第79話:プライド
*不定期更新です。基本13時に更新してます。
2人対照的な位置に並ぶ。
向こうもこちらも木刀を構え、お互いにお互いの姿を目に映している。
最後に戦った日から、強くなったという実感は無い。あまり日にちが経っていないというのもあるが、私には強くなったと思えるほどの自信がないのだ。
この戦いで美月は、私が持つ大切なものがなんなのかを気づかせてくれると言った。
この戦いを通して、勇気を持てるようになると言った。
美月の言うことは、昔から信用できる。外したことなんてない。
そんな美月がそこまで言うなら、きっとこの試合には意味があるはずだ。
なら、見つけてみせる。私の大切な、命を賭してでも守りたい何かを。
「行きます...!」
「っ!」
私の目を見た美月が一瞬だけ、驚きの表情を見せた。
その隙を、私は逃さない。
「セヤアアアアア!!!」
木刀同士が当たって、バンと大きな音が鳴る。
防いでくるのは読めている。なら、防ぎきれなくなるまで手数を稼ぐ...!
「ハアアアアアアア!!!」
連撃に次ぐ連撃を浴びせ続ける。右へ左へ、時には上下に振り、体の芯をブレさせる。
しかし、美月はそれを余裕を持ってかわし続けた。超人的な身体能力だ。
そうだ。こんな攻撃が避けられることなんて。
「わかってる...!」
美月が強いことも、自分が美月よりも弱いことも、何もかも。慢心なんかしていない。それは前に捨てたものだ。
私が誰よりも知ってるんだ!美月が強いってことを!隣でずっと見てきた私が、ずっと一歩後ろから歩いていた私が、誰よりも...!
「私は!!!」
横薙ぎを飛ばす。しかしそれを美月は軽々と避け、私の胸に刺突を決めにかかった。
ああ。
終わりだ。
負けるんだ。
私は、また。
「...ッ」
その時、美月の体に師匠の姿が投影された。
ああ、そうだ。私は結局師匠に勝てなかったんだ。そして美月にもまた負けるんだ。
何も成長していない。何も変わっていない。
何が大切で、何を守りたいか、根底に沈んだ私の真意もわからないまま、私はまた。
負ける。
『お前に足りないものは、勇気だ。自分が傷つく勇気、他人も傷つける勇気。その勇気のなさが踏み込みに出ている。前に進む脚を鈍らせているようじゃ』
そういえば、以前にも師匠に言われたことがあったな。
本当に私は昔から、何も変わってないんだな。
私が守りたかったものなんて、無いんだ。勇気なんて最初から持ち合わせてないんだ。
目を瞑り、全てを悟る。
その瞬間、師匠と美月の後ろ姿が不意に瞼の裏に浮かんだ。
いつも見た光景だ。私の手じゃ、どれだけ伸ばしても届かない。
そんな...。
「そうだ」
何かが頭をよぎった瞬間、脚に力が入る。
何故気づかなかったのか。何故思い出せなかったのか。
「...」
美月の木刀による突きが飛んでくる。
「!」
しかし、それが何故だかスローに見える。
お陰で易々と避けることができた。
ただ、そのスローは一時で終わってしまい、距離をとった時にはもう切れていた。
「その顔、何か掴めたみたいだね」
「はい、お陰様で」
そう言うと、2人は再び構えの姿勢をとる。
そうだ。私が何より大切にしてきた、守りたかったもの。
みんなを助けたいという想いも間違いじゃない。ただ、そんな綺麗な感情は私の行動の根底にはない。
私の奥底に眠ってるもの、それはもっと泥臭く醜いものだ。
でも。
でも、それで良いんだ。
私が守りたかったもの、それは。
それは、美月と師匠の背中。高みに位置するゴールへ至らんという不屈の向上心。
絶対に負けたままでは終わらせないという、尊大なプライドだ。
それこそが私の守りたかったもの、私が身を挺してまで戦える理由。
そして、私の勇気の源だ。
「行きます、美月」
大上段に構える。その表情を見て、美月の体が一瞬こわばった気がした。
刹那、何かに背中を押されるような感覚を覚えた。それは不思議と温かく感じ、そして同時に安心感のようなものを感じた。
「早い!?」
その声が聞こえた頃には、私の体は美月のすぐそばまで来ており、上段に構えられた剣は大きく弧を描いて下に振り下ろされた。
「終わりです...ッ!!!」
バンと大きな音が鳴り、道場の床に木刀が当たった。そう、当たったのは床だ。美月の木刀にも体にも当たってない。
「あっぶなかった...よっ!」
「うぐっ」
勝負はあっけないものだ。いつの間にか横に入り込んでいた美月が、私の首元にそっと木刀を置いた。
負けだ。きっと今のが私の全力だった。それでもなお、私は勝てなかった。
でも。
「どうだった?美月」
「ありがとうございます。お陰で決心がつきました」
私はそう言うと、美月の元へよって手を差し伸べた。
「みんなのためにも、師匠のためにも、そして私のためにも、私は戦います」
美月はそんな私を見て微笑みを浮かべ、手を握った。
「うん、いい表情だ。じゃ、よろしくね、美月」
そうして私は戦いに参加することとなった。
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