第70話:地獄の訓練がやってきた
*不定期更新です。基本13時に更新してます。
地獄の訓練がやってきた。場所はシルバーの地下にある訓練施設。
俺にはわかってる。今から行われる訓練が地獄であること、そして、俺が生きて帰れないこと。
「なに深刻そうな顔してんのよ」
「いてっ」
項垂れた俺の頭を、日暮はジト目をしながら引っ叩いた。
「ま、私にもその気持ちわかるけどね」
「やっぱ、危ないのか?俺たちどれぐらい生き残る?」
「さぁ?あんたと虚と裕樹は死ぬんじゃない?」
「残酷だなぁ」
「それぐらい覚悟しといたほうがいいよ、なんせ教官はあの人だからねぇ」
目を向けた先には、1人の壮年女性。そう、サンドラさんだ。
「おし、お前ら!準備はいいか!」
集められたのは総勢16名。シルバーの5人と、極道風のおっさんの11人。
「誰?」
「一之瀬組の人たちだよ。狙われてるし、力も衰えてるから、戦えるようになっておきたいって」
「なるほど...」
一之瀬組は構成員の総数が30程の小規模組織だ。というより、この現代日本の極道なんて、大体は小規模らしい。30年前の経済衰退により資金源が乏しくなったため、そういう組織はやっていけなくなり、人員も組の総数も減っていっていると、前に亮吉さんから聞いたことがある。
そんな小規模組織の一之瀬組が、今となっては警察によって身動きができず、羽からも狙われている始末。やっていくためには、自衛する力が必要なのは自明だ。
「君が朝霧大斗君だな?」
近づいてきたのは、額に一文字の傷がついた、強面のおっさんだった。初見だ。
「は、はい、そうですけど...」
「はじめましてだな。俺は一之瀬組で若頭をやってる、松村宗介だ。これから共に訓練に励む仲だ。よろしく頼む」
「か、カシラですか...い、いつもお世話になってます」
「ハハ、シルバーに関して俺はなんもしてないさ。全部オヤジがやってるから、それを言うならオヤジに言ってくれ。まあ、今は言えるような状態じゃないけどな」
その発言に、意図せず暗い雰囲気が生まれてしまった。
亮吉さんは隠居していて、まだ警察や羽には見つかっていないと聞いたけど、心配は心配だ。
「そういえば、宗介さんはこんなとこ来て大丈夫なんですか?」
日暮が問うと、松村さんは苦笑いを浮かべた。
「まあ確かに良くはないんだろうが、このまま組に残って襲撃を待ってても、負けるのは明白だしな。それに、お前らガキたちに任せっきりってのも、極道のメンツが立たないってもんよ」
「なるほどですねー」
そう答えると、松村さんは神妙な顔で俺たちの方を向いた。
「...お前らが頑張ってくれるのは、気持ちとしては嬉しい。だが、俺もオヤジも、組のみんなも、お前らが命張って頑張ることに反対してるんだ。悪いことは言わねえから、ここで引いたらどうだ?」
松村さんの言葉に、皆黙って俯く。
そういえばそうだったな。俺たちシルバーは無期限の解散を命じられていた。それは、今でも続いていることだ。
でも、だからといって引くわけにはいかない。
「引きませんよ。私たちのやることは変わりません」
沈黙を破り、最初に口を開いたのはホワイトだった。
「だが、美月ちゃんも他のみんなも学生だろ?オヤジは学費もちゃんと払ってんだ。普通の高校生、大学生として生きた方が危なくないし、オヤジのためになる。お前らとしては、そっちの方が良い選択だろ」
「何を言っても私たちは引きませんよ。これ以上、犠牲を出したくないんです」
「だからって...」
「おいコラ」
ドスの利いた声と同時に現れたのは、サンドラさんだ。
その声により、辺りの温度が一気に冷え込んだ。
「あたしの話を聞く気がないなら、今ここでブチ殺す」
す、すげえ。極道相手にも変わらないその態度、もはや尊敬する。てか、怖い。松村さんも怖がってるし...。
「奴らの次の狙いは恐らく、あんたらが大事に思ってる一之瀬組だ。一之瀬組組長、一之瀬亮吉のネットワークは広く厚い。あいつがいれば、本命の朝霧大斗殺害に踏み込みにくいからな。つまり、あいつらは一之瀬組の壊滅、及び、亮吉の殺害を狙ってくるだろう。亮吉は隠居させとけばまだいいが、問題は一之瀬組本体だ。今の一之瀬組は弱い。襲撃すればすぐに崩れ落ちる。だから、守らないといけない。わかるか?襲撃までの期間で、それほどの力を手に入れなきゃならないんだ」
やけに落ち着いた声で言うものだから、逆に怖くなってしまう。
「いいか、よく聞け!これから訓練内容を伝える。空っぽの脳みそに全部詰め込め!二度は言わすなよ」
何故か姿勢を正してしまう。
「訓練期間は1ヶ月。これは、羽の奴らが一之瀬組に攻め込んでくるまでのおおよその期間だ。もちろん、相手のことは一切わからないため、訓練期間が短くなったり、突然終わったりするかもしれん。ただでさえ短いのに、更に短くなるんだ。つまり、その分訓練内容はキツくなる。覚悟をしておけ」
誰かが唾を飲み込む音が聞こえた。
「まず、基礎トレーニングだ。幸いここには体力作りに欠かせないトラックや、筋力増強に欠かせない筋トレ設備が充実している。それらをフルに使って行く」
もう気が滅入ってきた。どれだけ走らされるかわかったもんじゃない。もしかしたら、1日でフルマラソンくらい走らされるかもしれない。
つまり、死。
「そして実践訓練だ。1対1はもちろん、多対1も行う。ルールは使用武器である木製ナイフとペイントガンを使用し、どちらかを急所に当てた方が勝ちだ。対戦相手をローテーションで繰り返し、最終的にあたしと1対1で勝てるようになれ。それが目標だ」
無理、以上。
「これらの他に、日々の射撃訓練も行う。気を抜くと死ぬほどの過密スケジュールだ。体を壊さない程度に死ぬ気でやるぞ。ほら、すぐやるぞ、立て」
皆、何も言わないけど死ぬほど怖がっている。立つ時の速度が、それを物語っていた。
俺も怖い。
でも、やらなきゃいけない。俺たちはまだ弱いから。
今だに目について離れない。テレビ中継中に、人が爆発したあの光景。恐らく、警察機能に損傷を与えると同時に、口封じも兼ねて、あのようなことをやったのだろう。
あの人間爆弾は、民間人も警察も巻き込んでいた。そんな作戦、人が考えることじゃない。頭がおかしい。怖い。
でも、一番怖いのは、ああいうことを平気でやるような組織がまだ残っていること、そして、実際にそのせいで被害を被っている人がいること。
あんなこと、もう二度と起こしちゃいけない。そんなこと、絶対にあっちゃいけない。
だから俺たちは、強くならなきゃいけないんだ。
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あけましておめでとうございます。今年も、続く限りよろしくお願いいたします。




