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オオエドパンツァー  作者: えいとら
2章 アイドル
31/125

ナユタの作戦5

 俺は、紫電セツナの雷葬で灰になる直前で、彼女のパンツを見て時間を停止させた。


俺がスカートを引きちぎった事で、紫電セツナは身に付ける物がパンツと手甲とニーハイブーツだけという、「ほぼ全裸」な非常に“危険”な状態だった。


しかし俺には、紫電セツナのセンシティブな姿を見る余裕は、全く無かった。


 なぜなら、紫電セツナの14本の小太刀(こだち)が高圧電流を帯び、俺の頭から僅か5mmの距離で切先が固定されていたからだ。


俺は、紫電セツナの股間と向き合いながら、冷や汗をダラダラと垂らし、呟く。


「間一髪だった……。

目の前の【 サイドを紐で結ぶタイプの紫の紫陽花(あじさい)柄】と出会えなかった場合……

俺は0.01秒後に灰になっていた……」



―――【パンツァー起動】―――



 俺は、目の前に広がる”紫の紫陽花“を見ながら考えようとした……


……が……そんな時間は無かった。


今回の時間停止は、長くない筈だ!!


最後の【作戦C】だ!動かねば!!


 俺は、高圧電流が流れた紫電セツナの小太刀に触れないように、その場から離れた。


 そして、直ぐに振り向き……倒れた「SUZUSAKI(俺の)  HXR-3(愛車)」の下に腕を回し、顔を真っ赤にして呻く。


「ふおおおおおお!!」


 316kgの「SUZUSAKI(俺の)  HXR-3(バイク)」は、やっぱ重かった。



【 0.2秒経過 】



「ふんがあ!!」


 と、間抜けな声を出しながら俺は「SUZUSAKI(自分の)  HXR-3(バイク)」を引き起こした。


 あとは、コイツを“所定の位置”まで動かせば良いんだが……。



【 0.4秒経過 】



 だが、やはり…「SUZUSAKI()  HXR-3()」との別れは、俺にとって辛く……。


 「SUZUSAKI(最愛の)  HXR-3(恋人)」との思い出が、胸に去来した。


 ――街頭のホログラム広告を見て、一目ぼれした瞬間……。


 ――自分の預金残高を確かめて、絶望した朝……。


 ――しかし、なんとか3年ローンが通り狂喜乱舞したあの日……。


 ――そして、初めてのツーリングで見た、あの美しい夕日の思い出……。


しかし俺のそんな回想も空しく……俺達は、無慈悲にも”目的地”に到着し……。


 後は、「SUZUSAKI(人生最高の)  HXR-3(恋人)」を残し、俺が去る事だけになった。


 俺は呟く。


「君と過ごした日々は、俺の胸に強く刻まれている」



【 0.9秒経過 】



 俺は、涙を流しながら、紫電セツナの目前に置いた「SUZUSAKI()  HXR-3()」に背を向け……走り始めた。


 俺の胸は、悲しみと、残った3年ローンで、グチャグチャになって吐きそうだった。


 しかし、これで【作戦C】でやる事は全部、終わった。


 後は、制限時間一杯まで走り続けるだけだ。


 俺は万感の思いを胸に、全速力で走り続けた。



【 1.5秒経過 】



 とにかく、俺は走った。


パンツァーが終了した瞬間、紫電セツナの雷葬が炸裂する。


 それが、どれ程の威力かは分からない。

しかし、紫電セツナとどれだけ離れるかで俺の生死が決まる。それだけは明白だった。


 俺は、生きて月影シノブのプロデュースをしなければならない。


 死んでたまるか!!



【 1.9秒経過 】



 無我夢中に走っている俺の心臓が「ドクン!」と大きく鼓動した。


本日、三度目のパンツァー終了の合図だ。


 俺は、後ろを振り返り紫電セツナを見た。



 雷装の射程範囲は、20m。


 そして、俺と紫電セツナの今の距離は…………11m。



 やれる事は、やった。しかし、パンツァーの持続時間が足りなかった。



【作戦C】は、いわゆる“自爆攻撃”だった。


俺のバイクに雷葬を命中させ、紫電セツナの至近距離でバイクを爆発させる。

さらには、雷葬の高圧電流による自爆も誘う。


おそらく、流石の紫電セツナでも無事には済まないだろう。


 しかし、作戦Cは、“諸刃の刃”だ。


なぜなら、俺が雷葬の射程距離から逃げなければ、俺も死ぬからだ。


そして、残念な事に、俺は今、紫電セツナの雷葬の射程範囲内にいる。


つまり……作戦Cでは……「俺は生き残る事が出来ない」って訳だ。



 だから俺は、またしても、死ぬ。


 しかも、今度は灰になって死ぬ。


だから、もう流石に、生き返る事は出来ないだろう。


 しかし、もう一つだけ……やる事は、残されている。


 それが、上手くいかなかったら。


 まあ……潔くあの世に行くだけだ。


 俺は、時間停止しているほぼ裸の紫電セツナを見ながら言う。


「死ぬのは、俺か、あんたか……

 あるいは、両方か……

 ”神の味噌汁(かみのみそしる)“って奴だな」



【ジャスト2秒。時間停止終了】



―――【 パンツァー終了 】―――



 全てが動き出した。


 その瞬間、俺は叫ぶ。


「俺に“バフ”を掛けろっ!! WABISABIィィィイイイ!!!」


 WABIちゃんの“バフ”の効果で、俺の目前にシールドが張られる。


 それと同時に……。


 紫電セツナの雷葬が、「SUZUSAKI(俺の最愛の3年)  HXR-3(ローンのバイク)」に炸裂する。


ガソリンタンクが引火し、爆発し、ブッ飛んだパーツが紫電セツナの身体に突き刺さった。

さらには雷葬の高圧電流により感電した彼女の身体が、激しくスパークする。


 同時に俺の視界は、白で覆われる。


俺のナノマシーンシールドは、破れ、俺の左義腕は音も無く、弾け飛んだ。


 俺は、その衝撃で、おそらく、後ろに飛んだ。


白の世界の中で、俺の全ての感覚が消失していた。


 さらに、強大な爆発音が聞こえた気がしたが……。


俺には、それを知覚する事も出来なかった……。


 なぜなら既に、俺の意識は消え去り……あt………


……に…ha………………。


…………。


……。





―――――――


―――――


――――






【月影シノブ視点】



 私は、叫びました。


「ナユタさぁぁぁぁあああああん!!」


 私には、何が起こったかは、分かりませんでした。


 私は一応……

紫電セツナさんが雷葬の為に、14本の小太刀を出したところまでは理解していました。


 そして、その直ぐ後に、プロデューサーさんがバイクと一緒に瞬間移動して、

紫電セツナさんのスカートを勢い良く引きちぎりました。


だから私は——


「あそこまでして、セツナさんのパンツを見たいなんて……

 やっぱり、プロデューサーさんって、美女のパンツの方が好きなんですね……。

 所詮私なんて”クマさん“ですから……」


——と紫電セツナさんの美貌と、その”紫陽花柄のパンツ”に嫉妬を感じました。


しかし、その次の瞬間、目の前が大爆発したのです。


全く訳が分かりませんでした。


そして、目も開けられない程の閃光の中……

相打ちになった紫電セツナさんとプロデューサーさんが、吹っ飛んでいくのを私は見ました。


 だから、私は叫びました。


「ナユタさん!!ナユタさぁあああん!!」


 泣きながら私は、プロデューサーさんの方に向かって走ります。


「無事でいてください!無事でいてください!!」


 と、祈りながら走ります。


 同時に私の胸は、刀で滅茶苦茶に切り裂かれた程に、痛みました。


 そして、プロデューサーさんの元に辿り着いた私は、さらに叫びます。


「ナユタさん!! 目を開けて下さい!!

 ナユタさぁぁぁああん!!!!!!」


 と私は、大粒の涙を流しながら、真っ黒になった彼の身体を揺すります。


 そうやって、私は大量の涙を流しながら、やっと自分の感情に気付きました。



 どうやら、私はナユタさんの事が「大好き」だったみたいです。



それも……ただの「大好き」じゃなく……



私は、一人の男性(・・・・・)としてナユタさんの事が大好き(・・・)だったみたいです……。



 つまり、私はこの時になって、ようやく「自分の初恋」を認識する事が出来ました。


 

 我ながら呆れる程に、私って……「バカチン」ですね。


ナユタさんが死んで、ようやく、彼への恋心に気付くなんて……


鈍感にも程があります。

無知にも程があります。


 そして、初恋に気付いた私は同時に、深く絶望しました。


だって、いくらなんでも酷いと思いませんか??


人生において、初恋なんて、一度キリなんですよ??


 その大事な初恋に、気付いた瞬間……


初恋の相手は、真っ黒コゲになって死んでいるんですよ??


初恋の中でも、最悪のヤツじゃないですか………。



 だから、私は深く深く絶望しました。


 その絶望は、この状況に対する絶望であり……それ以上に、

自分の鈍感さ、あるいは、自分の無知に対する、絶望でした。



 だから、私は……


ナユタさんを失った悲しみと――

初恋と――

失恋と――

人生の中で最大の絶望を――


同時に味わう事になりました。


 私は、ナユタさんを揺さぶりながら、涙をボロボロ落とし、さらに叫びます。


「死なないで!死なないで!!死なないでぇえええ!!!」


私は、絶望から逃れる為に彼を揺すり、叫びますが……。


その事により、彼の死を改めて実感し、より深い絶望に呑まれました。



 だから、私は不自由で、無力な赤ちゃんみたいに泣きじゃくりました。


深い深い絶望に胸を切り刻まれて、巨大な無力感に圧倒されて、私は泣きじゃくりました。



 しかし、唐突に、WABIちゃんが、ポップアップして言います。


「シノブ様……

 シノブ様……?

 シノブ様……!?」


 しかし、私は号泣しながら答えます。


「ぶううぅぅぅぇぇぇえ″え″え″!!

 な″ん″でずが??

 WABIぢゃ″ん″??」


「非常に悲しまれているところ……申し訳ございませんが……

 ナユタ様は、ご存命でいらっしゃいます」


「う″ぅぅぇぇえ″!!

 冗″談″は″!

 休″み″休″み″で!

 お″ね″がい″し″ま″す″!!

 う″う″ぅぅぇぇえ″!!!!」


「いえ。シノブ様。

 ワタクシには、冗談を言えるようなアドオンはございません。

 これは『ガチ』でございます!」


「ううぅぅ…。 ぐすっ!

 ガチ……なん、ですか……??」


「ええ。『ガチ』でございます」


「と、すると…… ぐすっ!

 プロデューサーさんは…… ひっく!

 焼き過ぎた餅ぐらい真っ黒コゲですが…… ひっく!

 生きて……いるん……ですか??…… ぐすっ!」


「はい。ナユタ様は真っ黒コゲですが、ご存命でいらっしゃいます。

 しかし、誠に遺憾ながら……。

 紫電セツナ様も、戦闘継続が可能でございます」


「うううう…… ひっく!

 プロデューサーさんが生きていても…… ぐすっ!

 セツナさんが戦えるのなら…… ひっく!

 結局は無理ゲー。じゃないですか?…… ひっく!」


「いいえ。それは……そうとも言えません。

 なにしろ、今のシノブ様でございましたら、

 【切り札】の使用が可能ですから……」


  涙と鼻水でぐちゃぐちゃで心神喪失状態の私は、赤ちゃん言葉でWABIちゃんに聞きます。


「…え?……きりふでゅあ……?」


「はい。【切り札】でございます」


「…きりふでゅあ……って……なんなんでしゅか?」


 そしてWABIちゃんは、腕を広げます。


「こちらでございます」


 そう言ったWABIちゃんの胸の前には――



 【  エモとら :災婆鬼サイバーデビル 】

 /// EMOtional TRAnsformation system

 /// [ CYBER DEVIL ] mode

 /// Ready??



――と書かれていました。



 私は、その――WABIちゃんの胸の前のホログラムを見て、言いました。


しゃいばーでびりゅ(サイバーデビル)??」



挿絵(By みてみん)


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