第73話:成長、そして
*不定期更新です。基本13時に更新してます。
俺たちの修行は続いていた。
「オラッ!」
蹴りが炸裂する。しかし、対戦相手の裕樹先輩も、負けじと接近戦を挑んできた。
俺は、放られた拳を避けると、右手に持っていたナイフで鳩尾を刺した。もちろん本当に刺したわけではない。
その試合の結果としては、俺が勝った。
「はぁ...はぁ...」
「お前...強くなったな...」
両者とも息が上がっている。疲れた。ただそれ以上に、自分の実力がメキメキと成長しているのがわかっている。
「ホント、強くなったよね」
タオルを持ってホワイトが近づいてきた。
「想像以上だな。まさか俺が越えられるなんて...」
「本当に強くなる速さが尋常じゃない。伸び代もまだあるし、もしかしたら...」
意味深な含みに対して「何?」と怪訝な目線を送ると、ホワイトは「何でもない」と言って取り繕った。
何だ?こいつ最近、俺を見る目線というか、色々おかしくなってないか?
ま、いいけどさ...なんかやりにくいよね。
「次は私の番だったかな。行ってくるよ」
そう言って訓練場へ歩みを進めようとした瞬間、ホワイトは思い出したかのように足を止め、裕樹先輩の方を向いた。
「試合終わったら話あるからね」
「話?何の」
「な、い、しょ」
人差し指を振って今度こそ訓練場へと向かっていった。
「何の話ですかね。もしかしたら告白だったり」
「告白だったら断るわ。あいつと付き合ったらろくなことにならんぞ絶対」
想像してみる。
うん、先輩の言う通りだ。振り回されそう。
「前も言ってましたけど、あいつが訓練しても意味あるんですかね」
疑問を投げると、裕樹先輩は思い返すように上を見上げた。
「わからん。まあなんかあるんだろ、相応な理由ってもんが」
「あいつに足りないのは精神力だ」
その声と共にいきなり割って入ってきたのはサンドラさんだった。
「精神力、ですか?」
「ああ。あいつの実力は十分にある。私とて、あいつと戦っても勝てないだろうし、私から見れば、あいつの実力は最高点だ。だが、いかんせん精神力が足りない。人一倍仲間想いなんだろう、そのせいで仲間が傷つけられれば怒りが先に出てしまう。そうなれば、あいつの本当の実力が出せなくなっちまう」
俺たちからしたら、ホワイトは完璧に見える。性格とかはそうでもないが、何でもこなすことができる女子高生ってイメージだ。
そんなホワイトにも、弱点と言えるものがあった。
精神力。仲間想いが故に、感情が爆発してしまう、と。
「そうなんですか...」
「精神力の鍛え方は、とにかく体を動かすことだ。まあ、これでどうにかなるとは思わんがな。ただ...これから先は死闘になる。本当に誰かが死ぬかもしれん。その時が万一訪れた時、このままじゃあいつの精神は保たない。だから、気休め程度にはなってくれるといいがな」
そう言うとサンドラさんは少し悲しい顔をした後、俺たちの頭に手を当てた。
「それよりお前ら。私か美月に認められるまでこの訓練終わらないって言ったよな?いつ認めさせてくれんだ?あ?」
凄まれてしまい、俺たちの身長が縮んだかのような錯覚を覚える。怖いよ、この人。
ただ、サンドラさんが言う通りだ。実は何度か戦闘をしているのだが、一向に勝てる気配がない。どころか、認めてもらえる気配すらない。それほどまでの惨敗を繰り返している。
しかし、諦めるわけにはいかない。俺には強くならなきゃいけない理由がある。俺は...。
「次、やらせてください」
そう言うと、サンドラさんの表情が心なしか緩んだ気がした。
「そのいきだ。一之瀬のてめえらも、休んでんじゃないぞ!」
喝を入れると、松村さんを筆頭に肩を跳ね上がらせ、各々怯えた声で返事をした。
翌日からも、激しい訓練の日々が続いた。
「あともう一周!」
最初のうちは疲れていた地獄の持久走も、少しずつだが慣れていった。もちろん、地獄なのは変わらないが、極地獄が並地獄に変わるくらいには慣れていった。
「一斉銃撃、始め!」
銃撃も、前より上手くなった気がする。もちろん、まだまだ下手だけど。
そして。
「今日こそはあたしに認めさせろ」
「わかりました」
サンドラさんとの間に重い空気が流れる。何度も繰り返したこのやり取り、もうこの空気感には慣れた。
「行きます」
一歩踏むと、すかさずに銃撃を仕掛けてくる。俺は遮蔽を利用しながらそれを避け続けた。
俺の弱点は銃撃が下手くそなことだ。そこそこ腕が立つガンマン相手に距離感を見誤れば、圧倒的に不利になってしまう。
だから、俺の戦闘スタイルはこうだ。
「ハアアアア!!!」
飛び蹴りがサンドラさんの顔面目掛けて飛ぶ。サンドラさんはそれをいなすと、ナイフを即座に取り出し斬り合いを始めた。
正直、前から何も変わってない。ゴリゴリの近接戦闘だ。だが、前と違って銃への未練がない。ここ数週間で銃の腕が全然上がらないことに気づき、逆に吹っ切れた。そのお陰で銃に対しての未練がなくなり、近接戦闘に集中することができている。
そのため、前よりもパフォーマンスが上がっている...と思う。
「中々やるようになったじゃねえか」
「お陰様です!」
ナイフを横に薙ぐと同時に、足払いをかける。サンドラさんはそれを避けるために飛んで後退した。そして同時に3発銃弾を入れる。
前までは被弾していた。だが今は読める。俺の第六感が教えてくれる。
弾道を、狙いを、全て。
「...!」
素早く静かに、そして避けつつ銃を撃ちながら近づく。当たらなくていい、ただの牽制射撃だ。
「やはりその力、成長すれば侮れんな!」
「ハアアア!」
また切り込み合いに発展するかと思いきや、サンドラさんは大きく後退し、近づくことを許さなかった。追従するように追いかける。
しかし次の瞬間、サンドラさんの動きが止まり、どころかこっちに向けて走ってきた。
「嘘だろ!?」
嘘じゃ無かった。サンドラさんは俺の腕をがっしりと掴むと、投げの体勢に入る。
そして俺の体は宙を舞った。
「オラアアアッ!!!」
しかし、俺は叩きつけられることなく踏ん張り、その力を利用して逆にサンドラさんを投げつけた。
「よし!」
が。
「よしとはなんだ?」
「え?」
俺の胸に球が当たった。投げたはずじゃ...。
「甘いわ。お前ができることを、あたしができないとでも?」
「...おっしゃる通りです」
慢心が過ぎたな。投げたと思ったけど、受け身を取られたかなんかして負けたんだろう。
最悪だ。
「詰めが甘い。死を確認するまで、油断はするな。まあこの言葉はあたしにも刺さるが...」
そう言うとサンドラさんは苦い顔を浮かべた。この人でもそういうことあるんだな...。
「ま、今の試合は及第点ってところだ。他の奴らも順当に強化されていっている」
サンドラさんは訓練場外に足を運んだ。
「そろそろ、あいつらも動き出すだろう。気張れよ」
「はい!」
そうだ。もうあれから3週間は経った。動き始めても遅くない頃合いだ。
始まる。また始まってしまう。
次、俺たちは生き残ることができるか。一之瀬組を救うことができるか。
俺は不安感を胸に抱えながら、訓練場を後にした。
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