表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ブラック&ホワイト  作者: 芋太郎
第1章:虚実編
65/80

第65話:虚と実

*不定期更新です。基本13時に更新してます。

 目の前に実がいる。


 夕焼け空の公園で、私と実は向かい合っていた。2人とも怪我だらけで、それでも笑っていた。


『いつでも私を頼っていいよ。私は虚の味方だから、助けてあげる!』


『だったら私も、あなたが困ったときは絶対に助ける!』


 実は既に過酷な状況にいた。それでも尚、私に対して助けるという言葉を発したのだ。


『絶対だよ?約束だよ?虚!』


『うん!約束!』


 単なる口約束。子供ながらの、稚拙な約束。それでも私は絶対に守ると心に決めていた。


 それは、実も同じだった。


 私は実の気持ちも境遇も知らぬまま、のうのうと生きていた。だから今度は、私が...。


「ん...」


 目を開けると、見知った天井があった。誰かの話し声が聞こえる。声の数的に複数人いそうだ。


 確認するために周りを見ると、なんとシルバーのメンバーが全員揃っていた。


 そしてその中に、眠っていたはずの大斗の姿があることも確認できた。


「だ、大斗!?」


 驚愕の声を上げながら飛び起きると、そこにいた皆が私の方を向いた。


「あら虚さん、お目覚めですか」


 結花が後ろから声をかけた。


 全員がいる。あれから、どうなったのだろう。というより、何故大斗が?


「虚...!」


 疑問が頭を支配する中、またもや後ろから声をかけられた。今度は違う人だ。


「実!」


「良かった...目を覚ましてくれて、本当に...!」


 強く抱きしめてくる実に、私はつい苦笑いを浮かべてしまった。


「痛いよ実。それに、良かったって思ってるのは私の方。シルバーに戻ってきてくれて、本当に良かった」


「虚!!!」


「だから痛いって。私は怪我人だよ」


 そんなことを言っても、実はしばらく私から離れることはなく、その様子を、他の皆は微笑みながら見つめていた。


 しばらく抱きしめあったあと、実は涙を拭き、真剣な顔で皆の方を向いた。


「この度は本当に、申し訳ございませんでした」


 深々と頭を下げる実。


「私は、みんなを裏切り、挙句の果てには大斗を刺して殺そうとした。嘘を吐いて、善意を仇で返したこの行為は、許されることじゃない。私はいくらでも罪を償います。ですがもう...もう二度と、こんなバカな真似はしません!絶対にしません!嘘吐きなお前が何言ってるんだって話ですが、これは本当です。信じて下さい」


 沈黙が訪れる。


 皆、思うことはあるだろう。心の底から信頼を取り戻すなんてことは、正直なところ難しいと思う。でも、私は実を信じてる。だからこの言葉も、嘘じゃないと思う。


 それに、皆も信じてないわけじゃないはずだ。その証拠に今、誰も実のことを糾弾していない。


「私も、謝りたいことがある」


 沈黙を破り、ベッドから立ち上がったのは美月だった。


「実、キミのこと、信じてあげられなくてごめん。私はキミが裏切った時、皆との約束を破ってキミのことを見捨てようとした。もうキミは戻らない、そう決めつけて、怒りに任せてキミを蔑ろにした。私が間違いだった。本当に、本当にごめんなさい。今、キミのことを心から信頼できるか、そしてその言葉を信じられるかと言えば、正直それは難しい。でも、今のキミは大斗くんからも認められ、皆からも信頼されている。仲間に認められ、薬と命令に背いて虚を殺さなかったキミを、私はもう一度信じようと思う」


 そう言うと「そして」と言って、今度は私の方を向いた。


「......虚、私はキミに本当に酷い言葉を言った。汚い本心を、キミに言ってしまった。キミにとって実は大切な親友だ。キミ自身より、実に対して言われる方が辛いということを私は知っていたはずなのに、私はあんな酷いことを言ってしまった。あの失言と、少しでも実への憎悪を抱いてしまったこと、それは私にとっての不覚。本当に、ごめんなさい」


 頭を深々と下げる美月。


 語気と様子から、本当に反省しているということがわかる。


 確かに、私はあの時の言葉を受けて、心底腹が立ったし失望した。でも、美月の立場になって冷静に考えてみれば、そんなこと思うのは普通のことだとわかった。仲間を刺されたとなれば、刺した相手に怒りを覚えるのは、至極当然のこと。


 私はそれを理解せず、ただ怒るばかりだった。私の方こそ、謝らないといけない。


「...私こそ、酷いこと言ってごめん。もっと冷静になって考えるべきだった。だから」


「いや、私の方が悪いよ。本当に」


「いや、私の方が...」


 不毛なやり取りが始まろうとした気配を察知したのか、裕樹は咳払いをした。


「とにかく、良かったじゃねえか、大団円で終われそうでよ。実は戻ってきたし、仲直りもできたし、みんなも無事だし、何より、大斗だって蘇ったんだしな」


 そうだ、大斗だ。なんか当たり前のようにそこに居るから、忘れていた。


「本当に良かった。でも、いつの間に...?それに、どうやって...?」


 問うと、大斗は「んー」と首を傾げた。


「看護師さんが襲われそうになった時に起きたんだよ。それまでずっと、生ぬるい海の中漂ってるみたいな感じだったんだけど、なんか、このままじゃやばいっていう感覚に襲われて、その瞬間に体がブワって浮いて、そしたらいつの間にか起きてた。んで、なんか硬いのがシーツの下にあったから咄嗟にそれで...って感じだな。今思えば、あれも第六感だったのかな」


 皆ポカーンと思考を放棄した。当たり前だ。こんなの考えても埒が開かないし、そもそもわからない。


「と、ともあれ、皆さんご無事で良かったです!皆さんの怪我も幸いなことに、私の技術とこの病院の機材でなんとか出来るレベルだったんですよ。もし、もっと重傷を負っていたら、また別の大病院に移送となって、すごく複雑なことになってましたよ」


 結花は表情豊かにそう言った。


 これは奇跡だ。私も怪我を負っていたし、皆、強敵との戦闘で深い傷も負っていただろう。それでも、こうやって揃って、安全な闇病院で処置できた。本当に、奇跡だ。


「なんか盛り上げムードの最中で悪いんだけど......実はこれからどうするの?私たちと一緒にいる?」


 日暮が申し訳なさそうに問うと、隣の美月が「雰囲気ブレイカーめ...」と言って肘で突いた。


「私は...私は罪を償おうと」


「それについてだが」


 その声は突然聞こえた。一瞬誰かと焦ったが、見知った顔で安心した。


「サ、サンドラさん、いつの間に...」


 日暮は恐怖に顔を引き攣らせていた。


「この人、前にも会ったけどだr」


「お前には」


 実の言葉のことごとくを遮ってくるし、威圧感がすごい。前にも会ったと言ったが、その時も恐らく、怖い思いをしただろう。


「ベルフィールド傭兵団本部に入ってもらう」


 その言葉に、一同は声を失った。


「ベルフィールド傭兵団?」


 そんな中、何も知らない実は疑問を吐き出した。


「ああ。本部をアメリカに置く、あたしが団長を務めている傭兵団でな。お前にはそこに入ってもらう。バカどもばかりだが、全員根は基本いい奴だ。お前も直ぐにでも馴染めるだろう」


 あまりの突飛な展開に、裕樹が声を上げた。


「ちょ、ちょっと、サンドラさん!いくら何でも急すぎまs」


「お前は黙っていろ。あたしは実と話しているんだ」


「は、はい」


 萎縮する裕樹を尻目に、サンドラは「どうだ?」と、答えを催促した。


「私は罪を...」


「くだらない。自分に正直になれ、バカ者」


「!自分に、正直に...」


 しばしの沈黙が訪れた後、実はある問いを投げた。


「...自由はありますか?」


 その問いは、実の心の全てを語るような問いだった。実が欲してやまなかったもの。誰にも命を脅かされず、安心して暮らせる。


 自由は、実が一番欲しいものだったはずだ。


「自由の解釈にもよる。無論、ただ飯を食わせる気はない。雑用雑務はやって貰う。そういう意味では、自由とは言い切れない。しかし」


「しかし?」


「あたしの団は、クロウのクソ野郎どもの魔の手も届かないし、傭兵仕事をさせる気も無いから、命の危険なんてものはない。もし、それがお前の求める自由とやらなら、手に入れることはできる。それは絶対に保障してやる」


 その言葉を聞いた瞬間、実はボロボロと涙をこぼし始めた。


 その姿を皆、微笑みながら見つめていた。行ってしまえば、寂しくはなる。それでも、私としては実に行って欲しい。


 不幸続きだった実には、手にして欲しい。


「行きな、実」


「虚...わかった」


 そして、実は涙を拭いて顔を上げた。


「行きます...!」


「よし、決まりだ」


 それから、私たちは色々話し合った。


 実の傭兵団本部への出発日時や、私たちの今後の展望。そして、何より重要な、戦闘を通して分かった敵の情報。


 それによると、敵も結構な被害を負っていることがわかった。これほどの被害なら、恐らくこちらへ攻めてくることはない。


 そのため、出発は実が完治してからとなった。


 そして、1ヶ月の月日が流れた。


「......」


 寝息が聞こえる。みんなもう寝たみたいだ。


 結局、実の完治をゆっくり待っていたら、それほどの期間が空いてしまった。そのため、なんやかんやで皆の怪我はあらかた治った。まあ、大斗に至っては怪我という怪我を負っていなかったけど。


 そしてとうとう、明日になったのだ。


 実は明日、日本を出てアメリカに行き、念願の自由を手に入れる。


 嬉しいことだが、不安もある。


 実のこともあるが、一番はこれからのことだ。浮かれているが、今は緊張状態。火花は意識を取り戻したと聞いたが、毒の効果で手脚に痺れが残っているらしい。それに、一之瀬組だって、まだまだバラバラで危ない状態だ。


 それだけじゃない。新古町や富岡町はどうなっているか。あんな事件の後、私たちは自由に動けるか。など、色んな不安要素がある。


 浮かれている場合なんかじゃない。もっと未来のことを考えていかなければならない。しかしそれは、不安しか生まない。


 明日は重要な日なのに、なんでこんな...と嫌になってしまう。それのせいで余計眠れなくなる。


「虚、起きてる?」


 そしてそれは、実も同じだったらしい。


「うん、起きてるよ」


 そう返すと、実は「なんか喋らない?」と言った。


 眠れないなら、眠れるまで話せばいい。私は話をすることにした。


「今ってさ、あの時とそっくりだよね」


「あの時?」


「ほら、あの再会した時だよ。私と虚が入院してて、起きたら美月とかが頭下げて謝って...ってさ」


 言われて思い返すと、確かに似てる。人数や状況は違えど、そっくりだ。


「でも、あの時の私はお父さんを巻き込んで殺しちゃって、そして、シルバーのみんなを巻きこんじゃうことに対して、ずっと後悔してた。とにかく自分が嫌いで、どうやってこの現状を変えられるかって必死になって考えて、焦ってたんだよね」


「今は?」


「みんなのお陰で、私は焦らずに自由に歩き出せている。今は全然違うよ。似てる状況でも、全然違う。ちょっとおかしいよね」


 声を抑えながら、クスクスと笑う実。


「本当に、ありがとうね」


 そしてそのまま、私たちは色々下らない雑談を繰り広げ、いつの間にか朝になっていた。


「さ、行きますよ」


 早朝、高橋さんが用意したバンに、皆が乗り込んだ。乗り込む時、誰かが「すっかり運転要因になってますね」と呟き、高橋さんは少しショックを受けていた。


 ともあれ、バンは空港に向けて走り始める。


 もう時期としては冬だ。本格的に冷え込んでいる町の朝は、薄く霧が立ち込めており、低い位置の太陽光を、満遍なく広げていた。


 車内は誰も喋らない。期待と不安のせいだろう。


 そしてバンは、何事も無く空港に着いた。


 空港には5人の傭兵が既に揃っており、サンドラさんを見るや否や、最敬礼をした。


 どうやらこの5人も帰国するみたいだ。


「私はここに仕事を残してるから帰れねえが、お前らには帰って仕事をしてもらう。みっちり働け。あと、実に色々教えてやれ。あ、今は帰すが、呼んだらすぐ来いよ?さもないと殺すからな」


 その言葉に5人は揃って「はい!」と元気よく答えた。


 さ、私たちも別れの時間だ。


「みんな、これまで本当にありがとうございました」


 頭を下げる実。それに対して、日暮は「頭上げて」と言った。


「いっぱい迷惑かけた。それなのに救ってくれたみんなには、感謝してもしきれないよ」


「今生の別れじゃないんだから」


 裕樹は笑いながら言った。


「大斗には、痛い思いをさせてしまったし」


「あれは痛かった」


「美月には、悲しい思いを背負わせてしまった」


「もう気にしてないよ」


「...本当に感謝してる。そして、虚。虚はそんな私を救ってくれた。約束を守ってくれた恩人だよ。虚、ありがとう」


 私に向けて深々と頭を下げる実。


「実こそ、私を救った恩人だよ。私だって感謝してる。お互い様だよ」


 そう言うと、実は涙を浮かべて「虚...」と呟いた。


「そろそろ行くぞー」


 傭兵の1人が呼びかける。


 時間、か。


「じゃあ、またね」


 新しい道へ去っていく実の背中。それを見つめていると、段々と実感が湧いてきた。


 別れ。本当にまた、会えるのか。


 そんな思いが脚を前進させ、私はつい、実の背中を抱きしめてしまった。


「実!!!」


 不安と寂しさが心を満たす。やっぱり、別れたくない。


 そんな情けない私の姿を見て、実は困ったような笑みを浮かべたあと「じゃあ」と言って、小指を立てた。


「約束!えーっと、いつでもはちょっと難しいから......あ、全部終わったら絶対会いにいく!えーと、あとは...」


 実は次言う言葉を考え、そして口を開いた。


「虚が本当に困っていたら、絶対に助けに戻ってくる!」


 その瞬間、あの夕焼けが、あの表情が、あの空気が、私の頭をよぎった。


 あの日と、同じだ。


「...だったら私も、実が本当に困ったときは、絶対に助ける!」


「絶対だよ?約束だよ?虚」


 涙が自然と溢れてきた。


「うん...うん!約束!」


 私たちは互いに涙を流しながら、新たな約束を、あの日より少し伸びた小指で契った。


「じゃあ、またね!」


 去っていく実。その背中を見ても、もう不安は湧いてこなかった。


 何故なら、実は約束を絶対に守ってくれると信じているから。


「なんかあいつ、キャラ変わったよな」


 大斗は去り行く実を見ながら、そう呟いた。


「元々はあんな感じだったんだよ」


「そうか。じゃあ、本来の姿ってわけだ。あいつはもう、自分にも嘘を吐かなくてよくなったんだな」




 そして、程なくして飛行機が離陸した。空を悠々と機体が泳ぐ。


 全て終わらせて、もう一度会える日が楽しみだ。その時が何年後になるかわからない。それでも、楽しみだ。


 幼い頃の約束。


 それは普通なら、子供ながらの稚拙なもの。中身の無い、空っぽな言葉にすぎない。


 しかし、そんな虚な言葉でも、あの子は真実に変えてくれた。


 だから私は、信じて待ち続ける。


 もう一度会える、その日を。



          ーーー虚実編(完)











*面白いと思ったら、高評価していってくれると嬉しいです。


長くてすみません。2話に分割するのも考えたんですが、まあ章の最終回なんで、そこらへんは...。


ともあれ、第1章:虚実編が終わりましたので、次回からは第2章の別の編です。それに伴って、少し期間が空くかもしれません。ご了承ください。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ