第77話:黒い予感
*不定期更新です。基本13時に更新してます。
ゴールデンに戻り、自室で考え事をしていた。
「重蔵さん...」
新倉重蔵。
一之瀬組組長の亮吉さんと仲が良く、いつも組に来ては、火花さんと鍛錬を行っていた。
強さは十二分にわかる。故に、戦っちゃいけないってこともわかる。
でも、もっと根本的な問題がある。それは、親しい人であるということだ。
もともと面識があって、それなりに仲が良かった。だからこそ、戦いづらいし、何よりやるせない。
俺はまだマシな方だ。だが、ホワイトは?火花さんは?亮吉さんは?重蔵さんは、どうなる?どんな気持ちで戦えばいい?
下手を打てばどちらかが死ぬことだってある。そんな現状に、あの人たちはどう思っているだろうか。
一番心配なのは火花さんだ。あの人は重蔵さんのことを相当慕っていたし、尊敬していた。
「...くそっ」
苛立ちを夜の闇に吐き捨てる。
出来ることはない。もどかしい。
とにかく、起きたことを対処するしか方法はない。裏で操っているであろう羽のアジトさえわかればいいが、それも至難の業だろう。一応、今必死に裕樹先輩が情報を集めているらしいけど、情報統制が強すぎて難しいと言っていた。
「いつまで後手に回り続けるんだ...」
悔しさを交えながら、眠りについた。
翌朝。
俺たちは早速組の事務所に行って、今日の見回りについて話し合った。
「密偵によると、富岡町のアジトに十文字組はいなかった。ヤサを変えている可能性が高い。ただ、奴らの侵入経路からみるに、恐らくは新古町の東、空絵台の方にあると考えられる。俺たちは今後、空絵台方面の警備を強くする」
松村さんはそう言うと、ホワイトボードに班の名前を書き始めた。
「うちは元より小規模組織、精々1班につき3人が限界だ。実力が均等になるように決めたが、そこのところは了承してくれ。では、班と見張り範囲を発表する」
そうして俺たちの班と行動範囲が決まった。
「祐樹先輩と一緒かぁ」
「あ?文句あんのか?」
「いや、別に良いですけど...」
「おい、その含みはなんだ?いい加減にしないと傷つくぞ」
「あ、はい、すみません」
俺たちがふざけていると、残りの班員である柳さんが苦笑いを浮かべながら振り返った。
「ほら、ふざけていないで、行くぞ」
その声に返事をし、指定された見周り範囲に向かう。
「今日も来ますかね」
「多分来るんじゃねえか」
「なんでそう思うんです?」
「来ない理由ないだろ。戦力差は向こうに方が上だし、定期的に寄越すことで、徐々に戦力と精神的を削ることができる。ま、それを極力減らすためにこうやって班分けしてるわけだけど」
「手っ取り早く仕留めにはこないんですね」
「一応俺たちの組織は警察にマークされてるからな。派手に事件でも起こして、道連れにでもなっちまうかもしれない。それを考慮してんじゃねーの」
「なるほど」
「ちょっと2人、あれ」
その時、前を歩いていた柳さんが前を指差した。
そこには数人の武装した6人の男たちがいた。柳さんは見覚えがあるようで「十文字だ」と呟いた。
「やっぱり来ますか」
ナイフを抜き、各々臨戦体制を取る。
「死に晒せ!!!」
1人が声を上げると同時に、6人が突っ込んでくる。
大丈夫。動きから察するに、実践経験が浅そうだ。ちゃんと特訓していれば、これぐらいなら無傷で勝てるはず。
「先輩!柳さん!」
「おうよ」
「ああ」
「ふぅ...勝ちましたね」
「ま...まあ?これぐらい余裕だわ」
「汗だくだくじゃないですか。先輩は弱いんですから、無理しないでください」
「2人とも全然大丈夫そうじゃないか。俺なんてヘトヘトだぞ」
「まあその...歳とかありますしね」
なんか失礼な言い方になってしまった。こういうとき、なんという言葉を言えばいいのかわからないんだが。
「とりあえず、しばらくこいつらを組みに連れ帰ろう」
「はい」
そうして俺たちは応援を呼び、車を使って6人を連れ帰った。
「よし、良くやった。さて」
松村さんは6人の顔を覗き込むと、鬼の形相で睨んだ。
「こいつらには情報を吐いてもらおう」
奴らは青ざめながら何処かへ連れて行かれた。
「吐きますかね」
「さぁ?」
それから、俺たちは見回りを続けた。1日目も2日目も襲撃はあったが全て返り討ちにし、3日目以降は全体的に襲撃が少なくなった。
俺の隊も、他の隊も目立った損耗はなし。全て上手くいっていた。
しかし、1週間経ったある日、1つの凶報が届いた。
それは、俺たちが見回りをしていた時だ。
「電話だ」
裕樹先輩はそう言うと、ポケットからスマホを取り出し応答した。
その瞬間、先輩のスマホを持つ手に力が入った。
「はい...はい...すぐ行きます。では」
「どうした、裕樹」
柳さんが訊ねると、先輩はスマホをポケットにしまい、冷や汗をかいた顔を上げた。
「重蔵さんが現れたらしい」
「!?」
「場所は...いや、向かった方が早いな。今美月が応戦してる、俺たちも急ぐぞ」
「はい!」
とうとう来てしまったこの時が。
緊張感が緩み始めた時期にこれだ、狙ってやってるだろうな。
重蔵さん...本当に、どうしてこんなことになってしまったのですか?どうして何も言わずに、敵に回ったのですか?
「あそこだ!」
裕樹先輩が叫ぶと、そこには腕から血を流すホワイトの姿があった。
「ごめん、逃したし...守りきれなかった」
涙を浮かべながら足元を見るホワイトの目線の先には、3人の死体があった。
「これは...秋田と羽山と弘前だな」
柳田さんはそう言うと、そっと目を閉じて手を合わせた。
「ホワイト、お前は大丈夫なのか」
「私は全然平気」
「相手は本当に重蔵さんだったのか」
「うん、鬼の仮面付けてたから顔はわからなかったけど、多分重蔵さん。戦い方もそっくりだった。それより...」
ホワイトは悔しそうに握り拳を握る。
「私が救援に来た頃にはまだ生きてたのに...!クソッ...!」
「ホワイト...」
その時、サンドラさんが言っていた言葉を思い出した。
こいつは、仲間想いなんだ。だからこそ、仲間を殺された時、人一倍感情を爆発させてしまう。そして、制御が効かなくなる。
「...戦力がやっぱり足りないね。明日、火花を連れてこようか」
「確かに、それはありかもしれないな。でも、最近連絡来てないんだろ?」
「うん、だけどあの子なら協力してくれると思う。ただ、体の麻痺が残ってるだろうから無理はさせないけどね」
そう言うとホワイトは「見回りしてくる」と言って去っていった。
「あいつ、大丈夫かな」
「ああ、流石の俺でも心配になってきたな。美月、あいつなんでもできるけど、こういう気持ちの処理とかは苦手なんだよな」
「ああ、でも、美月ちゃんほどではないが俺もキレてるぜ」
柳さんは立ち上がり迫真の顔を見せた。
「俺らの同胞を殺したんだ。相手にどんな理由があろうと、それは変わらねえ。だから俺は、新倉重蔵が憎い、十文字の連中が憎い!絶対に許さん!」
そうだ、この人たちは極道。人間なら誰でも仲間を殺されれば、理由があろうとも怒るのは当たり前。それがメンツを大切にして生きている極道なら尚更だ。
最初の襲撃時も死人が出た。だが、その時は十文字組ではなく、それを裏で操っている羽に対して怒っていた。
もしかしたら、我慢していたのではないだろうか。どんな理由であれ、殺害を実行に移したのはまごうことなき十文字組。であれば、羽の指示によって実行したにせよ、十文字組に対して怒りに感情が向くのは当たり前の話ではないか?
十文字組は一之瀬組を狙い、攻撃し続けるが、一之瀬組は十文字組に対して自主的な攻撃を行わない。そんなの極道世界じゃあり合えない話だ。攻撃には報復、そうやって生きてきたのだから。
それをあの時、彼らは無理くり怒りの矛先を羽だけに絞った。
だからこそ、今回は爆発したんだ。1度目は封じた怒りだが、2度目となればそう上手くはいかない。
今、柳さんの怒りの矛先は羽ではなく、十文字組ひいては、新倉重蔵に向かっている。そしてそれは、恐らく他の組員にも伝播する。
もしかしたら、羽の狙いは最初からこれだったんじゃないか。
十文字組を配下に入れた真の理由。
極道の習性を使って十文字組にヘイトを集め、最終的に...。
「自主的に抗争を起こさせるため...」
「どうした」
「い、いえ。それより、車も呼んだことですし、どうしますか?このまま帰るのも」
「いや、見回りしよう。十文字は見つけ次第殺す」
柳さんは血を流し倒れる3人に追悼をすると、直ぐに見回りを再開した。
もし、俺の考えがあっているのなら...いや、考えないようにしよう。
*面白いと思ったら、高評価していってくれると嬉しいです。




