第80話:決戦開始
*不定期更新です。基本13時に更新してます。
俺は今、一之瀬組の会議室に集まっている。理由は2つ。1つは集まった情報から整理をするため。そしてもう1つは、火花さんの復帰を報せるためだ。
「と、言うわけで火花が復帰しましたー!パチパチ!」
事務所の組長室で、ホワイトは嬉しそうに拍手をした。火花は虫の居所が悪そうな顔をしている。
「あの、すみませんでした。皆さんが戦っているのに、私1人クヨクヨ悩んで...」
なるほど、そういうことか。火花さんもホワイトみたいに楽観的にいけりゃいいのに。てか、こいつもこいつで楽観的すぎるがな。今はそんなに楽しめるような状況じゃねえんだ。
「火花、私たちのために来てくれたんだよね。命をかける覚悟なんて、普通できるもんじゃないよ。来てくれただけで嬉しい」
日暮がそう言うと、皆も微笑みを浮かべ、火花を歓迎した。
「パーティは後にしな。今はやることあんだろ」
サンドラさんの声により、一気に場が引き締まる。
「そうですね。じゃ、松村さん、お願い」
「あいよ」
松村さんはホワイトボードを持ってきて、現状について語り出した。
「まず、こっちの戦力からだ。日々の接敵での被害は最小限に抑えているが、やはり戦力は徐々に減らされている。今戦えるのは、俺含めて22人の組員と、美月、大斗、虚、裕樹、日暮、サンドラ、そして火花の合計29人だ。ま、戦力を考えれば実質7人かもしれんが...」
松村さんは苦い顔を浮かべながら、ホワイトボードをひっくり返した。
「対して敵戦力は、十文字組組員が20名程、あとは恐らくクロウから構成員がいくらか送られてくるだろう。これまでの襲撃から送られる構成員を予想すると、ざっと10数人程度だ。段々数が少なくなってきてるのが幸いだな。ただ...」
「結局向こうのほうが人数が多いのは事実だし、何より上位戦力が厄介、ですよね」
ホワイトが割入ると、松村さんは深刻な顔を浮かべた。
「そうだ。あいつらの上位戦力は前回の戦局からして、羽のリーダー野上、素性不明の男天宮、クロウから送られてきた恐らくランク5のルナ、火花の言う通りなら、ユースとやらも来てるらしい。そして...十文字組幹部、鬼の人斬り新倉重蔵、この5人はほぼ間違いなく戦いに参加してくるだろうな」
皆、それぞれ表情を曇らせる。全員、思うところがあるのだろう。
「にしても、どうして戦力削りに姿を表さないんだろうね。あいつら主戦力が来たらすぐにこっちの戦力削れるだろうに。準備にしては冗長すぎる気がするし」
日暮が疑問を投げると、裕樹先輩は口を開いた。
「多分、俺たちの戦力を削る以外にもあるんだろ。例えば...精神的疲労、とか」
「精神的?」
「こんだけ登場を長引かせりゃ、何処から、どのタイミングで、主戦力の誰が来るか、そういった不安と緊張感を常時まとわりつかせることができる。精神は体にも影響するからな、先にそうして精神的に追い詰めようって魂胆だろ」
「なるほどねぇ、中々に狡い」
「とにかく、このままいけば物量で押し切られる。その前に大きな先手が打てればいいが」
その時、バンと扉の開く音が聞こえた。振り返ると組員の射程が慌てた様子で手を震わせていた。
「き、来ました!ルナと天宮です!」
その声を聞き、皆が驚愕の反応を見せる。
「どこだ」
「西のシャッター街です!ルナと天宮が奇襲を仕掛けた模様です!連絡が来たのでまだ殺されてはいないと思いますが...」
「ちっ、よりにもよって会議で主戦力が集中してる時に来やがったな」
「俺たちも行こう」
そう言った瞬間、組員が俺の体の前に腕をやった。
「シャッター街だけじゃないんだ。大通りでも戦闘が起きてる。報告によれば、新倉重蔵が...」
「私が行きます」
火花さんは刀を強く握りしめながら言った。
「火花、キミは勝てると思う?」
「勝てます。いえ、勝たなきゃいけません」
即答だ。
「そっか。松村さん、火花を行かせてやってもいいですか?」
「ああ、頼む」
そう言うと火花は「ありがとうございます」と言って頭を下げた。
「私も行く」
「虚?何で?」
問いに返すように虚はホワイトボートの地図に指を置いた。
「そもそも私はシャッターが閉まってて入れないから、シャッター街の方には行けない。だとしたらこっちに行くしかない。それに、重蔵さんの動きを止めれずとも、周りの雑魚なら減らせるから」
「確かにな...では、虚はそっちを頼んだ。おい!柴崎!舎弟6人連れて虚と一緒に行け!」
その声を聞いた組員が一塊になり、虚のそばへ寄った。
「あとは私たちだね」
「火花がいない以上、最高戦力は美月、お前だ。そして相手の狙いは組か朝霧大斗の命。となれば、美月と大斗、お前らが2人で残って組を守った方が良い」
「いや、俺も」
「お前は狩られる対象なんだ。以前の戦いでわかってんだよ、お前は無闇に前に出すわけにはいかねぇってな。だからお前は自分を守れ、そして組も守れ。それが任務だろ」
「裕樹の意見に賛成だ。俺も組に残る。いいな、美月」
「はい」
「よし、じゃあ私たちはシャッター街の方へ行きますか」
シャッター街へはサンドラさん、日暮、裕樹先輩の3人が行くことに決まった。
そうして必然的に、組内は残りの7名ほどの組員と、俺と美月は組に残ることになった。
「よし、じゃあ行くz」
「待て」
開始の合図が誰かの声でかき消される。
皆がその方向へ顔を向けると、そこにはいてはいけない人物が立っていた。左腕がない隻腕の老爺。
松村さんが目を見張って近づく。
「親父...!何でこんなところに!」
「私は一之瀬組の組長だ。大将のいない戦争を、お前らはしたいと思うか?」
そうして一之瀬亮吉は表情ひとつ変えずホワイトボードの前に立った。
頬に汗が伝う。
亮吉さんは俺たちが戦うことに反対している。それに、シルバーは解散を命じられていた。なのに俺たちは無視して活動をしている。
亮吉さんを怒らせるだけの材料は揃ってる。だからこれから先、何を言われるか大体予想がつく。
だが...ここは引くわけにはいかない。俺たちは犠牲を払ってきた。これまで色んな人たちが傷つき死んできた。ここで引くのは、俺たちのプライドが許さない...!
「亮吉さん、俺たちは...」
「わかっている」
しかし亮吉さんは予想に反して怒ることはなく、ただ俺たちを見つめていただけだった。
そして静かに口を開いた。
「今、私は恥を感じている。散々戦うなとお前らに命じたのに、一之瀬組のためならどんな手を使ってでも、それこそ子供であるお前達を使ってでも守りたいと思ってしまっている!私は組長として...いや、大人として失格だ。だが......私はどうしてもこの組を、私の大切な家族を守りたいんだ...!」
胸の内から吐露された慟哭。そして同時に亮吉さんは頭を勢いよく下げた。
「お、親父!?」
皆が戸惑いの表情を見せる。
「恥を忍んで頼む!一之瀬組のために、戦ってくれないか!!!」
その言葉は、事務所をこだました。室内に静寂が訪れる。
「何言ってるんですか」
静寂を破ったのはホワイトの声だった。
「最初っからそのつもりですよ亮吉さん。むしろ、今更です」
微笑みを浮かべるホワイト。
ああ、そうだ、今更だ。俺たちは最初からそのつもりなんだから。
俺は一歩前に出る。
「俺たちに任せてください」
「ああ、すまない。そして、ありがとう」
そう言うと亮吉さんは右手を前に差し出した。俺も同じように右手を出し、握る。
出会った時と同じように、固く握った。
しばらくした後、亮吉さんは満足したように笑みを浮かべた。
「...強くなったな」
「はい、そりゃもう」
俺はあの日より、数段強くなっているんだ。
亮吉さんは俺との握手をやめ、直ぐに厳しい表情を浮かべた。
「...今、重蔵が来ているんだよな?」
「はい、商店街に来てます」
「行くのは火花か?」
「はい」
火花が答えると、亮吉さんは自分の影を見つめるように俯いた。
そして数秒間を置いた後に頭を上げる。
「私も行く」
その言葉を聞いた皆に動揺の波が伝わる。
当たり前だ、組長をあんな危ない場所に行かせるわけにいかない。そもそも、相手の狙いはこの組織の壊滅だ。組長の死がその壊滅を意味する以上、尚更行かせるなんてあり得ない
「親父!自分が何言ってるかわかってるんですか!」
松村さんが必死になって声を荒げる。そこに集まっていた組員も同じように声を上げた。
当然の反応だ。俺だってそうする。
「お前の心配もわかる。だが私にはあいつを説得しなければならないという責任がある」
「どうしてですか!?危険を冒してまでもそんなことする必要がありません!」
「...ああ、本来なら説得なんてする必要ないだろうな。説得は当然危険が孕む、私は私の立場を理解しているし、ここで私が死んだらどうなるかもわかる」
「ならなんで!」
「あいつと私は長い付き合いだ。あいつは十文字組も一之瀬組も大切に思っていた。だからこそだ。だからこそ、あいつにこの組の組員を殺させるわけにはいかんのだ。それはあいつのためでもあるし、この組のためでもある」
「だから戦力を送って戦うんですよ!もう新倉重蔵は敵なんです!諦めてくださいよ、親父!」
「...戦うのがダメなんだ。あいつは自分の心を殺し、かつての異名通り鬼と化している。だが、長年共にした我が組の組員を手にかける度、心の傷は絶え間なく生まれ続ける。奴はその傷の痛みを感じなくしてるだけなんだ。それを止めねばならんのだ。だから私の声で、あいつを正気に戻らせる」
「親父...」
亮吉さんの目は俯くことなく、真っ直ぐ松村さんを見つめていた。
あの目は...覚悟を決めた人の目だ。俺は今まであの目を何度か見てきた、だからわかる。今の亮吉さんは、何を言っても動かない。
自分の使命、それを達成するまで、きっと。
「...わかりました」
それは諦めにも似た声だった。しかし確かに、その声にも覚悟が宿っていた。
それはきっと戦地に親を送り出す覚悟であり、親の死を受け入れる覚悟だ。
「そんなに言うなら、行って下さい。あなたは俺たちの親父です。もう止めません」
「ああ、すまんな」
そうして亮吉さんも行くこととなった。
正直、不安ではある。だが今は信じるしかない。信じるしか
やることがないなら、俺は俺の使命を全うするしかない。
「皆、この戦いは苛烈を極める。きっと死者も出るだろう。だが、これは我々一之瀬組の威信をかけた戦いだ!あんなクズ共に負けるなどありえん!勝つぞ!絶対に!」
激励の言葉が投げられ、不安が満ちていた空間が一気に変わった。
あんな一瞬で士気が上がるとは。これが一之瀬組...。
「では、美月、大斗は組内を!サンドラ、裕樹、日暮はシャッター街を!火花、虚、親父は商店街を!みんな、頼んだぞ!!!」
「「「はい!!!」」」
声が響くと同時に一斉に動き始めた。
とうとう始まったんだな。戦いに行けないのは悔しいが、仕方ない。
戦いに参加しない分、気合い入れて覚悟を決めねえと。
「よし...!」
そうして一之瀬組と十文字組、そしてシルバーの羽の抗争が始まった。
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