第64話:解放
*不定期更新です。基本13時に更新してます。
高速の連撃が飛んでくる。
俺はそれを避け続けつつ、反撃の機会を窺っていた。
「直ぐに寝た方が、身のためだと思うよー」
「バカか!寝て起きて永眠とか洒落になってねえよ...!」
生きるために戦っているが、正直今のこいつと俺の間じゃ実力差がある。そもそも、万全な状態ですら互角かそれ以下だったのに、起きたてほやほやの体調不良状態で勝てるはずがない。
しかしそれは、普通なら、だ。
普通にやれば勝ち目は無い。だから正々堂々正面からは戦わない。
俺には隠し持っているものがある。それを使う。
さっきは出さざるを得なかった状態だったから、バレるかどうかヒヤヒヤしていたが。
「丸腰でさ、いつまで戦っていられんの」
この発言のお陰でバレていないことがわかった。
案外バレないものだな。好都合だ。
こいつは今、俺は丸腰で、逃げるしかないと思っている。または、素手で反撃できる程の隙を窺っていると思っているはずだ。
その読みを裏返す。そして、相手は素手だという考えから生まれる慢心を利用する。
一回きりだ。一回で仕留められるか。
「ほら、早く死んでよ...!」
「くっ!」
つーかそもそも、反撃する余地がねえ。こいつ、前より強くなってやがる。
「ほらほらぁ」
攻撃が苛烈さを増す。しかも、暗器の指輪銃まで使ってきやがった。そのせいで避けるので手一杯だ。
まずい、眩暈がしてきた。こんな長い間避け続けてれば、そらなるわな。とにかく、本格的にまずい。
しかし、この攻撃に1つの光明を見出した。
パターンがある。
速度を上げる一方で、変則的な動きが取り払われ、単調になってきた。
これなら、もしかしたら...!
素早い連撃に合わせて体を動かし、同時にその攻撃パターンを読み解く。
広くだ。視野を広く保て。
今の状況なら、出来るはずだ。
「早く逝け!」
「!」
ナイフが肩目掛けて振り下ろされる。その瞬間に、次の攻撃が読めた。
俺が避ければ、ナイフを振り上げる。
「チッ...!」
読み通りに、ナイフが振り上げられる。
次は左フック。と見せかけて暗器銃の発砲。
「第六感か...でもまだ」
フックが飛んできた。
釣るためにそれを避けようとすると、案の定拳の向きを変え、銃口をこっちに向けてきた。
銃弾が放たれる。
が、俺は姿勢を低くして避けた。銃弾は照明にぶつかり、部屋が暗くなった。
俺はそんなことも気にせず、回転しながら左腕を掴み、地面に向かって振り下ろす。
「クソ...!」
わかってる、ナイフだ。
振り払うように俺の手を目掛けてナイフが飛んでくる。それをかわすと、奴はその隙に無理矢理腕を解き、距離を取った。
それもわかってる。
「なっ!?」
「......」
距離を取ったはずなのに、俺の顔面がすぐ下にある。その状況に驚愕しているのだろう。
落ち着け。この一発に全てを賭けろ。
あの日2人に、そして俺自身に重傷を負わせたこいつに、勝てなかった悔しさと、守れなかった悔しさを、全てぶちまける...!
「オラアアアアアアアア!!!」
気合いと共に左腕を伸ばす。
「第六感があれど、所詮は病人じゃん!遅いよ」
そうだ、それでいい。
たかを括れ。それが俺の勝因になる...!
「死ねえええええ!!!」
左腕を振る。
岸辺は余裕といった感じでそれを避けた。
しかし。
「は...」
俺の左腕は振り抜かれていなかった。
フェイントだ。気づいたようだがもう遅いぞ。俺はもう既に構えている。
銀色に輝く、ナイフを。
「いつの間に!?」
避け切ろうと体を動かすが、この距離では無駄だ。諦めて喰らってくれ。
「これが俺の本命だ...!」
そして、それは岸辺の腹部に深々と刺さった。このまま抉りたいが、岸辺は直ぐにナイフを振り、俺を引き剥がした。
くそ。仕留め切りたかったが、流石に強いな。刺された時の対処までしっかりしてやがる。
「クソ...それいつの間に...」
奴は血を吐きながら、俺の持つ獲物を顎で指した。
「お前と戦う前には既に持ってたぞ。気づくはずだが、案外気づかないもんだな」
「気づく...」
岸辺は1人で呟いた後、合点がいったのか「チッ」と舌打ちをした。
「看護師庇った時、どうやってお前のナイフを防いだんだろうな」
「ダルいなぁ...マジで...」
そう言い残して、岸辺は倒れ、目を閉じた。
あの時、俺はナイフを出してあいつのナイフを止めた。音と手応えでバレそうだったが、そこではなんとかバレず、その後病院服に隠し、そのまま隠し通すことができた。
危ない綱渡りだ。
とはいえ、何とか成功した。殺し切ることはできなかったが、気絶させるところまではいけた。
今ならこいつを殺せる。
そう思った瞬間、後ろのドアが開いた。
驚いて振り返ると、見覚えのある2人が立っていた。
「大斗!!!」
「裕樹先輩!サンドラさん!」
呼ぶと2人は心底驚いた顔を浮かべた。
「お、お前立って...それにそこの...」
裕樹先輩は呆然とした様子で尋ねる。
「何か、いつの間にか起きました。その後、こいつと戦ってなんとか勝ちました。まあ、まだ死んでませんけど」
本当になんとかだけどな。そのせいで、寝起きなのに傷だらけだ。
「ま、まあ、お前が生きていたならよかった。じゃあ、とっととそのガキを殺して」
殺気。
「危ないッ!!!」
サンドラさんの言葉を遮り、2人の体を押し倒すと、後ろから銃弾が1発飛んできた。
「よぉ」
そいつは初めてだが、明らかに俺たちが知ってる男だった。男の後ろには仮面を被った謎の女がおり、男の肩には既に事切れているだろうジョンと五十嵐の姿があった。
「野上...!」
裕樹先輩が銃を向け、俺たちもそれに倣って構える。しかし奴は意外にも構えず、ただヘラヘラと笑っていた。
「俺はお前らと戦いに来たわけじゃない。そこの女を連れ帰りに来たんだ」
「そんなの...!」
阻止しようと半歩前に出ると、奴はまたヘラヘラと笑って「おいおい」と言った。
「やめとけって。お前ら全員手負いだろ?俺たち2人はほぼ全快だぜ?それに、もう直ぐ機動隊が来る。お前らも銃所持して戦ってたんだ。見つかれば、どうなるかぐらいわかってるよな」
全快とかよく言う。こいつも銃弾を1発受けてるじゃねえか。ただ、こいつの言うことももっともだ。勝ち目は無いだろうし、早く出ていかねえと終わる。現に既に警察車両のサイレンが近づいてきている。
「癪に障るが、こいつの言う通りだ。下には高橋を待機させ、結花にも既に闇病院に待機してもらっている。行くぞ」
サンドラさんはそう言うと、俺たちの腕を掴んで廊下まで飛び出た。
その際、すれ違った仮面の女がポツリと何か言った。
「日暮は1番下の階のエントランスにいます。死んでないので、早く拾って行ってください」
そう言っていた。
何だ、よくわからんがやけに協力的だな。
そんな懐疑心を持ちながら、俺たちは全員を回収すべく回りに行った。
「美月!」
裕樹先輩は勢いよくドアを開けると、謎のおっさんが血まみれで眠っているホワイトを看病していた。
「応急処置はしたが、まだ予断は出来ない。しかし、ここでは治療もできない。早く結花さんのところへ」
おっさんはそう言うと、ホワイトを差し出し、サンドラさんはそれを抱えた。
その後、病室を後にし、ダッシュで階段を下る。
ヤバい。この状況とか、ホワイトのこととか色々聞きたいし不安だ。でも、今は我慢だ。この状況から一刻も早く抜け出そう。
俺たちは1階まで速攻で降り、エントランスで伏している日暮を見つけた。
「日暮...!」
先輩が駆け寄って容態を確認する。
「息をしている。気絶してるだけっぽい」
仮面女の言う通り、怪我はあるものの意識を失っているだけで、命に別状は無さそうだ。
裕樹先輩は日暮を背負うと、心配そうに辺りをキョロキョロ見回した。
俺も同じように心配だった。
居ない。あいつが、居ない。一番心配なあいつが。
「虚は!?」
そう問いかけると、意外な声が階段から聞こえた。
「ここだよ」
その声の主は、虚を背負ってそこに立っていた。
「おま...」
裕樹先輩は驚いた顔を浮かべ、サンドラさんは怪訝そうな顔を浮かべた。
「実...」
俺も複雑な表情を浮かべる。現に複雑な感情だが、実に敵意を感じないし、何よりこいつからは何か吹っ切れたかのようなものを感じる。
多分だが、今の実は大丈夫なのではないか。
その表情を受け取って、実は苦笑いを浮かべた。
「私はどうだって良いからさ。もう、みんなの元に行かなくていいから。でも、この子だけはお願い」
悲しい顔を浮かべながら、虚を俺に渡してきた。
「虫のいい話なのはわかってる!でも、私はこの子を、約束を、守りたい...!」
俺は少し考えると、虚を受け取り、同時に実の腕も握った。
「お前もいくぞ」
実はそれに対して「私は...!」と拒絶し、腕を振り払った。しかし、それでも俺は実の腕を握った。
「おい、実はお前を刺した張本人だぞ」
裕樹先輩の発言に、実も便乗して「そう、だよ」と言ってまた腕を振り払おうとした。
しかし俺は、尚も離さなかった。
「どうして...」
「お前は今、本気で虚を助けたいと思っているか?」
問うと実は、曇りなき眼で考えることなく頷いた。
「助けたい」
その言葉を受け、俺は少し考えて皆の方を向いた。
「大丈夫ですよ」
そう言って腕を引っ張ると、サンドラさんが俺の肩を叩いた。
「裕樹の言う通り、お前はこいつに刺されている。そんな奴の言葉を信じるのか?私たちには、イマイチ信用に足らんと思うが」
冷たい目線が注がれる。
それを俺は真っ直ぐ見つめ返した。もう、俺の答えは決まっている。
「俺は実に刺されて死にかけました。恨んでないって言われたら嘘になります。ただ...ただそれ以上に、実が虚を殺さずに、ここまで来てくれたことが嬉しいんです。俺の問いに速攻で「助けたい」と言ってくれたことが、とても嬉しいんです」
「嬉しいなんてのはお前の感情に過ぎない。そんなのでこいつを連れていくわけにはいかない。そいつが嘘を吐いている可能性があるだろ。裏切る可能性もある」
「そうですね。確かに、実には何度も嘘を吐かれ、裏切られてきました。ですが、俺にはこいつの発言が、行動が、嘘だと思えないんです」
「何故そう言い切れる」
更に重圧をかけるサンドラさん。
「何故そう言い切れる」か。
多分、俺はサンドラさんたちを十分納得させることはできない。何故なら、この自信は根拠が無いし、何より俺が意識を失ってから何が起こったのかもわからないからだ。
説得し得るソースは何処にも存在しない。
ただ、ただ1つだけ。
ただの1つ、それだけだ。しかしそれは、俺の人生を狂わせ、そして同時に、俺を導いてきたもの。俺にとっては十分すぎるくらいの根拠になる。
俺は答えを言うべく、息を吸って吐いた。
「...俺の、直感です」
「大斗...」
実の涙声を最後に、沈黙が訪れる。
その沈黙を破いたのは、サンドラさんの低い笑い声だった。
初めて聞いた笑い声に少しビビっていると、サンドラさんは直ぐに真顔に戻って、俺と実の頭を掴んだ。
「わかった、信用してやる。ただし、裏切るようなことがあれば、お前らどっちも容赦はしないからな。連帯責任だ。わかったか」
「は、はひぃ」
「あ、りがとうござざいまます」
あまりの怖さに2人して引き攣った声で返事をしてしまった。
「あーもうわかったよ!俺も信じるよ!信じねえとサンドラさんを信じないことになるからな!」
裕樹先輩はヤケになっていた。
「よし、じゃあ乗り込むぞ。早くしねえと豚箱送りだ。とっとと入れ」
サンドラさんはそう言うと、高橋さんが運転してきたバンのドアを開けた。
「傭兵たちは既に脱出済みだ。高橋、出せ。急げ」
「は、はい。了解しました」
急かされながらも車は動き始めた。目的地は結花さんの病院だ。
その時何故だか、不安よりも嬉しいという感情と、解放されたような、そんな清々しい気持ちが、心の中に溜まっていた。
*面白いと思ったら、高評価していってくれると嬉しいです。
長くてすみません。




