シノブの実況配信4
月影シノブが、
俺に背を向けて、勢い良く苦無を研ごうとした瞬間、彼女のコスプレ着物が捲れ上がり、彼女のパンツが露出し、時間が停止した。
―――【パンツァー起動】―――
俺は、彼女の「白地にピンクの横ストライプ」を見ながら考える。
とにかく、今の画角はマズい。
自分の担当アイドルのパンツを、視聴者に公開することになってしまう。
もちろん、俺の尊厳と命も危ない。
パンツをサイバーネットに公開する事は、例え彼女がどんなに優しい美少女であっても許してはくれないだろう。
つまり俺は、「配信を続けたまま、月影シノブのパンツがネットに公開される事を阻止しなければならない」
一先ず俺は、背伸びをして画角を調整してみた。
ダメだ。俺の身長では足りない。どうしてもパンツが映り込んでしまう。
シノブは妙に真面目だから、完全に刃物研ぎに集中している。おそらく、今の彼女は自分のコスプレ衣装の下半身の状況を忘れている。
要するに、今の月影シノブの状態を簡単に説明すると「お尻丸出し」なのだ。
【 0.2秒経過 】
「じゃあ、左右に回り込めば良いんじゃん」と思うヤツも居るかもしれないが、事はそう簡単にはいかない。
彼女は、今、刃物を研いでいるのだ。
そんな状況で、俺が突然、瞬間移動して彼女の横や前に移動すればどうなるか?
驚いた月影シノブの集中が途切れ、苦無の刃で指や手をケガするかもしれない。それは、プロデューサーとして避けなければならない。
つまり、今の俺は、彼女に悟られること無く1~2秒の時間停止の中で、姿勢を変え、彼女の尻をカメラからフレームアウトしなければならない訳だ。
【 0.4秒経過 】
俺は、走った。
ここは、格納庫だ。VTOLや装甲車のメンテナンスの為に「アレ」がある筈だ。
今回も2秒の時間停止であれば、「アレ」を取って戻ってこられるかもしれない。
またもや賭けだが、やるしかない。
パンツと俺の命の為だ!
【 1秒経過 】
撮影ブースを出たところで、俺は運よく早速「アレ」を見つけた。
そう。「アレ」とは「脚立」の事だ。
俺はその高さ80cm程の脚立を取って、撮影ブースに戻る。
【 1.4秒経過 】
元の位置まで戻れた俺は、脚立を立て、それの上に登る。
この時点で俺は確信を持った。
間違いなく、今回も2秒の時間停止だ。
つまり2秒の間にカメラを構え、画角を調整しなければならない。
時間は残されていない。
【 1.8秒経過 】
脚立に登り、カメラを構えた俺は、愕然とした。
高さが足りない!?
俺が脚立に登っても未だに、「白地にピンクの横ストライプ」は見えたままなのだ。
おそらく、脚立の位置をもう少し前にすれば、解決はするが……
しかし、もう時間が残されていない!
どうすれば良い!?
俺の電脳が高速回転し、俺は1つの結論を導き出した。
「パンツを守り、配信も止めない」
同時に遂行する為には、これしかない!!
【 1.9秒経過 】
俺は、カメラを構えたまま、脚立の天板を蹴り、垂直方向に飛んだ。
【 ※現実で脚立からジャンプする事は危険です。あくまで小説内の演出です 】
そうする事で、月影シノブの尻は完全にフレームアウトした。
この後の俺の行動は、決まっている。
あとは、落ち着いて行動をするだけだ!!
俺の心臓が「ドクン」と大きな鼓動をする。
俺が脚立から飛び上がった状態で、超感覚「パンツァー」は終了した。
【ジャスト2秒。時間停止終了】
俺は苦無を研ごうとする姿勢で停止した、月影シノブの背中を見ながら、呟く。
「撮影再開だ」
―――【 パンツァー終了 】―――
全てが同時に動き出す。
空中の俺は、カメラを構え、撮影を続ける。
彼女は、上体をさらに前傾させた。
パンツは、見えない。
空中の俺は、カメラの位置そのままに、顔だけを下げる。
彼女は、上体をより前傾させた。
パンツは、見えない。
空中の俺は、顔だけをさらに下げる。
彼女は、上体をもっと前傾させた。
パンツが、もう少しで見える!
空中の俺は、顔だけをもっと下げる。
彼女は、上体を凄く前傾させた。
見えたぞ!パンツが!!
「白地にピンクの横ストライプ 三度目!!」
その瞬間、全ての色は消失し、音は無くなり、万物は固定される。
俺の超感覚「パンツァー」が再び起動し、時間が停止した。
俺は、これを狙っていた。
つまり……
「パンツをカメラの画角からフレームアウトさせたまま顔だけを下にし、俺だけが彼女のパンツを直接見る事で、パンツァーを再び起動させる」作戦だ。
そうする事で、俺は再び時間を止め、自由に動く事が出来る。
そして、空中の俺は叫ぶ。
「次の時間停止で終わらせる!!」
―――【 パンツァー起動 】―――
しかし、突如、頭痛と共に鼻血が出た。
俺は呻いた。
理由は、おそらく2回連続のパンツァー発動のせいだろう。
しかし、今は構っていられない。
【 0.1秒経過 】
俺はカメラを持ったまま、身を翻した。
なんとか、脚立を避けて無事に着地する事が出来た。
【 0.5秒経過 】
しかし、着地した瞬間、頭痛がぶり返し、よろめく。
やはり電脳へのダメージは、デカいのか?
俺は痛みに耐えつつ、脚立を掴む。
時間をロスした!急がなければ!!
【 1.5秒経過 】
俺は急いで、脚立を月影シノブの方に移動させ、
間髪入れず脚立に登った。
【 1.9秒経過 】
そして俺は、手に持っていたカメラを、月影シノブに構えた。
もう直ぐ時間停止は、終わる。
しかし、今回は、画角を確認できていない。
頭痛のタイムロスのせいだ。
そしてもし今、月影シノブのパンツが見えた場合、彼女のパンツがネット経由で世界中に配信され、なおかつ3連続目のパンツァーが発動してしまう。
最悪の事態だ。
もし、三度目のパンツァーが発動した場合、おそらくもっと激しく電脳への影響があるだろう。それを想像しただけで背筋が凍った。
つまり、「待った無し」だ。
パンツを見て「死ぬか」か――
パンツを見ずに「生きる」か――
どっちだ!!??
そして、再び俺の心臓が「ドクン」と、大きな鼓動をした。
【ジャスト2秒。時間停止終了】
―――【 パンツァー終了 】―――
全てが同時に動き出す。
カメラの中で、何も知らない月影シノブが、電脳苦無を研ぎ続ける。
それに伴い、彼女のミニ丈着物の裾が上下し、太腿は見えるが……パンツだけは見えない。
脚立に登り、位置を修正したのは正解だったようだ。
理想的な画角だ。
つまり俺は――「パンツを見ずに生き残った」
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