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オオエドパンツァー  作者: えいとら
1章 パンツァー
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シノブの実況配信3

 月影シノブは、ミニ丈ピンク着物で砥石や電脳苦無サイバークナイを準備しながら俺に言う。


「プロデューサーさん? カメラも大事ですが、WABIちゃんの”電脳リンク”のテストもお願いします! いざ本番で上手く動作しなければ、元も子もないですから!」


 ”電脳リンク”とは、使用者同士の思考をチャット的に送る機能だ。乱暴に説明するならテレパシーだ。


 俺が軍隊にいた頃は、こういうテレパシー的なヤツは”思考会話”と呼ばれていたが、最新鋭の戦闘AIのWABISABIでは”電脳リンク”と呼ばれる機能らしい。

 

 俺はWABISABI(わびさび)に命令をする。


「へい! WABISABI! 月影シノブと俺の『電脳リンク』を開始してくれ!!」


 美人のWABISABIは微笑みながら言う。


「かしこまりました。ただ今より電脳リンクを開始します。ちなみにお二方は『規約』はご確認されましたか?」


 俺は応える。


「『規約』って言うと……電脳リンクを開始すると、妄想とか個人情報がダダ漏れになる可能性があるけど、メーカーは損害を被らないとか言うアレだろ? 大丈夫だ。問題無い」


「了解しました。それでは電脳リンクを開始いたします」


 とWABISABIが美人な声で言ったと同時に、俺の網膜ディスプレイ上に【電脳リンク稼働中】というポップアップが表示される。


【※『』で囲まれたセリフが電脳リンク上での会話です】


 俺は電脳リンクで月影シノブに呼び掛ける。


『あーあー。本日は晴天なり…… 月影シノブ? 聞こえるか?』


 月影シノブの電脳リンクが俺に返ってくる。


『コスプレって初めてですから、ちょっとドキドキしますね? それにこの衣装、けっこう下半身の露出が多いです。凄くドキドキします……』


『おーい? 聞こえているか? 思考がダダ漏れだぞ?月影シノブ?』


『なんか、プロデューサーさんの声が聞こえますが、口を開けてませんね? 幻聴でしょうか? それにしても、このコスプレのドキドキ感、ちょっと癖になっちゃうかもしれませんね……』


『いや、幻聴じゃ無いんだが?』


『そうですか。幻聴じゃ無いんですね。……実は私、お姉ちゃんには負けますが、お胸の形にはちょっと自信があります。Cの胸は男の人に人気らしいですし、色んなコスプレにチャレンジしちゃっても良いかな? ワンチャン過激なコスプレで、万バズを狙って……』


 ここで俺は、個人情報保護の観点から、電脳リンクを強制終了させる。慌てて大きく手を振り、“肉声”でシノブに呼びかける。


「おい! 月影シノブ!! 電脳リンクが始まってるぞ!!」


 月影シノブは、「驚天動地ここに極まれり」な表情で叫ぶ。


「はぇぇええええ!?!? い、いいいつから、はは始めてたんですか!?」


 「セリフ噛む」ってレベルじゃないぐらい、噛みまくってる月影シノブに俺は言う。


「残念だが、君が『電脳リンクのテストもお願いします』って言ったすぐ後だ」


「えええ!? じゃ、じゃあ!! もしかして!? ……私の胸のサイズは?」


 俺は、知った情報を、そのまま答える。


「形の良いCカップだろ? 良いじゃないか? 俺も好きだぞCカップ。自信を持て」


 と俺が言った瞬間、彼女の顔は「ボンッ」という音が聞こえるぐらい一瞬で耳まで赤くなり、なんなら赤を超えて紫ぐらいになり、しゃがみ込んで動かなくなってしまった。


 「ヤバいな。このままじゃ撮影どころじゃ無いな」と思った俺は、彼女の肩に手を乗せ、慰めの言葉を掛けようとする。


しかしその瞬間、彼女は予備動作無しで立ちあがり、空虚な目で俺を見つめて言う。


「フランケン……シュタイナーです」


「え? は!!??」


「フランケンシュタイナーです!!」


 月影シノブは俺への殺意で目を燃やし、叫ぶ。


「プロデューサーさんは! 変態さん認定を上方修正のうえ! フランケンシュタイナーの刑に処する事が決定しました!!」


「え!? ちょ! まっ! 落ち着け!!」


 俺は後ずさったが、同時にシノブもジワジワと距離を詰めてくるので、俺たちの間合いは正確に水平移動した。


 俺は冷や汗を垂らしながら言う。


「ど、どうして君はプロレス技に執着するんだ!? それにフランケンシュタイナーはマズイ! その技をかけると、俺の顔が君の脚の間にはさまれて最高……じゃなく! パンツがずっと見える(・・・・・・)!! そうなると、パンツァーのせいで例のパラドックスがマジで発生する!!」




—————




 しばらく追いかけあった俺達は、疲れはて冷静になり、「コスプレ刃物研ぎ実況」を開始していた。


 ミニ丈ピンク着物の月影シノブが、俺の持っているカメラに向かって笑顔で話す。


「今日は、かんたんな苦無の研ぎかたです! ご自宅の包丁も同じ方法でできますので、是非みなさんお試しくださいね?」


 どうやら彼女は、得意分野なら緊張せずに話せるようだ。【 刃物研ぎ lv.2 】のスキルを持っているだけある。


 ここでさっそく、彼女から電脳リンクで俺に指示が入る。


『今から「物撮り(ぶつどり)」をしますので私の後ろに来てください』


 俺は電脳リンクで返す。


『ブツドリって何だ?』


『物撮りとは、使う砥石とか電脳苦無(サイバークナイ)を撮影する事です』


『じゃあ、最初からそう言ってくれよ』


『ブツドリって言った方が、業界人っぽくってカッコ良いじゃないですか?』


 俺は「『業界人っぽくてカッコ良い』という発言がすでにカッコ良くないんだが」とは言わず、月影シノブの背後に立ってカメラを回した。


 俺が「物撮り」をはじめたところで、月影シノブが視聴者に解説する。


「今日は、砥石を3種類使います。このパンダさんマークが荒砥石で、ヒグマさんが中砥石で、

ツキノワグマさんが仕上げ砥石です。 ですから、まず最初にパンダさんから使いますね? え? 全部クマで分かりにくい?」


 話しながらシノブは、俺に電脳リンクで指示を出す。


『この後に私が研ぎ方の姿勢を実演しますので、「引き」で撮って下さい』


『分かった。手元だけじゃなく、全身がフレームインすれば良いんだな』


『ええ。そのとおりです。私の全身を撮ってください。今から私はタスキを掛けますので、その時間を使って、ゆっくりカメラを引いてください』


 そして彼女の、「みなさん少々待ってくださいね?」という視聴者に対するセリフを合図に、俺はカメラを構えながら少しづつ後ろに下がる。


 勘が良い奴はきづいたかもしれないが、俺はカメラのズーム機能を知らない。


「マニュアル読めよ(藁)」とか「情弱乙(藁)」とか、思っている奴がいるかもしれないが、それは間違っている。


マイクロドローンでの撮影や、電脳の視覚情報の録画機能がある現代において、カメラの使い方を知っているヤツなんて、極少数派だろう。


 だからこの時の俺は、ズーム機能を使わずに撮影をしていた。


 俺がそんな事を考えている間に、月影シノブはピンクのミニ丈の着物にタスキを掛けた。


セミロングを後ろに束ねて、小さなポニーテールを作る。


 シノブが視聴者のコメントを読み上げる。


「『うなじ助かる』『うなじ最高』『富士とうなじはヒノモト人の魂』……って! み、みなさんどこ見てるんですか!? き、今日は! 真面目な配信なんですよ!?」


 とシノブは顔を真っ赤にして慌てた。もちろん、俺も視聴者と同じ気持ちになった。


 彼女は続ける。


「とにかく! ちゃんと見てくださいね! 刃物研ぎは、姿勢が大事なんです。なるべく大きくストロークするのが大事なんです。今からやりますから、ちゃんと見て下さいね!」


 と彼女が言って、腰を突き出し、前屈みになり、刃物を研ぎ始めた瞬間……


ピンクの着物の裾が、せり上がり、彼女の小さな尻を包む“それ”が露出した。


 “それは”……



【白地にピンクの横ストライプ】だった。



 その瞬間、全ての色は消失し、音は無くなり、万物は固定される。


 俺の超感覚「パンツァー」が起動し時間が停止した。



 カメラを構えたまま俺は呟いた。


「前と同じ柄か……。悪くない。馴染みがあってホッとする。しかし……もしかして、その柄……もしかして何枚も持っているのか?」

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神回。 天才だと思います。
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