第76話:抗争
*不定期更新です。基本13時に更新してます。
今日もいつも通り訓練の日だ。
この訓練で、俺たちの実力は飛躍的に向上した。冗談でも比喩でもなく、マジだ。
「いやー、この訓練もキツくなくなってきたな」
隣で走る日暮に声をかける。
日暮は呆れた顔で、俺の脇腹を小突いた。
「そういうこと言ってると、また練習量増やされるから言うな」
もっともだ。余裕ぶってると鬼トレーニングが始まる。
ただ、このトレーニングに慣れてきたのは事実。他の人、極道組の人たちも、最初のうちはヒィヒィ言っていたが、今では汗をかく程度。
「でも、やっぱ大変なのは変わりねえな」
後ろを走る松村さんは、息を切らしている。歳っていうのもあるだろうな。
その時、何処からか携帯の音が鳴った。
「ああすまん、俺のだ」
松村さんはそう言うと、ポケットから携帯を出し、訓練場のレーンから出た。
「...わかった、今行く」
その声はいつもよりも冷たく、何かを覚悟したかのような声だった。それを聞いて、俺たちの足が一斉に止まる。聞こえていない人も、そんな様子を見て足を止めた。
「来たか」
サンドラさんが松村さんに近づく。皆、険しい顔を浮かべていた。
「十文字の鉄砲玉に組員がやられた。新古町東でも、十文字組組員がうちの組員と喧嘩してる」
「十文字か...なるほど、奴らも姑息な手を使う」
サンドラさんはやけに落ち着いていたが、俺たちは落ち着いていられなかった。
「じゅ、十文字組って、同盟結んでるんじゃ...!」
「今はそうだが、かつては抗争するほどの仲だった。恐らく、警察の目を欺くために、羽の連中が仕組んでんだろ。厄介なことになった」
「いやでも、そんなの...!だって、十文字組には...!」
日暮の言葉に、皆の表情がさらに険しくなる。
そうだ。もし、十文字組と抗争することになってしまったら、あの人はどうなる...!
「とにかく、この喧嘩は羽との戦争の始まりを告げる合図になるだろう。もうこんな訓練なぞ、してる暇はない。今すぐ行くぞ」
サンドラさんの掛け声と共に、俺たちは組の事務所へと向かった。
組の事務所に入るのは初めてではない。一度だけ入ったことがある。
このビルを中心として、一之瀬組は活動している。
ビル内は人気の少なさに反比例して、うるさかった。それもそのはずだ、組が襲撃され、騒然としないわけがない。
「萩原、全員集めろ」
松村さんは、事務所の部屋に入るや否や、舎弟らしき人物に指示を出した。すると、狭い事務所内に、組員が全員集まってくる。
「状況説明」
「はい、新古町3番街で、田中、福田、乙村の兄貴たちが襲撃に遭いました。また、司馬の兄貴が西通りで鉄砲玉による襲撃に遭いました。田中、福田の兄貴が軽傷。司馬の兄貴は意識不明の重体。そして、乙村の兄貴は...亡くなりました。他舎弟5人も死亡です」
「なるほど。田中と福田は」
「ここに」
その声と共に、顔面を腫らした2人組が前に出てきた。
「相手は本当に十文字組で間違いないのか」
「はい。十文字の高野と大倉がいました。あいつら、とうとう裏切りやがって...」
「落ち着け、あいつらも本望でやったわけじゃない。今の十文字組は、恐らく羽の傀儡だ。襲撃タイミングや、これまでの被害を考えれば、そうとしか考えられねえ」
「でもだからって、このまま黙ってちゃ、一之瀬組も終いですよ...!」
「ああ、だからな、残念ながらそうならないために戦うしかねえ。親父はこの場にいないが、同盟はこの時を持って破棄とする。無慈悲にいかねえと、生きていけん」
そう言うと、松村さんは俺たちの方へ振り向いた。
「ということだ。俺たちは全面的に戦う。それで、これが最後通牒だ。退くなら今」
その時、松村さんの顔が、人が変わったかのように急変した。まるで、般若の面のような顔だ。
その顔に、少なくとも俺はビビってしまった。
「選べや、ガキども。命かけれんのか」
ドスの効いた声と共に俺たちに顔を近づけた。
サンドラさん以外の、シルバーの面々を順々に睨みつける。
怖い。だが、俺たちの意思は変わらないだろう。
そう思っていると、ホワイトが前に出た。
「松村さん、前までのあなたなら、優しく諭して私たちが戦争に介入するのを阻止したはずです。でも今は、ただ覚悟を問うているだけ。つまり、私たちが戦いに参戦しても、問題ないと判断したということです。なら、答えは1つでしょう?」
「やるのか、やらんのか、どっちだ」
「やります。答えは変わらない」
ホワイトは顔色一つ変えずに、言い放った。その言葉に、俺たちも同調して頷く。
最初から、何一つ変わってない。
「...わかった。手伝ってくれ」
「いいんですか、カシラ!子供を参戦させるなんて、親父が黙ってませんよ!」
「...今でも気は引ける。だが、これまでの訓練を見てきて、こいつらが如何に覚悟を決めているか、十分把握させてもらった。こいつらの覚悟は本物だ。その気になれば、命をかけてやってのける。そんな奴らの根性を、無碍にするわけにはいかねえ」
「......」
「それに、今は猫の手でも借りたいからな。助っ人なら、大歓迎だ」
そう言うと、松村さんは再び俺たちの方へ向き直った。
「今日の襲撃は、恐らく宣戦布告だろう。あまり派手に動くと警察にしょっ引かれるだろうから、大きな行動はしてこないはずだ。ただ、その分今日みたいな奇襲や1人を狙った時の襲撃が横行すると思う。相手はもう極道じゃねえ、仁義なんてもんはないと思え。これからは、見回りを強化する。見回り組も3から5人に変更だ。一之瀬組の組員を見つけ次第、問答無用で殺せ。無理なら逃げろ。もちろん、シルバーのお前らにもやってもらうぞ」
「はい、わかってます。覚悟はできているので」
「よし。二つだけ注意事項だ。あいつらは恐らく、正々堂々と戦うことはない。さっきも言ったが、警察が来る前に、早く終わらせようと奇襲を主にしてくる。だから、周りには気をつけろ。そして、正々堂々と戦おうとしてくる奴とは、戦うな」
ざわつく。
それもそのはずだ。奇襲より、真正面からの方が戦いやすい。それなのに、戦うなって、どういうことだ。
「正々堂々戦おうとしてくるということは、奇襲しなくとも勝てるという自信があるってことだ。そういう奴らは猛者だ。生半可な実力者じゃ勝てん。中でも、山田と日野、あいつらを見たら逃げろ。勝てない」
その言葉に、またざわついた。
騒然を打ち消すように、松村さんが「ただ」と言った。
「ここにいるシルバーなら、山田も日野も倒せるだろう。シルバーと当たったら、逆に戦ってもらう。良いな?」
俺たちは口を揃えて「はい」と返事をした。
「しかし、こいつと出逢っちまった時だけは、シルバーの奴らも逃げて欲しい。恐らく、美月じゃないと勝てない」
皆、固唾を飲む。
わかってる。でも、聞きたくない。その名前だけは、聞きたくない...!
俺たちの願いも虚しく、松村さんはその人の名前を口に出した。
「『鬼の人斬り、新倉重蔵』こいつだけは、なんとしてでも逃げろ」
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