中編
☆☆☆サウス王国三ヶ月前
突然、王門の前に、気品あふれる本物の聖女様が降臨された。
衛兵が見つけ。即、王宮にお連れし、陛下と謁見。
とても、素晴らしい愛のあふれる教えに、陛下や、王太子である我と廷臣たちは涙を流して感激したものだ。
私と婚約者である公爵令嬢ルイーサが、お世話をすることになった。
市井に混じって活動されていたそうで、貴族社会は不慣れだからだ。
しかし、ルイーサは
「・・私には聖女様の素晴らしさがわかりません。お話も、一般的な道徳の焼き直しですし、それに・・・何だか。怖いです」
「ふむ。そなたの家は聖女を輩出する名門であったな。聖女リリム様は、市井でご苦労されたのだ。そちたちは、おごっているのではないか?」
「・・・そのような・・」
何かと突っかかる。
まあ、仕方ないかもしれない。聖女の座を、満場一致で奪われたのだからな。
・・・
「何?ルイーサがリリム様を、聖なる泉に、突き落とそうとした。本当か?」
「はい、護衛騎士が止めました。落ちたら、深いので溺死したかもしれません」
「何と・・」
・・・自分で見たわけではない。もしかして、間違いかと思いルイーサに問い詰めたが
「本当です。私がやりました。あの方は魔女です!一度、聖王国の女神教の司教様に確認しては・・」
「ああ、もう良い。そなたはお世話係を外す。お茶会も当分無しだ!」
「殿下・・・信じて下さい」
その後も、ルイーサは、隙を見つけては、リリム様に聖水をかけようとしたり、果ては階段から突き落とそうとした。
何とか、凶行を止めようとした。
そうだ。腕が悪いのだ。腕がリリム様の背中を押したのだ。
両腕を斬った。
しかし、今度は、公爵が逆恨みをした。
公爵は、我国の宰相でもある。
そして、聖女リリム様は刺客に襲われることになる。
いくら拷問をしても黒幕は吐かない。
刺客は、ゴロツキではない。逆に、全てルイーサの公爵家に連なるものだと推理できた。
「まさか、ルイーサと公爵家は、魔王軍とつながっているのではないか?」
・・・
ルイーサを牢に入れ、ルイーサの郎党が、聖女様の暗殺を試みる度に、ルイーサに罰を与えた。
足の腱を切り
耳に鉛を流し込み
とそのたびに、罰を晒したが、効果はなく。
逆に、公爵は逆恨みし謀反を起こしたのが、一週間前だ。
そう言えば、取り調べをしたな。
何故、あれほど、聖女リリム様に、病的な悪意を持っているのか。不思議に思ったのだ。
「・・聖女と偽るリリムの為に、増税し、民を酷使し、外国から高価な宝石やドレスを購入する。大義のない増税は反対だ。あの女は魔女だ!」
「おう、縛られてもなお。勇ましいな。少し増税しただけだ、リリム様の素晴らしい教えを広めるために、民は喜んで、税を負担しておる。リリム様のおかげで我国は愛に満ちあふれている」
「世迷いごとを、我が娘、ルイーサの目を潰し、耳に鉛を流し込み。足の腱を切り、両腕を切断した。許せることではない!」
「目を潰したのは、
リリム様を見つけ害さないためだ。
耳に鉛を流し込んだのは、リリム様の声を聞かないからだ。
足の腱を切ったのは、リリム様の元に行って害させないためだ。
腕を切ったのは、リリム様に、石を投げさせないためだ。
理解できたかな?公爵閣下」
「狂ってる・・」
・・・
そして、今、ルイーサと同じ刑罰を受けた使者が届けられた。
と言うことは、まさか、女神教総本部も、邪教に犯された。
だから、魔王軍と轡を並べる。
動機は全て合点がいったわ。
「ルイーサよ。何故、外患を誘致した。お前だろう?」
「殿下、目を覚まして下さい・・・」
「・・・殿下、この女、耳が聞こえません。目が見えません。腕がありません。尋問は無意味です」
「そうだったね。城門につるしておけ。兵を配備して、いつでも殺せるようにしておけ」
・・・
それから、凶報でもあり、朗報でもある報告があった。
「殿下、連合軍の進撃が止まっています。その・・・凹陣形を取り、北から、住民を虐殺し、家畜まで殺しています」
「それに、畑に火を放ち、その後に、塩を撒いてます」
「な、何だと、焦土作戦か、奴隷にもしない。家畜の徴収もしないのか・・だとしたら」
「ええ、貴重な時間が出来ました。そろそろ南部の援軍が来る頃でしょう」
・・・破滅が2,3日から、一週間に変わった程度だが、何、聖女リリム様さえいれば、我国は最終的には勝つ。
しかし、現状は厳しい戦いを強いられるな。
「殿下、北から避難民です!」
「城門を開け避難民を受け入れろ」
☆☆☆城門
「はあ、はあ、城門だぞ。あそこまで行けば真の聖女様のいらっしゃる王都に入れる・・」
「お父ちゃん、あっちに騎士様がいるよ」
ドドドドドド
南から、騎兵隊が、避難民に迫ってくる。
「おお、我国の旗と鎧だ。助かった!」
「こっちだ、敵は北にいるぞ!」
しかし
「騎馬弓兵は撃て!撃った後、突撃だ!」
「「「オオオオオオオオ」」」
「み、味方じゃない!敵だ!」
「隊長、敵が、王都から出てきて、避難民を助けようとしています!」
「よし、撤収しろ。我等の目的は、勇者様の囮だ。敵兵を王都の城門に釘付けに出来ればそれで良い・・」
「・・・しかし、避難民のやつら、骨と皮だらけだ。税率9割って本当だったのだな」
「ああ、今、奴隷市場と、娼館には、サウス王国民があふれている。そして、皆、一様にリリムとか言う女を慕っている。検査の結果、魅了と判明したのだ」
「敵に同情している暇はない。もし、我等の中に、魅了された者がいたら、すぐさまに、斬る。王都には絶対に入るなよ」
「「「御意」」」
・・・
サウス王宮に急変を告げる使者が二人来る。
「殿下!敵は偽旗作戦をしています。避難民を虐殺中!」
「「「「卑怯な!」」」
「殿下、南の港は、イース海軍に海上封鎖され、海軍の援護の下、各国の騎馬兵が王都に急行しています!
やつら、やつら、港を守っていた大公殿下と部下たちを殺した後、鎧や旗を剥ぎ取って、偽装しています!」
「伯父上が戦死された・・どこまでも卑怯な!これほどの大軍がありながら、北方の敵は囮か!」
「もう、これは、聖女リリム様の出陣を乞うしかない。リリム様は?」
「はっ、昨晩、徹夜で儀式を行われ、お疲れのようです。睡眠中でございます」
「起こして差し上げろ!」
「「「はっ」」」
南の侵攻も囮であるが、王太子たちは気がつかない。
しかし、まだ、余裕があった。
彼らが奉じる聖女は真の聖女だからだ。
「やつらに、真の聖女様に会わせて、後悔させてやる。自責の念で自死を選ぶだろうよ」
☆☆☆サウス王国王宮王座の間
「リリム様、ご降臨!」
「「「ハハハー」」」
・・・フフフ、お貴族様が、この女コジキだった私に、ひれ伏すとは愉快で仕方ない。
王門の目の前で、腹を空かして倒れたら、衛兵が聖女様といいよる。
どうやら、私に何か加護がついたらしいのう。
こいつら、何でも言うことを聞く。
ベットの方も充実している。お父ちゃんの方は、経験が豊富でいいね。王子は勢いだけだね。
しかし、皆、こんな50歳を越えたババを良く抱けるよね。
この宮廷にいる顔が皆試したね。
・・・聖女リリムは、魅了の力によって、王太子妃の座に君臨しようとしていた。
しかし、外での状況を聞くと。
・・・なら、私の不思議な力で、世界中の王をひれ伏させる。
簡単さね。ただ、見るだけで良いのだから。
あの貴族のお姉ちゃんだけは、ダメだったけど。何とかなるだろうよ。
「大変です。王宮の上に・・・魔王軍のドラゴンが!現われました!」
「「「何!」」」
ドラゴンの上には、勇者二人と、エルフの弓兵とドワーフの戦斧使いの勇者パーティーがのっており、魔王軍のドラゴンナイトが、ドラゴンを操っていた。
「認識阻害魔法解除、マスター、今、王宮の上です」
とエルフが魔法を解く。
「ヘイゾウさん。これからは勇者二人でお願いします。わしらでは取り込まれる」
ドワーフは平三に、刀を渡す。彼が話を聞いて作った日本刀だ。
「おお、有難う。これじゃなきゃな。
ところで、酒呑童子(魔王)と戦う寸前に、急遽、和平とか言われて、おどろいたぞ。お小夜どん」
「ああ、そうね。平三様ね。私、城門につるされているあのお姫様に、[完璧に治れ!]を掛けたいの」
「バーフェクトビアじゃろ?」
「パーフェクトヒールだよ。ハイカラ言葉だと、言霊が乗らないの!」
二人は、軽口を叩きながら、飛び降り。
聖女お小夜は、三味線を弾く。
テケペンペンペン♪
その音を聞いた兵達は、途端に動きを止め。何かを思い出す。
「あれ、俺は、何故、あんなババを崇拝していたのだ・・」
それでも向かってくる敵には、勇者平三が斬る。
斬りながら、王宮奥へ進む
「何だ、あの黒髪と黒目の、小柄な奴らは、男はバターのように、甲冑兵を両手刀で斬り、
女の方は、琵琶か?何か楽器を奏でているぞ!」
☆王宮王座の間
「私は日本橋で三味線のお稽古をしていた平民のお小夜だよ」
「俺は東京士族の平三だ」
名乗りを上げると、リリムと対峙する。
「ババじゃんかよ。どんな良い女が国を牛耳っていたかと思ったけど」
「ババ言っちゃいけない。だけど、憎たらしいね」
リリムは、両手を広げ、二人に、来いのジェスチャーをし。
「何故、人は殺し合うのですか?その腕は武器を持つためにあるのではありません。愛し合しあうためにあるのです」
と誘った。
「ゲッ!」
と平三は即座にリリムを斬った。
悲鳴を上げる間もなく、リリムの首は地面にコロンと転がる。
「平三様・・・それダメでしょう。気持ちわかるけど」
☆☆☆
~~~~~プチン~~~~~
と国中で、何かかがちぎれる音がした。
・・・あれ、我は何をしていたのだ。
状況は・・わかる。わかってしまう。
「ウワワワワワーーー、ルイーサ?ルイーサはどこだ!」
あああああああ、我は、とんでもないことをしてしまった!
最後までお読み頂き有難うございました。