第7話:修行
*不定期更新です。基本13時に更新してます。
目を覚ますと、そこは見知った天井だった。
「あー」
呻き声のようなエッジの効いた音が喉から出る。
やっちまったな。一週間に二度も意識を失うとはね。ま、天井からしてここはあの闇病院ではなく、アジトの方だ。となると、誰かが助けてくれたのか。
「あ、起きたんだね」
ホワイトだ。食器を並べた盆を持っている。
「これ、食べてね」
「サンキュー。ところで、どんだけ寝てた?」
「私が見つけたのが昨日の夜で、今が12時だから、いつものキミと同じくらいだね」
「自堕落な生活まで知られているのか...」
まあ、こいつは変な奴だが、今回ばかりは本当に助かった。流石にお礼はしておくか。
「助けてくれてありがとう」
「...」
なんか下向いてるし...。
ははーん?さては俺から感謝されると思ってなかったな。
にやけ面で見つめると、ホワイトは顔を赤くしながらこっちを向いた。
「ほ、本当に世話が焼けるよ、キミには...!」
平静を装っているつもりだろうが、まだ顔が赤い。
「と、とにかく!キミは弱い!弱すぎる!だから......訓練だ!!!」
ピーンと人差し指が俺の顔を向く。
すると、ホワイトの後ろから1人の女が近づいてきた。
「暑いねー。2人の間が熱いよー。クーラー壊れちゃったかなー?」
茶化しながら歩いてきたのは、日暮だった。
そんな日暮をホワイトは睨みながら「うっさい」と小声で呟く。
「さ、私が大斗の指南役として色々教えていくから、よろしく」
「ダイトクンノシショウノヒグレサンデーッスパチパチパチ」
ホワイトはわざとらしく棒読みで言う。仲悪いんか。
指南...あー、そういえば、昨日先輩が言ってたな。
「訓練って、何を?」
「ま、それは私についてくればわかるよ。そこの思春期jkは待ってな」
「うっさい!痴態メガネ!」
「今はメガネかけてないっての、じゃ、早くご飯食べちゃってね」
「はぁ」
そんな感じで、終始どこか不機嫌な白井さんと食を共にした後、俺は日暮に連れられ、とあるドアの前まで来た。
「ここって、拠点に通づるドアだよな」
「そうね。ただ、こっちにもドアがあるんだな」
見ると、ドアらしきものはない。
「無いけど」
「あるんだな」
そう言って、得意げに拠点の玄関の電子ロックに手をかける。
ただ、拠点の暗証番号じゃない。これは別のを入れているな?
日暮が番号を入れ終わると、右側面のコンクリートが音を立てながら上へ上がり、その奥に階段が出現した。
「す、すげええ!!!」
「すごいでしょ?さ、この先よ」
ロマンだ!この拠点にはロマンが詰まっている!
興奮しながら階段を降り終えると、真っ暗闇が広がっていた。
「つけるよ」
明かりがつく。
眼前にはめちゃくちゃ広い空間が生まれた。
こ、これは...。
「ひっろぉ」
すごく広い。並のグラウンドより全然でかい。こんなのが地下空間にあったのか。
感嘆していると、横から日暮が現れて大きく腕を広げた。
「ここが我が組織の訓練施設!正面にあるのが、射撃訓練場。アメリカとかにある、人型の的当てるやつね。んで、左手にあるのが、総合訓練場。外周のトラックを走ったり、筋トレしたりできるよ。最後が右の道場。んまあ...これはただの道場。近接戦闘の練習に使う感じかな」
「ほ〜」
すっげえガッチガチの施設だ。
高校以来めっきり運動してないし、こんなんやったら死にそうだな...。
「ま、そんなこんなで、大斗には戦力になってもらうために、今日からみっちり扱き倒しちゃいます」
「じ、慈悲を」
「さ、行こう!先ずは射撃の腕を確かめるね」
「...無いみたいですね」
仕方なく着いて行くことにした。
射撃訓練場。
テレビの中で見たやつで、実際やるのは初めてだ。銃撃ったことないからそりゃそうなんだけど。
「はい、これ」
渡されたのは拳銃。種類とかはわからないがとにかく銃だ。まあまあ重い。
「弾入ってるから、慎重に扱ってね」
「は、はい」
「右利きだよね?先ずは右手でグリップを...」
ち、近い...。
俺は恥じらいながらも、なんとか言われた通りに形にした。そしてとうとう実射だ。
「はい、じゃあ撃ってみて」
「わかった」
集中集中。
ここで俺の才能が発揮されて裏社会で無双するんだ...!その意気込みで...。
「力入れすぎ。肘と膝伸ばしすぎ。もっと柔らかく使って」
容赦ない指摘ありがとうございます。
正直、この技術が俺の今後の生き死にに関わる、と思う。
真面目に真面目に...。
ここだ!
ハズレ。
もいっちょ!
ハズレ。
まだまだ!
ハズレ。
何回やっても中心や頭に当たるどころか、そもそも当たらない。
「......なんでや」
「...んまぁ、初心者はこんなもんだよ!心配することじゃない!じゃ、気を取り直して近接戦闘行ってみよう!」
「...オッケー」
正直、落ち込んでる。
ただ、落ち込んでる場合じゃない。次だ次。次に賭けろ。
「はい、じゃ、近接戦闘ね」
道着に着替え、道場の扉を開けると、畳の上に道着姿の日暮が立っていた。スチロール製のナイフのようなものを持っている。
「押忍!」
「気合い入ってんねぇ。じゃあ、とりあえず、食らってみよっか」
「押忍!って、え?」
食らって?
瞬間、懐に日暮が入ってきた。目で追えないし、追えたとしてもとても対処できねぇ!
「死ねええええええ!」
実戦で死ねはおかしいっ!とりあえず、避け...。
「はい、終わり」
結局俺の体は動くことなく、ナイフで一突きされてしまった。
「さっきみたいに突撃された時の対処法。体の何処かしらを掴まれた時の対処法。拘束されてる状況から脱出する方法。とにかく、実践的で効果的な練習をするからね。とりあえず、食らって慣れろっ!」
「うわあああ!!!」
「とにかく!私に一本取れるまで!」
そんなこんなで死ぬほど技を食らわせられ、たまに、自分で日暮に食らわせ、そして結局、「体力が無いから」と1日に何キロも走らされ...。銃も手にタコができるほど撃った。
そんなのをほぼ丸一日。
たまにお使いみたいな任務を交え、何日も何日も繰り返した。
そして。
「お、今日も修行か?」
「はい。先輩もやります?」
「やらんわ」
「じゃあ、虚は?」
「遠慮しとく」
「ホワイトは?」
「美月って呼んでよ...。行かないよ。私強いし」
「痛い目見るぞ」
「ほぉ?見させてくれるのかな?」
そう言ってシュッシュっとパンチを繰り出すホワイト。
そんな奴を尻目に、俺は今日も修行しに行く。
と、言っても。今日は特別だ。夏休みの最終日。
今日は、師匠に一本取る日だ。一週間前からそう決めていた。
緊張で震える手を抑えながら、ロックを解除し、薄暗い階段を降りる。
こんなに緊張したのも初めてだ。普段はうるさい俺の第六感も、あまりの緊張になりを潜めている。
別に師匠は期日は定めていない。ただ、この日を逃せば、練習時間は少なくなり、弱体化してしまう。それに、こうやって決めとかないと、だらしない俺はダラダラ先延ばしにするだろう。
だから今日だ。今日、一本決める!
「ふぅ」
呼気と吸気を深く...。
覚悟決めろ!朝霧大斗!
「たのもおおお!」
勢いよく道場の扉を開ける。
目の前には正座をし、心頭滅却をした日暮が座っている。
「その目...私から一本を取ろうとしているな?」
鋭い目つきと、オーラ。
日暮。いや、師匠。あなたも本気なんですね。
なら、本気で取りに行くのが作法だろう。
「はい。今日は、本気です」
「よかろう」
師匠は咳を1回した後、腰を上げ、正面に立った。
「鉄火場でも、暗殺でも、護衛でも。私たちは命を賭けてその任務にあたる。私たちは日々に命を賭して、命を奪い、そして守っているんだ。だから、この修行は本番だと思ってやりなさい。命を賭けて、私の命を奪ってみなさい」
「はい、師匠」
直後、静謐な空間が辺りを包む。
間違いなく今、生死を賭けた戦いが始まろうとしている。
「さぁ、始めよっか...!」
*不定期更新です。基本13時に更新してます。