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ブラック&ホワイト  作者: 芋太郎
第1章:虚実編
63/80

第63話:覚醒

*不定期更新です。基本13時に更新してます。

 病室には1人の男がいた。


 男は多数の管に体を繋いでおり、それは男にとって必要不可欠な延命装置だった。


 男は微動だにせず、ただ銃声の鳴り響く中、眠っていた。永遠とも思える眠りについていた。


 そんな男の病室に、2人の人間が入ってきた。


 1人はこの病院の院長、滝川。1人は壮年の女性看護師。


「あの、この人は...」


 看護師が自重気味に言うと、院長の滝川は悔しそうな顔を浮かべて口を開いた。


「朝霧大斗さんだ。君には今から、この子を307号室まで運んでもらう」


「で、ですが...」


「...私たちの仕事は人命救助。消えゆく人命を目の前にして、動かないわけにはいかないのだよ。だからこれは、仕方のないことなんだ」


 その言葉は看護師に対して言った言葉だったが、自分に言い聞かせているようにも聞こえた。


「......わかりました。ですが、延命装置を外せば、すぐにでも死んでしまうのでは」


「この子は死なんよ。だから運ぶんだ」


「死なない?そんなこと」


「これ以上は、君も首を突っ込まない方がいい」


 男はそう言うと、窓側に振り返った。


「私はここで説明せねばならない。責任は私が全て負う。だから君は行きたまえ」


「......はい」


 看護師はしばらく躊躇った後、男と共に、繋がれていた管を一本一本外し始めた。


 そしてその作業が終わると、病室から出ていった。


「どうしてこんな...」


 廊下には所々血の跡があり、倒れている人間も多数いる。看護師にとって、人間にとって、この状況は最悪だった。


 看護師は前のことを思い返していた。それは数十分前、襲撃者が来た時のことだ。


 『院長さんに伝えといて下さいね』


 その言葉を受け取った後、看護師はすぐさま院長に話し、そしてこうなった。なってしまった。


 今すぐにでも帰りたい。こんな思いはしたくない。


 でも、こんなこと起きてるのを見過ごしていいのか。それは看護師としてどうなのか。そんな感情が足を早め、気づいた時には指定の場所に辿り着いていた。


「ここが...」


 恐る恐る病室を開けると、電源がついているのがわかった。そして、カーテンの裏に誰かがいるのも。


「あの」


「やーっと来たね。遅かったじゃん」


 そこに居たのは、金髪の若い女だった。


「じゃあ、とっととどっかいって」


「な、何をするんですか?」


 尋ねると、金髪の女は「聞かない方が良いよー」と誤魔化した。


 看護師は、直感的に嫌な予感を感じていた。自分が突っ込んでも手に負えない事案が起こる。そして、その事案に巻き込まれたら、自分まで危ない、と。


 しかし、不幸にも彼女の中の正義感が働いてしまった。


「わ、私は看護師です!人命は救う者!院長の命令だとしても、命は」


「はぁ、めんどくせー」


 遮るようなため息が発され、その場の空気は一気に冷えた。


「今から、そいつを、殺すんだよ」


 血の気が引いていくのと同時に「やっぱりか」という言葉が頭に止まった。


 看護師にはわかっていた。


 聞いたのは確認のため。本当にやるつもりなら、止めなければならない。


 その思いが彼女を突き動かし、とうとう金髪の女の目の前に立ちはだかった。


「死にたいの?」


「人命救助の出来ない看護師にはなりたくありません!私は、この人を...!」


 目を逸らした一瞬だった。


「じゃあ死んで」


 目の前から声が聞こえ、ナイフが喉元に近づいていた。


「え」


 終わった。これで...。


 そう思った。


 しかし、彼女の喉から血は出なかった。代わりに「ガキン」という金属音が鳴った。


「なあ、久しぶりに目を覚ましてみりゃこの状況ってさ、少しおかしくねえか」


 それは、信じられない光景だった。


「はぁ、マジでだるいわ。あんたを楽に殺せると思って来たのに、なぁんで普通に起きるかなぁ」


 金髪の女が睨みつける。視線の先には、1人の若い男がいた。そして、脇のベッドには居たはずの男がいなくなっていた。


「看護師さん、ありがとうございました。あなたがいなけりゃ死んでましたよ。とりあえず、出ていって」


 そう言われ、看護師は呆然とした表情で病室から出ていった。


 そして部屋には、2人だけが残る。


「久しぶりだな、岸辺みなみ。この前はよくも先輩2人に重傷を負わせやがったな。絶対に許さねえぞ」


「あんなこそ久しぶりじゃん。つか何?怒ってんの?ウケる。全部あんたの力不足が招いた事態じゃん。今だって、ほら。あんたのせいでさ、普通の人も殺されてんの。怒るならさ、無力な自分に怒ったら?」


 睨み合いが続く。


 女は片手にナイフ、そして手には暗器が握られている。逆を返せば、それしか持っていない。銃はすぐ殺せるだろうという思惑から、持ってきていなかった。


 対して男は何も持っていない。相手が銃を持っていないとはいえ、このままでは勝てない。


 しかし、一見何も持っていなように見えて、1つだけ男には隠している物があった。


「ま、もういいっしょ。とっととくたばってね」


「すぐにくたばるわけねえだろ」


「今のあんたに何が出来んの?起きたばっかで力も出ないし、武器もない」


 そう言うと、女は嘲笑した。


「ねぇ?朝霧大斗クン?」


 直ぐにでも戦闘が起こりそうな、一触即発の雰囲気が流れる。


 しかしその状況で、朝霧大斗は何故か冷静を保っていた。

否、この状況がそうさせていた。


「じゃ、死んで...!」


 岸辺の俊足の踏み込みを合図に、戦いの火蓋が落とされた。





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