第63話:覚醒
*不定期更新です。基本13時に更新してます。
病室には1人の男がいた。
男は多数の管に体を繋いでおり、それは男にとって必要不可欠な延命装置だった。
男は微動だにせず、ただ銃声の鳴り響く中、眠っていた。永遠とも思える眠りについていた。
そんな男の病室に、2人の人間が入ってきた。
1人はこの病院の院長、滝川。1人は壮年の女性看護師。
「あの、この人は...」
看護師が自重気味に言うと、院長の滝川は悔しそうな顔を浮かべて口を開いた。
「朝霧大斗さんだ。君には今から、この子を307号室まで運んでもらう」
「で、ですが...」
「...私たちの仕事は人命救助。消えゆく人命を目の前にして、動かないわけにはいかないのだよ。だからこれは、仕方のないことなんだ」
その言葉は看護師に対して言った言葉だったが、自分に言い聞かせているようにも聞こえた。
「......わかりました。ですが、延命装置を外せば、すぐにでも死んでしまうのでは」
「この子は死なんよ。だから運ぶんだ」
「死なない?そんなこと」
「これ以上は、君も首を突っ込まない方がいい」
男はそう言うと、窓側に振り返った。
「私はここで説明せねばならない。責任は私が全て負う。だから君は行きたまえ」
「......はい」
看護師はしばらく躊躇った後、男と共に、繋がれていた管を一本一本外し始めた。
そしてその作業が終わると、病室から出ていった。
「どうしてこんな...」
廊下には所々血の跡があり、倒れている人間も多数いる。看護師にとって、人間にとって、この状況は最悪だった。
看護師は前のことを思い返していた。それは数十分前、襲撃者が来た時のことだ。
『院長さんに伝えといて下さいね』
その言葉を受け取った後、看護師はすぐさま院長に話し、そしてこうなった。なってしまった。
今すぐにでも帰りたい。こんな思いはしたくない。
でも、こんなこと起きてるのを見過ごしていいのか。それは看護師としてどうなのか。そんな感情が足を早め、気づいた時には指定の場所に辿り着いていた。
「ここが...」
恐る恐る病室を開けると、電源がついているのがわかった。そして、カーテンの裏に誰かがいるのも。
「あの」
「やーっと来たね。遅かったじゃん」
そこに居たのは、金髪の若い女だった。
「じゃあ、とっととどっかいって」
「な、何をするんですか?」
尋ねると、金髪の女は「聞かない方が良いよー」と誤魔化した。
看護師は、直感的に嫌な予感を感じていた。自分が突っ込んでも手に負えない事案が起こる。そして、その事案に巻き込まれたら、自分まで危ない、と。
しかし、不幸にも彼女の中の正義感が働いてしまった。
「わ、私は看護師です!人命は救う者!院長の命令だとしても、命は」
「はぁ、めんどくせー」
遮るようなため息が発され、その場の空気は一気に冷えた。
「今から、そいつを、殺すんだよ」
血の気が引いていくのと同時に「やっぱりか」という言葉が頭に止まった。
看護師にはわかっていた。
聞いたのは確認のため。本当にやるつもりなら、止めなければならない。
その思いが彼女を突き動かし、とうとう金髪の女の目の前に立ちはだかった。
「死にたいの?」
「人命救助の出来ない看護師にはなりたくありません!私は、この人を...!」
目を逸らした一瞬だった。
「じゃあ死んで」
目の前から声が聞こえ、ナイフが喉元に近づいていた。
「え」
終わった。これで...。
そう思った。
しかし、彼女の喉から血は出なかった。代わりに「ガキン」という金属音が鳴った。
「なあ、久しぶりに目を覚ましてみりゃこの状況ってさ、少しおかしくねえか」
それは、信じられない光景だった。
「はぁ、マジでだるいわ。あんたを楽に殺せると思って来たのに、なぁんで普通に起きるかなぁ」
金髪の女が睨みつける。視線の先には、1人の若い男がいた。そして、脇のベッドには居たはずの男がいなくなっていた。
「看護師さん、ありがとうございました。あなたがいなけりゃ死んでましたよ。とりあえず、出ていって」
そう言われ、看護師は呆然とした表情で病室から出ていった。
そして部屋には、2人だけが残る。
「久しぶりだな、岸辺みなみ。この前はよくも先輩2人に重傷を負わせやがったな。絶対に許さねえぞ」
「あんなこそ久しぶりじゃん。つか何?怒ってんの?ウケる。全部あんたの力不足が招いた事態じゃん。今だって、ほら。あんたのせいでさ、普通の人も殺されてんの。怒るならさ、無力な自分に怒ったら?」
睨み合いが続く。
女は片手にナイフ、そして手には暗器が握られている。逆を返せば、それしか持っていない。銃はすぐ殺せるだろうという思惑から、持ってきていなかった。
対して男は何も持っていない。相手が銃を持っていないとはいえ、このままでは勝てない。
しかし、一見何も持っていなように見えて、1つだけ男には隠している物があった。
「ま、もういいっしょ。とっととくたばってね」
「すぐにくたばるわけねえだろ」
「今のあんたに何が出来んの?起きたばっかで力も出ないし、武器もない」
そう言うと、女は嘲笑した。
「ねぇ?朝霧大斗クン?」
直ぐにでも戦闘が起こりそうな、一触即発の雰囲気が流れる。
しかしその状況で、朝霧大斗は何故か冷静を保っていた。
否、この状況がそうさせていた。
「じゃ、死んで...!」
岸辺の俊足の踏み込みを合図に、戦いの火蓋が落とされた。
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