表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ブラック&ホワイト  作者: 芋太郎
第2章:十一編
67/80

第67話:追憶

*不定期更新です。基本13時に更新してます。

 夢を見ていた。


 昔の夢だ。高校1年生の時、まだ私は今よりも未熟で、それでいてその未熟さを私自身は理解していなかった。


 己の弱さと未熟さを認めてから、初めて成長する。


 今の私はそう考えているが、当時の私はそんな考えをしていなかった。


 私は物心ついた時から剣道を習っていたのだが、生まれてこの方、師匠以外の人に負けたことが無かった。


 何度も大会で優勝しては、周りから褒められ、それが己の自尊心とプライドを高めることになり、結果、その経験が慢心を生んでいた。


 当時の私には、戦う者全てが弱く見えていたし、負ける気など、微塵も感じなかった。


 過剰なまでの自信が、私にはあったのだ。


 そしてその自信が、打ち砕かれるような事態が起きた。


 その日も、私は師匠と手合わせをしていた。


 剣道ではなく、殺人剣のような、実戦に近いルール無用の戦い。剣道よりも、そっちの方が私は好きだった。


「......ま、今日のところはこんなもんじゃろ」


「いえ、もう少し...手合わせを」


「老体に鞭打たせるでない。まあそうじゃな、今度の大会で優勝したら、今よりもっと手合わせの時間を伸ばしてやろう」


 師匠は髭を撫でながら、笑った。


 私にとって他の参加者は、正直弱い。弱すぎる。優勝なんて簡単だ。


「...お前、周りが弱いとかって思ってないか?」


 その言葉は、自分の心を見透かしたかのようだった。


「い、いえ、そんなことは...」


「悪心を持つ者は、目と仕草を見ればわかる。今お前は、慢心を抱き、それについて言及され、ついぞ嘘を吐いたじゃろ?」


 この人は何でそんなことまでわかってしまうんだ。


「は、はい、すみません」


 頭を下げて謝ると、師匠は「よいか」と言って人差し指を挙げた。


「周りが弱いと思うのは、自信過剰の表れじゃ。常に自分は弱く、そして周りは自分より強い。そう思っておけ。そうすればいずれ、お前は誰よりも強くなる。慢心を捨て、謙虚に生きろ、火花。傲慢は人の成長を鈍らせる。あ、ただ、謙虚になりすぎるなよ?自分は弱いと思い続けると、今度は心が腐る。ま、そうじゃな、適度に休んで適当にやるのがベストじゃな」


 師匠は歯を見せながら笑った。よく笑う人だ。


 師匠が言っていることは表面上では理解できるけど、心の底では理解できていない。


 私は周りより強く、そして周りは私より弱い。それは事実なのに、どうしてそれをわざわざ否定してまで、自己評価を下げなければならないのか。


 私には一切理解できない。


「...そう、ですか。心しておきます」


 要領を得ない回答を聞き、師匠は困ったような顔で上を向いた。


 その時だった。


 廊下を誰かが歩いているのを、師匠は目撃した。


 それは私にとって、いや、一般人なら誰でも普通の女子高生にしか見えなかったが、師匠にとっては何か惹かれるものがあったらしい。


「おーい!そこの!」


「ちょっと、師匠!?」


 私の静止を聞かずに、師匠はその女子高生を呼び止め、あれよあれよと道場にまで引き込んだ。


 目の前に、キョトンとした表情を浮かべた女子高生が立っている。


 肩甲骨まで伸びた黒い髪と綺麗な顔立ちで、美人ではあるが、やはり普通だ。


「あの師匠、困ってますよ?」


 私が言うと、目の前の女子高生は「困ってないよ」と満面の笑みを浮かべた。


「お主、名前は?」


 師匠はあくまでも引き下がらない。何をしたいのか、何をさせたいのか、わからない。


「名前は白井美月、15歳です!そこの富岡第二高校に通ってる1年生です!えと、キミも同い年くらいだよね?名前は?年は?もしかして同じ学年?あ、同じ高校!?」


「あ、あの...」


 第一印象は、騒がしく、やかましい、距離感の取りづらい人。グイグイ来る。しかし、無視するのも可哀想だ。とりあえず返事はしよう。


「わ、私は一之瀬火花です。同い年で、同じ高校に通ってますよ」


「えぇ!?マジ!?クラスは?今度一緒にお昼食べようよ!火花!」


 近い。


 なんなんだこの人は。そもそもうちは極道の家で、こんな女子高生が来るような場所じゃない。本当に何故ここにいるのか。


「あの師匠?何故なんのためにこの場に呼んだのですか?というか、誰なんですか?知り合いですか?」


 色々問うと、師匠はあっけらかんと「知らん」と言ってのけた。


 師匠、見知らぬ人を何故呼び招いたのですか...?


「ねえお爺さん!私に用があるって何?」


 白井さんも何をするのかわかっていないらしい。


「お主には、儂の弟子、火花と模擬戦をしてもらいたい」


「ハ!?」


 予想外の言葉に大声が出てしまった。


 模擬戦?この人と?何故?


 頭の中で沢山の疑問符が並べられる中、平然と師匠は話を続けた。


「お主の実力は体つきを見ればよくわかる。その歳にして、もしかしたら儂以上の実力を持ってるやもしれん。だからこそ、お主と火花を戦わせ、愚かな弟子に知らしめたいのじゃ。強者の存在を」


「んー、疲れるからなー。何かご褒美があったらなー」


「アイス奢ってやろう」


「やる!やりまーす!面白そうだしねっ!」


 そう言うと、白井さんは師匠から竹刀を受け取り、私と対角の位置についた。


「ルールは?」


「剣道のルールは知っとるか?」


「知らない」


「じゃあ、そのまま模擬戦じゃな。一本先取で、何を使ってもどう動いても自由。それで、どちらかが急所に1発竹刀を当てることができたら一本じゃ」


「良いですねそのルール。今度からうちでも使お」


 そう言いながら竹刀をまじまじと見つめる彼女を見て、私は思った。


 見るからにこの人は初心者だ。竹刀を持ったことも無いし、何なら触ったのも初めてかもしれない。そんな人と模擬戦を行なって何を得ることができるのか。


 強者の存在を知らしめる?ハッキリ言って、馬鹿げている。


「師匠、私は受けませんよ」


「何故じゃ?」


「相手は素人ですよ?素人と戦っても何も意味ありません。素人相手なので本気も出せませんし、ただ怪我をさせてしまう危険性があるだけです」


「御託はいい。戦ってみればわかる」


 この人に言ってもダメだ。変な時に頑固になるのが、この人の悪いところだ。


「白井さん」


「美月ね」


「...美月、さん」


「み、づ、き!」


「......美月、良いんですか?やるからにはこちらも本気です。怪我をしても知りませんよ」


 そう言うと、白井さんは「平気平気」と言って笑った。


 楽観的な人だ。この人も、どうも下がる気はないらしい。


 ならば、実力でわからせる他ない。


「後悔、しないで下さいね」


「だいじょーぶだよ」


 その瞬間、私と白井さんの間の空気が一気に締まる。


 向こうを見ると、手を下にぶらりと下げて、ただ辺りをキョロキョロと見回していた。


 構えすらとっていないし、道着すら着ていない。こんな人と戦っても、苦戦もしなければ、負けるはずもない。


 ...無意味だ。直ぐに終わらせよう。


「始め!」


*面白いと思ったら、高評価していってくれると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ