫する。
「俺にとって、義父上もフェリックスも、大切な家族だッ! あの二人を守れるなら、屑野郎が生きてのさばっていようが、いくらでも耐えてやる! そんなこと、お前はわかっていただろう!」
「――ああ、わかっていたよ!」
久しぶりの声音が、鼓膜を打つ。明緑が、強烈な光を宿す。
「それでも、俺はあなたを選びたかった! あの日、傍にいられなかったから……! ご当主様を、選んでしまったからっ!」
白い頬を、とめどなく涙が伝っていく。
二十年近くもの間、何度顧みて、何度自責したのだろう。視界が滲み、手が震えた。たまらず抱き締める。
怯えたように強ばる身体。腕に、力をこめる。
「もういい、ブラッツ。もう、十分だ。お前は、選ばざるを得なかった。従家当主として、当然のことをしただけだ」
震える嗚咽を聴きながら、よく晴れた夏の日差しのような弾む匂いを感じる。
成績優秀として、シエンティア家出身ながら、特別に補佐官がついた、十四歳の日。
実家の特性から外れ、苦しんでいた心を抱き締めて、傍にいよう、と約束してくれた。師としてだけでなく、弟として大切に可愛がってくれた。誰よりも家族で、大好きな兄だった。
最後に触れたのは、あの日の翌朝だった。自室に訪ねてきた瞬間に殴り倒し、馬乗りになって責めた。
「俺にとって、お前は――」
息が、ぐっと止まる声。心を刺す痛みに、涙が溢れる。
今ならわかる。感情任せに振りかぶった拳など、あの一瞬でもよけられたのだ。
「――最高の〈兄上〉だ。シエンティアの二人の兄上は、到底かなわないくらいのな」
言葉にならない嗚咽が、鼓膜を打つ。そっと背中をさすると、強ばりが解けていく。仕官服にしがみつく感触。懐かしい柔らかな体温が、心を優しく温める。
「俺達の家族を守ろう――二人でな。俺とお前で力を合わせれば、やれんことなどないさ」
肩に頷く感覚が伝わる。
心から安堵して涙する声を聴きながら、新しい一歩を踏み出すのを感じた。
法務官は、全ての六貴族及び従家に対して、節度ある対応をするよう、通達を発布した。
また、全ての裁判の結審後、総帥次代当主の出自について、審理を行うことが決定された。
これにより、表面上ではあるが、平静は保たれ、公判が滞りなく進行する下地が整った。
宰相従家当主の証言を受けて、法務官は宰相を呼び出し、事情聴取を行った。
宰相は、前王太子ルキウス・レクス・ノクサートラ、前王太子妃及び嫡子の暗殺を企図したことを認めた。
そして、紺青の瞳の男児が、フロス街マニュルム地区にいるという噂を聞きつけ、宰相従家当主に、捜索し連れ戻すよう命じたと話した。また、総帥次代当主は間違いなく前王太子の嫡子であり、あの紺青の瞳が何よりの証だと述べた。
宰相従家当主が計画した、嫡子の殺害への関与については否定した上で、
「王位は、真夜の王家が継ぐべきものである。陛下に正統な血を引く子がない状況で、弑し奉る必要があろうか」
と、強調した。
法務官は、捕縛の手続きを取り、調書を作成した。裁判は同じ週の末に行うと決定した。
裁判中の処遇については、宰相次代当主の代理を務める次男が、成人前であることから、王宮騎士団の厳重な監視の下、政務に携わることが、特別に許可された。
兄が語り終えて口を閉じると、暗澹とした思いが、心を覆った。想定通りとはいえ、この聴取内容は、フェリックスにとっては、つらいものとなるだろう。
通達が堰になっているものの、人の心を止めることはできない。ましてや、こういう時の視線や囁き声は、やけに鮮明に感じられるものだ。
日を追うごとに、色を失い、感情の抜けていく紺青の瞳を見るにつけ、恐ろしさが心を食んだ。
膝に両手をつき、深く頭を下げる。
「ありがとうございました、兄上。ご配慮は、有効に使わせていただきます」
「……次代の様子は……どうだ?」
顔を上げると、気遣うような青色の双眸に出会う。
聴取内容を内密に開示する、という異例の対応。立場上、為さなければならないことはあっても、兄なりに心配なのだと知る。
「あまり……芳しくはありませんね。王宮でも宿舎でも、常に人目に晒されますから」
難儀なものだ、と眉骨の影で、青色がゆっくりと瞬く。浅い溜め息。これほど明確に憂いを見せる姿が珍しくて、思わず凝視してしまう。
ふと、彫りの深い顔が苦笑する。
「私とて、真実が全て正しいとは思わん。務めの結果、人を追い詰めるのは……やはり、心の痛むことだ。それに――」
厳格な面立ちが、柔らかく綻ぶ。青色の双眸が、冬の昼下がりの陽光に深く輝く。
「弟の大切にしているものを、無下にするような真似はせん」
そして、ふっと笑みをこぼした。どこか懐かしむような色が、眉骨の下で光る。
「それにしても、父上の判断は正しかったのだな。外に出たからこそ、お前は居場所と家族を得た。兵舎に入れると聞いた時は心配したものだが、あっという間に馴染んで、婿入りしてしまった。全く、わからんものだ」
「本当に――父上には、感謝してもしきれません」
温かな思いで微笑む。
座学を放り出して、外を駆け回るところを叱りながら、兄弟の中でも自分に一番、甘かった父。評価試合に勝ったと報告しに行けば、誰よりも喜んでくれた。
あれほど暗澹とした心で進んだ縁談が、実を結んで、枝葉を広げている。だからこそ、絶対に守らなければならなかった。
「俺は、父上が授けてくれた家族を守りたい――引き続き、ご協力よろしくお願いします」
頷いて、兄の彫りの深い顔が、優しく微笑む。それから、思い出したように付け加えた。
「貴重な銘菓が手に入ったぞ。食べていけ」
店の名を聞いて、色めき立つ。
こだわり抜いた製法でつくられているため、数が少なくて、あっという間に売りきれてしまうのだ。昔、運よくありつけたが、それ一回きりだった。
しかし、置いてきた書類の山を思い出して、頭を振る。
「せっかくですが、溜まった仕事を片付けないと、帰れなくなりますから」
すると、ふむ、と頷いて、立ち上がった。そして、執務机の引き出しから、菓子の箱を取って、天板に置いた。
蓋が開いた途端、香ばしい匂いが、あたりに立ちこめる。それから少しして、対面に戻ってくると、白い包みが差し出された。
「土産だ。持っていけ」
ちり紙に包まれた菓子だと察して、礼を言いつつ受け取る。腰を上げ、執務室を辞した。
宰相マテウス・クラン・カンチェラリウスの裁判には、多くの傍聴希望者が詰めかけた。
最大収容人数を超えたため、入廷が制限された。あぶれた人々は、裁判所に遣いを置き、それぞれの家の執務館で、伝言を待った。
被告は、調書の通りに罪を認めた。そして、宰相従家当主と同様、総帥次代当主は前王太子の嫡子であると、証言した。事前の通達から、大きな混乱は見られなかったものの、より強固な印象を人々に与えた。
弑逆未遂罪により、斬首刑及び火葬刑が求刑された。
刑の執行は、嫡子に家系登録変更予定の宰相次男が成人するまで猶予され、当主交代後、五年経過した日が、刑の執行日と定められた。
また、長年隠蔽してきた過重刑として、宰相次代当主の処刑について、立ち会いが課された。
翌日、宰相従家当主の公判が再開された。
前回の審理で述べられた事項を確認し、前王太子と前王太子妃の殺害について、弑逆罪及び殺人罪により、火刑が求刑された。ただし、火刑は真昼の民における最高刑のため、ふたつの火刑は併合し、ひとつとして扱われる。
なお、判決の確定をもって、当主は嫡子に代替わりする。
〈太陽の剣〉の頭領である平民ウィリアム・ハワードの審判は、政の判断から、非公開で行われた。
調書の通り罪を認めたものの、悔悟の意思は見られず、煽動罪及び反逆罪により、火刑が求刑された。
商務官従家当主次男エアネスト・ラムス・メクラトルについては、風邪にかかり、病状が悪化したため、暖かくなる春に、審理を再開することが決定した。
妻ルチナ・ブラウト・メクラトルより、障害者手当を受給しないことを条件に、情状酌量による減刑の申立てが為されており、慎重に審査が進められている。
こうして、一部を残してはいるが、一ヵ月余りに及ぶ裁判が結審した。
判決は、一ヵ月半の不服申立て期間を経て、初春に確定する。




