第69話:次に向けて
*不定期更新です。基本13時に更新してます。
実を見送った後、俺たちは直ぐに次なる戦いへの準備を始めた。
準備といっても、話し合いだ。久しぶりに、シルバーの本拠地にみんなで集まっている。ちなみにサンドラさんもいる。
次あいつらが攻めてくるのだとすれば、一之瀬組だ。恐らくあいつらは、一之瀬組を落とすことで、俺たちの戦力を落とそうと考えている。
一之瀬組がなくなってしまえば、俺たちシルバーは終わりだ。頼り切っていたツケだ。一之瀬組のカバーがなければ、十分に戦闘も起こせないし、資金面も尽きてしまう。
そうさせないために、一之瀬組は陥落させてはならない。
現状は一之瀬組も、重蔵さんがいる十文字組も、警察による強制捜索や、羽の奴らによる極道狩りのせいで勢力を著しく落としてしまっている。こんな状況で襲撃されれば、ひとたまりもない。
幸い、羽の戦力を削ったためある程度は時間ができた。しかし、余裕があるわけではない。あいつらの後ろ盾にはクロウがいる。クロウから戦力を送られれば、直ぐにでも襲撃してくるかもしれない。
早めに動かなければならないのだ。
「私たちの当面の目標は、一之瀬組に降りかかる火の粉を取っ払うこと。あいつらが何してくるかどうかわからない以上、これといった作戦とかはないけどね。亮吉さんもまだ隠居中だし、私たちがなんとかしなきゃならないよ」
美月はホワイトボードにあれこれと書いた後に、そう言った。
「羽のアジトがわかりゃ、こっち側から攻められるんだけどな」
「アジトの位置を特定するのはお前の仕事だろうが、裕樹」
「た、確かに仰る通りです」
サンドラさんに叱られてしょんぼりとする先輩。
相手はクロウの配下にいる奴らだ。そう簡単にアジトが見つかるとは思えないから、裕樹先輩も苦労しているだろう。
「そういえば火花はどうしてるの?」
日暮が手を挙げて問う。
確かにそれは俺も気になるな。確か1週間くらい前に、亮吉さんが持つ別荘で目が覚めたということは聞いたけど、それ以外は何も知らない。俺たちのところに顔を出しているわけじゃないし、何してるかもわからない。ただ、毒による後遺症があるということは聞いていた。
「わからない。でも...あの子の性格的に、私たちに隠れて修行とかしてると思うよ」
「まあ、やってそうだな。でも...四肢に麻痺が残ってるって聞いたけど」
「......火花ならきっと乗り越えるよ。私が信じた人だからね」
それを聞いて、皆が頷き返した。
あの人は強い。リハビリやらなんやらでなんとかなるはずだ。きっと、なんとかなる。
今はとりあえず、自分たちの心配をしよう。
「問題は、俺たちだよな。ただでさえ戦力が少ないのに、まだまだ全然弱い。もっと、強くならないと」
そう言うと、シルバーの面々は、苦い顔をして俯いた。
今回の戦いでハッキリとわかった。俺たちはまだ実力が足りていない。このままじゃ、近いうちに殺されて終わりだ。もっと強くならなければ、あいつらの思い通りになってしまう。
そんなことを思っている中、1人の女性が立ち上がった。
「そうだな、お前らは弱い。だから、あたしが修行をつけてやる」
サンドラさんだ。
「サ、サンドラさんが!?」
虚にしては珍しい大声だ。戦慄している。
虚だけじゃない。サンドラさんの言葉を聞くや否や、皆の表情が、陰鬱なものになってしまった。
シルバーのメンツは、俺をのぞいてサンドラさんの修行を受けてきた。そして、それによって畏怖の感情を植え付けられてる。
それだけで、何故これほどまでに戦慄しているのか、大体察しがつく。
絶対厳しいんだろうな。スパルタだろうな。ワンチャン死ぬんじゃないか?
やりたくねぇ。でも、やりきったら強くなれそうな気はする。
乗り気じゃないけど、やっておいた方がいいだろう。
「お前らに選択権はないぞ。強制だ。これから、羽が動き始めるまで、みっちり、そして急ピッチで修行を執り行う。美月にも参加してもらう。場所はここの地下室だ。明日から始める。今日は休め」
そう言うと、サンドラさんは去っていった。
ほとんど話し合いは終わってるからいいけど、随分と強引だ。
「美月は強いし、行く必要あるのか?」
「私も強くならなきゃならないから」
「お前、これ以上強くはならないだろ。もう上限いってるよ上限。俺が100人いても勝てねえよ」
裕樹先輩が、自嘲気味に笑う。
てか、そんなに強いのかよ、こいつ。
めっちゃ強いってのはわかるんだけど、こいつが戦ってるのあんま見たことないし、正直な所、正確な強さはわからない。
でもそうか、裕樹先輩がそういうなら、俺の想像より格段と強いんだな。
そうなると、気になるな。
「そういえば、火花さんとホワイトって、どっちが強いんだ?」
問いかけると、周りも気になるといった様子で美月の方を見た。
「はぁ、答えてどうすんのさ」
「いや、単純に気になって」
沈黙が続き、諦めたようにため息をついた。
「今はまだ、私の方が強いかな。でもいずれ、あの子は私に並ぶ。いや、もしかしたら追い抜かれるかもね」
そう言うホワイトは、どこか懐かしそうな顔をしていた。
あの2人は仲が良いとは思っていたけど、多分、仲が良いという言葉で言い表せないほど、深い関係なんだろう。
火花さんがホワイトに向ける視線も、ホワイトが見せるこの顔も、全て俺には理解できないものだ。2人だけの特別な関係だからこそのもの。
恐らく、火花さんと美月は、今後とも長い仲になる。そして、互いに高めあう仲になる。
その先どうなるかは、俺にはわからないけど。
「さ、明日から確実に地獄が始まるから、今日はしっかり休もう!じゃ、かいさーん!」
ホワイトの掛け声を合図に、各々帰り路に着いた。
これほどまでに、明日が来てほしくないと願ったのは初めてだ。
解散した後、私は病院へ向かっていた。話し合いの前、富岡病院の院長、滝川先生に呼ばれたのだ。
富岡町のあの大病院はテロに遭って当面行けない。だから、待ち合わせ場所は結花の闇病院だ。
病院のドアのロックを解除し、中に入ると、診察室に滝川さんが座っていた。
「あ、来ましたか、美月さん」
「何ですか?」
「まずは、先日の非礼を詫びたいと思います。本当に、本当に、申し訳ございませんでした!!!」
いきなり土下座をされて、驚いてしまった。
「いいんですよ!結果は大斗くんも無事だったんだし、院長さんも、命を預かる人として、真っ当な選択を選んだだけです。もう気にしてませんよ」
「そう言っていただけると、助かります」
「頭上げてくださいよ!」
「はい、ありがとうございます」
そう言うと、滝川さんは頭を上げ、もう一度席に座った。
「話はそれだけ、ってわけじゃないですよね」
「はい。本題は朝霧大斗さんについてです。朝霧さんについて、まずは美月さんに話を聞いてもらおうかと思いまして、呼びました」
大斗くんについて。
私たちシルバーでも、彼のことはわからない。大斗くんと接触する前、事前に裕樹があれこれ調べはしたんだけど、住所などの周辺情報しかわからず、深いところはわからなかったのだ。
まるで、隠滅されてるかのように、尻尾すら掴めなかった。
実は一度、本人に聞いてみたことがある。自分のことを知ってる限り話して欲しいと。でも、有益な情報は何一つ話さなかった。
そして、本人に第六感の力があるとわかったとき、確信した。
大斗くんには、何か隠されてることがある。それは、大斗くんですら知らないことで、恐らく、クロウはその隠匿された何かのために、大斗くんを殺害しようとしてる。
調べようとは思ってるし、現に裕樹は動き始めてる。
これから滝川先生が話すことが、少しでも情報になれば良いけど。
「まず、これを見てください」
滝川先生は、脳の画像を提示した。
「これは、朝霧大斗さんの起床前の脳です。そしてこれが、搬送直後の脳です」
「脳、ですか?」
「はい。搬送直後は、心肺停止が長引いてしまったことにより、脳に十分な酸素が送られておらず、結果、植物状態になってました。この頃の朝霧さんの脳内は、組織の死滅が多く、正直言って、脳死に近い状態でしたね。ですが」
そう言うと、今度は起床前の写真を指で示した。
「完全に回復してるんですよ。おかしいことです」
「おかしい、ですか?リハビリとかで、回復ってするものじゃないんですか?」
「失われた脳組織は、普通回復しないんです。脳梗塞などを発症したあと、リハビリをすれば症状が治ると言われてますが、あれはあくまで、死滅してない他組織が、死滅した組織の機能を代行してるだけなんです。リハビリは、それを促進してるだけに過ぎないんですよ。でも、朝霧さんの脳は、死んだ組織が生き返ってる。脳だけじゃありません。普通に再生する皮膚から、普通再生しないはずの臓器まで、全て再生してます。それに、その再生速度が常人とは比べものにならないんです」
「そ、それはつまり...?」
「突然変異じゃ説明がつかない。ありえないことというのはわかってます。ですが、何度考えても、この結果しか出ないんです。いいですか、美月さん。心して聞いてください」
いいしれない緊張感が走る。
「恐らく、朝霧大斗さんは、何者かによって人為的に作られた人間の可能性が高いです」
「......本当、ですか?」
「今の私には、それ以外考えられません」
人為的に作られた。遺伝子操作とかそういう類のものだろう。
正直、現実味がなさすぎて情報を消化できない。
「失礼しました」
話を終え、私は帰路についた。大斗くんには、本人の精神を優先して、話さないことにした。
「......」
近いはずの帰りの道が、やけに遠く感じた。
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最近更新遅くて申し訳ありません。




