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ブラック&ホワイト  作者: 芋太郎
第0章:プロローグ
9/80

第9話:火花と沈黙

*不定期更新です。基本13時に更新してます。

 翌日。

 俺は筋肉痛の中、1限から始まる授業に合わせて支度をしていた。


「何処行くの?」


「大学だよ。お前も高校あんだよな」


「うん、私と虚は高校。でも、大斗くんは大学無いよ」


「...冗談だよな?」


 背負い掛けの鞄が地面に落ちる。


 嘘だろ?嘘だよな?流石に勝手に辞めさせるってのは無いよな?無いよな?勝手に家は解約しても、大学退学は無いよな?


「無いよな?」


「退学ではないよ」


 安堵の気持ちが吐息に混じる。

 しかし、含みのある言い方から、またもや嫌な予感が頭に居座った。


「休学ってことで」


「あああああああああああああ!!!勝手に!勝手に何してくれとんじゃああああああ!!!」


 哭声を上げた後、頭を抱えて膝から崩れた。


「ま、しばらくしたら退学になると思うけどね」


「お、俺の単位...俺の入学金...俺の...履修が...」


「命狙われてるんだから、しょうがないよね」


「いや、だからって...ていうか、お前らは何で高校行ってんだよ」


 恨めしげな目で見つめながら問うと、ホワイトは何事もなかったかのような顔をして、倒れ込む俺を見下ろした。


「私も本当は行かなくていいんだけど、一ノ瀬さんが『学びを捨てるな』って言うから」


 一之瀬さんって、一之瀬亮吉さんのことか。一体何でここでその人が?


「何で一之瀬さんなんだ?」


「うちの組織は結構お世話になってるんだよ。虚も日暮も一ノ瀬さんが育ててくれたようなものだし、勉学のために学校のお金も出してもらってる。本当に、返しきれない恩があるんだ」


 嬉しそうに語るホワイトを見て、なんとなく理解した。あの人は人格者で、色んな人から慕われていること。そして、あの時裕樹先輩が言ったように、恩義があること。


 すごいんだな、あの人。


「日暮と裕樹は流石に悪いと思ったのか、大学に入ってないね。私たちはまだ、あの人に甘えているんだなって、つくづく思うよ」


「......」


「じゃ、行ってくるね」


 ホワイトは元気に小さく手を振って、拠点を去る。


 一之瀬組とシルバーとの関係性が少しわかった気がする。


「...でもなんで俺は大学行けねえんだ」


 呟いた言葉が虚空へ消えた。


 あれからどれぐらい経ったろうか。その日は、大学に行かないことになり、何もない一日を過ごそうとしていた。


 そして午後5時。

 ソファで漫画を読んでいると、アジトの扉が、電子音の後に開いた。


「おー、おかえり」


 人間、時間が経てば立ち直れるらしく、ブルーな気持ちもちょっとブルーくらいに落ち着いていたため、なんとか声を出すことができた。


「たっだいまー」


「ただいま」


「お邪魔します」


 ホワイトだけでなく、虚もいるようだ。


「お、虚か」


「久しぶり」


「今お茶出すねー」


 虚と挨拶を交わし、ホワイトは台所へと移動した。


 そして、4人分のお茶を丸テーブルに並べると、それぞれ会話を始めた。


 ...ツッコミ待ちか?


「あの、この人は...?」


 目の前にいる女の人が気になる。自然とこの輪に混ざっていたが、誰だ?


 待てよ?

 長い黒髪にキリッとした目つき...これは...何処かで...。


 記憶の引き出しを整理していると、黒髪さんは自分の胸に手を当て、少し頭を下げた。


「私の名前は一之瀬火花(いちのせひばな)と申します。あなたは朝霧大斗さん、ですよね?美月から話を聞いております。以後、お見知り置きを」


「一之瀬...あっ」


 記憶が戻った。

 俺が一之瀬組に行った時、道場のような場所でお年寄りと剣を交えていた人だ!


「この子はねー。一之瀬さんの孫で、剣道の全国大会優勝してるすごい子なんだよ」


「すげえな!でもなんでお前が自慢げに言ってるんだ」


「そりゃ、友達だから、さ!」


「はー」


 適当に流す。

 にしても、礼儀正しい人だなぁ。堅苦しいまである。


 そんなこんなで4人交えて食を囲んだり、色々くっちゃべっていると、時間も早く過ぎるようで、もう7時を回っていた。


「じゃあ、師匠との鍛錬がありますので、私はそろそろ帰ります」


「この時間でもやるのか、すごいな」


「はい、修行を怠れば剣筋が鈍りますので。あなたも、強くなりたければ、もっと鍛錬を積んだほうがいいですよ」


「は、はい」


 なんてゆーか、厳しいんだな、自分にも他人にも。


 苦笑いを浮かべていると、横にいたホワイトも立ち上がった。


「んじゃ、私も用事あるから、行ってくるね」


 2人は談笑をしながら、出ていった。


 火花さんも、あいつの前では楽しそうだな、なんて思ったが、そんな思いも、すぐに消え去った。


 理由は今の状況だ。


「......」


「......」


 沈黙が続く。


 そう、この俺、朝霧大斗は天海虚とろくに会話をしたことがないのだ。

 そりゃ、任務中に喋ったことはあるが、ほとんどが。


『何処まで見回るんだ?』


『3丁目のコンビニくらいまで』


 と言った感じで、ほぼ業務連絡だ。

 さっきまでは4人いたからどうにかなったが、2人きりだと気まずい...まるで友達の友達と一緒にいる時のようだ...!


 とりあえず、打開せねば!


「す、好きな食べ物ってなんだ?」


「お寿司」


「そっかー!俺も寿司好きなんだよ!やっぱサーモンだよな!あいつやっぱ美味えんだわ!えー、今度回転寿司でも食いに行こうぜ!」


「私、海鮮苦手」


「......」


 落ち着け。


 この組織は変人が多いのは知ってるし、この子が元より変だということも知っている。


 ここは一か八か、少し、いや、まあまあデリカシーに欠けるが、仲を深められるかもしれない。あとテンションは下げよう。


「虚って若いよな。何歳なんだ?」


「16」


「16かー。若いのに大変だろ?この仕事」


 何の躊躇いも無く発した言葉を受け、虚は少し俯いた。


 ...俺、何かやっちゃいました?


「うん。でも、これしか選択肢はなかったから」


「...なんでだ?」


 何かあるな。あんまり探るのは良くないかもしれないが、断られるなら、それはそれでいい。


「長くなるけど、いい?」


 虚はちょこんと座り直し、俺の顔を見上げた。


「あ、ああ。聞いていいなら」


「じゃあ、私のことを...」


 そうして虚は自分のことを語り出した。


 この時の俺は痛感した。

 俺がいかに楽して生きてきたかを。







*面白いと思ったら、高評価していってくれると嬉しいです。

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