前編
我はサウス王国の王太子、今は摂政としてこの国を切り盛りしている。
小国であるが、農耕と漁業、牧畜が主体の穏やかな国民性である。
大好きな国だ。
最近、婚約者も内定した。
激戦をくぐり抜け。
我に決まった。
この国の聖女様だ。
公務と私生活ともに充実している。
しかし、内定だ。
聖女様との婚約には、一つ障害がある。
今現在、我には婚約者がいる。
こうして、王宮の中庭で、元婚約者になるであろう者に、婚約破棄を告げるところだ。
中央国家群の戯曲で、悪役令嬢なるものが流行っている。
聖女でもあるヒロインが、実は悪役であり、王子の寵愛を受けようと、王子の婚約者を陥れようと画策。
王子は、ロクに事実を調べようとせず聖女の諫言を受け入れ、婚約破棄を宣言する。
宣言直後に、ヒーローが現われ、聖女の悪事を暴き。王子は没落、婚約者はヒーローとハッピーエンドになる筋書きだ。
全く、下らない。
事実関係を調べたかって、そりゃ、勿論、当たり前だ。
愛する婚約者の言うことを聞かないで、裁くのなんてあり得ない。
元ボーア公爵令ルイーサは、その戯曲で言うところの悪役令嬢だ。
今は平民のルイーサに成り下がった。
彼女は数々の嫌がらせを聖女様に行った。
我は犯行現場を見ていないが、多くの目撃者がおり
何よりも、本人から、「私がやりました。あの者は聖女ではありません!」
と我に言い放つではないか?
婚約者ルイーサは、聖水を聖女様にかけようとしたり、児戯に等しい嫌がらせから、ついには、刺客をけしかけ。実親のボーア公爵家全体で、聖女様を排除しようとする動きまで現実に起こした。
謀反である。
ここまで、されたら、もみ消すことは出来ない。
☆一週間前
「殿下!ボーア公爵謀反、騎士と一族郎党300人で、王宮に向かってます!」
「何だと、彼らの言い分は?」
「聖女様の排除と、ルイーサ様の奪還です!」
「何だと、あれだけのことをしておいて、ルイーサは、罰を与え、貴族牢に入れて、聖女様に近づけないようにしただけなのに・・」
・・・逆恨みか?ならそれも良かろう。
「よし。国境に配備した騎士団を呼び戻せ、近衛騎士団は、我が指揮を執る!」
激戦の結果、公爵家の謀反は失敗に終わり、一族は、末の子まで殺した。
それでも、我は、ルイーサの改心の言葉を待ったのだが
今までは、一言でも改心をする発言をしたら、許し、婚約を続行、または、どうしても聖女様が嫌いなら、穏便に婚約を解消し、どこか外国の貴族とでも婚姻してもらおうと考えていたが、公爵家が謀反を起こしたのなら、庇うことは出来ない。
選択は婚約破棄の後に、国外追放か娼館に売り払うしかなくなった。
我と聖女様の慈悲が裏目に出たか?
「何か、申し開きはあるか?」
「・・・あの方は魔女です。殿下・・目をさまして下さい・・」
「聖泉に突き落とそうとするぐらいなら、まだ、可愛いものだ。刺客をけしかけ襲わせるとは。死ぬところだったぞ?」
「・・・あの方は魔女です。殿下・・目をさまして下さい」
「ええい。同じことしか言えないのか!!」
「ええい。もう、いい。最期の機会を逃しおって、一言、詫びを言えば、情状酌量の上、国外追放ですまそうと思っていたのに、
今のお前は気が触れているが、言わなくてはならない!
そなたとの婚約を破棄する。貴様は、娼館行きだ!
売ったお金は聖女様に対する賠償金とする!」
ここで、戯曲なら、ヒーローが現われるハズだ。
しかし、現実は非情だ。ルイーサにとってだがな。
「連れて行け!」と言ったが
ほら、何も起きない。
と思った10秒前の我がいた。
ヒヒヒーーーーン パカパカパカパカーーーと馬のいななきと足音が聞こえて来た。
「王宮でございます。下馬を・・」
「軍法に基づく急報だ!殿下は?いずこに」
何だ。騎馬が、中庭まで、入ってくる。
それは、火急の知らせ!
「殿下、一大事でございます!魔王軍が、北方の国境に来襲!四本角の旗に、褐色や角のある部族、間違いありません!兵力は、10万以上!」
「な、何だと!」
まさか、ルイーサは、魔王軍の手先だったのか?なら、あれほど聖女を毛嫌いするのはわかる。
ルイーサのボーア家は代々我国の聖女を輩出する名門。
満場一致で、現聖女様に、座を奪われた嫉妬だとばかり思っていたが、まさか魔族につらなる一族だったとは
「ルイーサは重要参考人だ。娼館行きは待て!」
「大本営を設置しろ。陛下をお呼びしろ」
「「「御意」」」
城で、御前会議を行った。
しかし、次々と凶報がもたらされる。
「魔道通信で、諸国に魔王軍来襲と告げろ、援軍の要請をしろ」
・・・この国は、魔族領とは、三つの人族の国を隔てている。
他国も侵略されているだろう。断られるがやるべきだ。
何、我国には真の聖女様がいらっしゃる。
魔族とて、怖くはないわ。
しかし、凶報が続いた。
「殿下、朝から、魔道通信が使えません!宮廷魔導師の話では、大規模な妨害魔法が施されているとの意見です」
「何?」
「殿下、一大事です!
ザルツ帝国軍、鷲の旗、帝国軍来襲です。
ノース王国の獅子の旗!来襲です!
デルタ王国の、王冠の旗も見受けられます。
そして、聖王国の邪教討伐旗が全面に出ています。
鑑定スキルの者から、総兵力50万以上、後方部隊を入れれば、100万を超えるかと」
「なにーーー、我国は総人口10万人。何故、このような大軍が!」
人族の列強ではないか。
「エルフ族の弓兵多数!ドワーフが操る攻城兵器が確認されました。
石と弓で太陽が隠れるぐらいはなたれ、国境警備軍は10分で壊滅した様子・・」
無理もない。国境に配備している騎士団は700名あまり、精強ではあるが、叶うはずがない。
続報から、人族、魔族、エルフ族、ドワーフ族の四族連合軍だと判明した。歴史上、これが初になるのではないか?
我国は小国だ。何故?
「軍使は?敵の意図を確認するのだ!」
「はっ、朝一で出しております。もう、そろそろ戻ってくる頃かと」
「よし、それまで、軍を編成する。南を中心に、徴兵をしろ!北は、各諸侯の自発的な抵抗に任せる」
(やむを得ない。降伏を選んだとしても、誰が責められようか?)
「軍が整い次第。王都に籠城だ!」
「「「御意!」」」
☆☆☆四族連合軍本営
「法王様、魔王殿、敵の使者が参りました。拘束してあります」
「フォフォフォフォフォ、使者の顔は見ぬ。話は聞かぬ。我も話さぬじゃ。拷問官殿に任せよ」
「「「御意」」」
「何と、無法な!ギャアアアアアアアアアアアアア」
「あ~あ、せめて、教えてあげなよ。白髭の翁よ」
「フォフォフォフォフォ、知らぬが女神様じゃ、その方が幸せなのじゃ」
「あ~あ、俺も元人間だけどよ。人間って悪魔だよな」
「フォフォフォフォフォフォ、勘の良い者なら、わかるだろうよ」
☆☆☆サウス王国王城
「使者が、『届け』られました。しかし・・・しかし、」
「ええい。会わせろ」
我は使者が受けた拷問を見て、驚愕した。
耳に鉛を流し込み。両腕を切断し、足の腱を切り。目を潰し。声だけは出せるようにしてある。
「これは・・我がルイーサに処罰した刑罰と同じではないか?やったのは魔王軍か?」
「いえ・・聖王国、法王様です。書簡が添えられてます」
『ただ、滅びろ』
ああ、聖王国の紋章の入った紙だ。間違いない。法王自ら討伐する気だ。
「ルイーサを呼べ。娼館行きは無しだ。奴が、外患の元凶だ!」
最後までお読み頂き有難うございました。