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ブラック&ホワイト  作者: 芋太郎
第0章:プロローグ
8/80

第8話:強くなるためには

*不定期更新です。基本13時に更新してます。

 この試合は柔道でも空手でもない。


 2本のスチロール製ナイフのどちらか、または両方を、致命傷たり得る部位に当てれば一本というルールだ。実際の命のかかった任務でも、ナイフは2本持つらしく、実戦に近い。


 これまで俺は、一ヶ月の間ずっと心臓、首、太腿などなどを切ったり突かれたりしてきた。


 今度は、俺がやる番だ!


「さぁ、始めよっか!」


 瞬間、日暮は物凄い勢いで突っ込んできた。


 初日は避け切れなかったが、今なら...!


「死ねええええ!」


「ハッ!」


 なんとか避けられる!

 死ねはおかしいと思うけど。


「やるね?でもまだだよ!」


 今度は連続突きだ。

 早いし、色んな角度をつけてくるから避けにくい。ただ、こっちも伊達に修行を受けていない!


 避ける、避ける、とにかく避ける。


 右からの突きは左に。下からの突きは半身にして躱す。避け切れなければ手を使って受け流す。


 これならいける。そう思ったとき。


「なら、これはどうだ!」


「っ!?」


 右のナイフに集中していると、左下からもう一本のナイフが、斜めに切り掛かってくる。


 これは、避け切れない!


「くっ...!」


 咄嗟に後ろへジャンプする。


「頬を切っただけで済んだね。流石に、強くなったか」


「お陰様で。今度はこっちから行きますよ!」


 大きく早く踏み込んで、右手のナイフを横に振る。


 日暮相手にそんなのが当たることないのはすでに把握済みだ。

 だから、手数ではなく、質を高めて攻撃する!


「おっ?成長してるね」


 流石師匠だ。

 師匠が避ける方向とは逆に体を動かして、避けにくくしているんだが、もう気づかれてるし、まだ全然余裕そうだ。


「くっ!当たらねぇ!」


「そんなもんか...なっ!」


 日暮はナイフを避けると同時に体を回転させ、裏回し蹴りを顔面に飛ばしてきた。


「うっ!?」


 大きく姿勢を崩し、その隙を狙って日暮は突っ込んでくる。


 狙いは心臓!なら、相打ち覚悟で...!


 俺はなんとか踏みとどまって、上半身を勢いよく立たせる。


「でりゃあああああ!!!」


 その反動とともに勢いよくナイフを突き出す。

 これは、もらった!


「甘いよ」


「へ?」


 当たってない...?

 何故だ。確実に届いてるはず...!


 疑問が頭を支配する中、訳もわからず体が後ろに倒れる。


「はい、終わり」


「......」


「前よりも圧倒的に長く戦えてたよ。ただまあ、残念だったね」


 日暮は汗一つかかずに冷静な顔で言った。

 悔しい。こんなもんで終われるかよ!


「も、もう一回」


「よし来た」


 それから何度も立ち向かった。これまでの人生で初めてここまで努力したかもしれない。そして、だからこそ、ここまで悔しいのかもしれない。


 この日、夜になるまで挑んだが、結局、一本も取ることはできなかった。


「はぁ...はぁ...はぁ...」


「...まだまだ、だね。体捌きがまだ硬いし、ナイフにばかり気を取られて、その他を上手く活用できていない。足技とかで相手の姿勢を崩したりしないと」


「...はい、師匠」


「まあ、約一ヶ月でよくできてる方だと思うよ。後は銃の腕も上げないとね」


「はい」


「じゃ、そろそろ戻ろっか」


 そうして俺たちは階段を昇り、いつもの場所まで戻りに行った。


 悔しい気持ちが道中の階段を遅くさせる。

 これまでの人生で特に熱中したことは無かったが、ここまで一本取るのに執着したのは初めてだ。だからだろうか、すごく悔しい。


「お、戻ってきたね」


「ああ」


 ソファに座ってテレビを見ているホワイトを他所に、自分の部屋に入ろうとする。


「その調子じゃ、ダメだったみたいだね」


「......」


 普段ならムキになっているだろうが、今はそんな余力もない。そんな俺の様子を見かねたのか、ホワイトは俺の方へ近づいて、背中を強く叩いた。


「ま、ズブの素人が一ヶ月頑張った程度じゃ、一生かけて訓練してる人間には勝てないのさ。わかったらその悔しさをバネにして励むように!あ、あとついでにコンビニ行ってアイス買ってきて」


「なんでだよ...」


 励ましてくれてるのか、パシリにしたいのか、やっぱりこいつは変な奴だな。まあでも、少しだけ元気が出た気がする。


「はあ、わかったよ」


 そう言って外に出る。

 明日から、学校か。ま、頑張りますかね。


 そう意気込みながらコンビニに行ってる最中、悲劇が起こった。




「日暮、大斗くんはどれくらい成長した?」


 美月は含みのあるにやけ顔で、そう言った。


「銃の腕はそこまでって感じかな。体力はそこそこある。近接戦闘は、まあ」


「まあ?」


 私は彼のポテンシャルを知っている。

 才能とまではいかないけど、伸び代はだいぶある。将来有望な程に。もしかしたら私より強くなるかもしれない。


 普通、一ヶ月頑張った程度字じゃあれだけ強くはならない。それだけ本気だったのか、あるいは。


「強いよ、大斗は。並の半グレ、1人や2人なら返り討ちにできると思う」


「ほー」


 調子に乗らせないために、この情報は大斗には教えない。

 そもそも、この世界で強くなるためには、失敗と成功をバランス良く体験することが近道になる。


 今の挫折が失敗体験だ。そしてこの街は治安が悪いため、柄の悪い奴に絡まれることが多い。特に、今みたいな夜は。


 大斗は強い。そいつらを返り討ちに出来るはずだ。ならそれは、強い成功体験になる。


 それをわかっていて、美月はコンビニに行かせたのかもしれない。


「はあ、つくづく素直になれないね、あんたは」


「ツンデレは男子に好まれるんですよ?奥さん」


 ま、期待してるよ、大斗。




「あ?てめえどこ見て歩いてんだよ」


 あー、こいつ前に遭った...。

 しかも、今のは完全にこいつから当たりに来てた。こりゃ目をつけられたな。


「す、すみません」


「はー、痛えわ。慰謝料として金出せ」


 やっぱりな。

 でもなんだ、怖くないぞ?どうみても、日暮の方が圧倒的に強いじゃないか。そうか、だから恐怖が無いんだ。こいつより強いやつと三三戦ってきたのに、こいつにビビるわけないじゃないか。


「おい、聞いてんのか?」


 胸倉を掴んで、ガンを飛ばしてきた。


「よくも一ヶ月前、やってくれたな。痛かったんだぞ」


「あ?いいから金出せや」


「いいからじゃねえよ。お前が出せ」


「...わかったよ」


 そう言うと、奴は大きく拳を振り上げた。


「じゃあ死ね」


 振り下げられる拳。


 だが俺は首を少しずらして、寸前でその拳を避けた。


「てめえ!!!」


 逆上してもう一発決めてくる。


 が、その前に俺は、奴の右膝に蹴りを入れた。


「ぬおっ!?」


 間抜けな声を出して、胸倉を掴んでいた手を離し、崩れるようにその場にしゃがみ込んだ。


「やりやがったなああああ!!!」


 立ち上がりと同時に、大きく拳を振り上げる。


 ワンパターンだ。そんな攻撃、もう当たらん。

 俺は避けると同時に、顎に上段突きを決める。そして、脳が揺れ、たちまち立っていられなくなった奴の左腕を引っ張ると同時に、右ストレートを溝落ちに叩き込んだ。


「がっ!?」


 痛みに悶絶する奴を見下ろす。


「じゃ」


 そして、その場を離れた。


 ...。

 ......。

 やったあああああああ!!!見たか?え?勝ったぞ!!!成長してんじゃんか!!!しゃああああ!!!俺ってやっぱ強えんだな。銃はイマイチだけど体術は強えんだわ。

 いやー、気持ちいいねえ!スカッとするねえ!


「しゃ...!」


 薄い声で呟いて心の中でガッツポーズを決めた。


 その後、帰ってきて自慢話をし「結局調子に乗ってるじゃん」って思われるのは当然の結末だった。






*面白いと思ったら、高評価していってくれると嬉しいです。

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