第78話:大切な何か
*不定期更新です。基本13時に更新してます。
「ハッ!!!...ハッ!!!...」
立木に木刀を何度も当てる。
手が痛い。見てみると木刀の柄には血がべっとりとついていた。
それでも尚、剣を振るう。あの日から1というもの、私は猛特訓に励んでいた。その甲斐もあってか、立木は左右ともに大きく凹んでいた。
何を焦っているのだろうか。
言われたはずだ、お前の負けだ、と。尚も戦おうとした私に対して醜いと。
嫌になる。わかっている。今の私は見ていられないほどに醜い。師匠から行くなと言われた以上、こんな量の特訓をしたところで、意味はないのに。
とにかく、負けたことが悔しくて、師匠が言った十文字楓に勝てないと言われたことが悔しくて、そして、悲しい。
今の私の力じゃ、師匠が抱えているであろう闇を拭うことができない。
様々な黒い感情が私の胸の中に巣くっているが、それが一番辛い。
その思いを払拭するために、こうやって剣を振っているのだ。
師匠は今、戦っているだろうか。相手は一之瀬組か、それとも十文字組か、それとも十文字楓か。
いや、わかってる。師匠のことだからどれでもないだろう。きっと師匠は、弟子である十文字楓を闇から救えなかった自分と戦っているのだろう。
私じゃ、師匠を救えない。私は師匠を救えない。救うだけの力がない。
今、どうやら十文字組と一之瀬組は戦っているらしい。きっと師匠も戦っているだろう。
戦力になれるなら、私も行きたい。師匠のことを度外視にしても、私には友がいる、守るべき同胞がいる。その人たちのためにも、戦いたい。
麻痺も幾分か良くなった。
でも。
「はぁ...はぁ...」
あの言葉が鉛のようにのしかかって、判断を鈍らせる。
私は一体、どうしたら良いんだ。
その時、家のインターフォンが鳴った。
「火花ー!いるー?」
その声は美月のものだった。私は驚きながらも、短い返事をして玄関を開ける。
「おっと、びしょびしょだね。久しぶり、火花。元気してた?...まぁその調子じゃ元気とも言えないか」
「すみません美月...」
「何を謝ることがあるんだい?」
「私は...美月たちが戦っているってわかってた。でも、加勢しに行かなかった」
「そんなの全然いいよ。だって火花は毒の後遺症が残ってるって聞いたし、無理に死地に連れていくのも違うしね」
「ですが、ここに来たということは、私を連れに来たということではないですか?」
「んー、まあ、そうかな」
「...私は」
言いかけたところで、美月が「あー」と口を挟んだ。
「とりあえず着替えたら?私も中でちょっと休みたいし」
「あ、すみません。すぐ着替えます」
「ん、了解」
私は急いで戻って着替えを済ますと、お茶を手にして客間に入った。
「ありがと」
「...私は、どうしたらいいんでしょうか」
「いきなりだね。とりあえず、何があったかどうかだけ教えてくれない?」
「そうですね」
そうして私はこの別荘で起きたことと聞いたことを、美月に話した。
「なるほどそんなことが。まさか重蔵さんにもう1人弟子がいたとは。しかもクロウの幹部クラスか」
「その弟子が師匠よりも強く、私じゃ勝てないらしいんです。だからお前は戦うなと」
「その十文字楓がキミより強いことが、どうやったら戦争に参加しないに繋がるの?」
「それは...わからないですけど」
「ま、十中八九心配だからだろうね。自分に勝てないようなやつを戦争に関わらせたくないっていう考えがあるんだろうね」
「そうでしょうか」
「んーともあれ、参加するかしないかはキミ次第だよ」
「私次第...?」
「そうだよ。重蔵さんは確かに止めた、でも、キミが従順になる必要はない。最終的にはキミが決めるべきことなんだ。それとも、キミは自分の考えを持ち合わせていないのかい?」
「私は...」
戦いたい。
弱いと言われても、私じゃ勝てないと言われても、結果死ぬと言われても、それでも、みんなのために戦いたい。
「でも...」
「キミは勇気が足りないね」
「勇気?」
「自分の意思を貫く勇気、一歩踏み出す勇気、誰かを傷つける勇気。そのどれもが、キミには足りない。まあ、私も全然だけどね」
それを言われてハッと気づく。
子供の頃から私にはそれが無かった。師匠から剣を学び、強さを磨くにつれてその勇気も培ってきたと思っていた。
しかしそれは、間違いだったんだ。
私はあの頃から、大した成長をしていない。いじめられてきたあの頃から、何も。
「どうしたら良いんでしょうか」
口を吐いてそんな言葉が溢れてしまった。
駄目だ。私は美月にだけは弱いところを見せたくなかったのに。
「でもさ、キミは勇気を生み出すことができるんだよ。何か大事な守るべきものがあるから、自分を奮い立たせることができる」
「守るべきもの?そんなもの、感じたこともないですよ」
「無意識でもさ、キミには必ずある。じゃないと私たちの戦いに参加なんてしなかったし、毒をくらってまでもあそこで戦おうなんて思わなかったはずだよ」
「大切な...守るべきもの...」
「今キミはそれを忘れている、迷走状態ってやつだ。でもきっとキミは気づくことができる。無意識に大切にしてきたものを意識できるようになる。そうなったら、絶対キミは強くなれる。勇気を持てる」
「私の大切な...」
考える。
私の大切なものはなんだ。正しいと固く信じていることはなんだ。
あの時、私は何を考えて、何を守ろうとして戦った?
そうだ。
私はみんなを守りたくて戦ったんだ。それ以外は無いはずだ。ただみんなを助けたくて、みんなの力になりたくて戦った。それは決して嘘じゃない。
でも何か、何かがつっかかる。
嘘じゃないはずなのに、それが本心だとも言い切れない。
何かが、根底にある。みんなを助けたい、力になりたいという気持ちの奥底に、何かが沈んでいる気がする。
一体何が...。
「火花、久しぶりに一戦やろっか」
「え?」
その誘いは意外だった。美月はそもそも試合に積極的ではないし、何より脈絡がない。
「考えてもわからないときは、体を動かすべきだよ。それに、あの時よりキミは強くなってる。私もキミの真の実力を知りたいし、キミ自身もキミの実力を知るべきだ」
「...わかりました。では、道着を貸しますので、道場に来てください」
「うん」
そうして私と美月の模擬試合が決まった。
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