第62話:影
*不定期更新です。基本13時に更新してます。
「ハアアアアアアアアアア!!!」
喀血しながら前に進む。
痛みは無い。ただ、これが終わったら糸が切れた人形にように倒れるだろうという予想はつく。そもそも、生きれるかどうかもわからない。
しかし、そんな不安をも消し去るほど、私はこの女に怒っていた。
「さあ、どちらが神に選ばれるか、試してみましょう...!!!」
「死ね!!!五十嵐!!!」
ロングナイフと私のナイフが互いにぶつかり合う。
「ふふふ...!」
「いい加減に!!!」
激しい斬り合いによって火花が散る。
もっと早く。もっと強く。私ならこいつを殺すことが出来る。そんな確信があるのにも関わらず、何故か刃が通らない。
何で?いけるはずなのに...!
「過度に感情が昂れば、太刀筋が濁ります。今のあなたのナイフでは、私を殺すことができない!!!」
「うるさいッ!!!」
何度も何度も切りつける。距離を取って銃を撃つ。しかし、どれも読み切られているのか、空を切る一方だ。
「こっちの攻撃も受けてください」
奴は私の繰り出す刃をすり抜け、ロングナイフを横に薙いできた。
上半身を反らしてかわす。
「かわした気にならない方が良いですよ!!!」
そう言うと、今度は隙を突くようにナイフを突いてきた。
「くっ!」
上半身を浮かせ、そのまま蹴り倒す。
蹴られた本人は少し飛んだ後、頭から血を流しながら「ふふふ」と気味の悪い笑みを浮かべた。
「はぁ...はぁ...はぁ...」
段々と胸の痛みが戻ってきた。その痛みにより、少し冷静に物事が考えられるようになった。
危なかった。頭の中が怒りに侵食され、我を失っていた。自我を失うのは、戦闘において不利だ。合理的な思考ができなくなり、普段のパフォーマンスが発揮できなくなる。
もっと冷静に。私なら出来るはずだ。あいつの挑発に乗ったらいけない。
「まずいですね。予想よりも狂気の発現時間が短い。あなたも成長してますね。それとも、慣れですか?」
「どっちでもいいでしょ。結局キミを殺すことには変わらないんだから...!」
銃弾を放つ。
それを五十嵐は不気味な笑みを浮かべながら避ける。そして再び視線を戻すと、そこに私はいない。
「あら?」
「......!」
不思議そうに首を傾げる五十嵐の顔面に向けて、ナイフを突き上げた。
「おっと」
それは避けられる。
計算内だ。
今度はナイフを振り下げる。それを避けるために、五十嵐は一歩後ろへ退いた。
狙い通りだ。
一歩後ろへ下がる動作のおかげで、少しながら隙が生まれる。そしてその隙が狙いだ。
「今度こそ...!」
私は銃口を五十嵐の胸に向けた。
「これは...」
2発撃ち込む。
それは見事に奴の胸に直撃し、そのまま体を後ろへ倒した。
「ガハッ」
血を吐き、虚な目をこちらに向ける五十嵐。
「お、見事、です...白井、みづ...きさん...」
途切れ途切れに、奴は言葉を紡いだ。
「ああ、そろそろ...あなたの、元に、行けるのですね」
ゆっくりと目を閉じていく五十嵐。
しかし、彼女の死を見届けている暇はない。私にもやることがある。
「私はやることがあるから、逝くなら1人で逝ってね」
そう投げ捨てると、私は行くべき場所へと向かった。行くべき場所、それは大斗くんの病室だ。
無事だといいけど、無事、とはっきり言い切れない。
苦しい。痛い。幸い、肺に直撃ではなく掠めた感じだろうから、まだ生きてはいるけど、流石に危ない状態だ。
朦朧とした意識の中、何とか病室まで辿り着いた。
そこには、2人の人影があった。
「おい、大丈夫か!?」
「ああ、裕樹、か...」
「ああ、じゃねえよ!?おい、どうすんだこれ...!」
慌てる裕樹に頭を、もう1人の影が叩いた。サンドラさんだ。
「バカか、焦ってどうする。美月、苦しいか」
「は、はい。ただ...まだ、動け、ます...」
「動ける、ね。胸に穴空いてる奴が言うセリフじゃねえよ」
「と、とにかく、大斗くんを、確認しなきゃ」
そう言うと、重い腕を上げて病室を開けた。
「!?」
そこには、1人の初老の男性が立っていた。そして、その人以外いなかった。
「あ、れ、大斗くんは...?」
問いかけるも、初老の男性は俯いたまま、肩を振るわせるばかりで何も言わなかった。
「嘘、だろ?もう捕まっちまったのか...?」
「......」
裕樹は狼狽え、サンドラさんは何も言わずに険しい顔を浮かべた。
「どういうことですか」
小さくとも確かに問いかける。この人が何かやったはずだ。この人が。この病院の院長、滝川洋大が。
「滝川さん...!」
怒りの籠った声を放つと、滝川さんは悲しい顔を浮かべながら振り向いた。
「皆様も見たでしょう。民間人が、次々と殺されていく姿を。私たちは、確かに結花さんと、朝霧大斗さんを守ると約束をしました。そして今まで守ってきました。ですが...ですが、救うべき民間人を犠牲にしてまで、1人のために約束を守るだなんて、私にはできなかった」
「それじゃあ...」
「朝霧大斗さんも確かに救うべき人間です。しかし、植物人間で意識が戻るかも不明で、生きれるかどうかの瀬戸際の人間1人と、多数に民間人の命を天秤にかけたら、この選択をせざるを得なかったのです」
滝川さんは頭を下げた。
「朝霧大斗さんは、襲撃者の1人に引き渡しました。何をやっているのか、自分でもわかっています!しかし、この選択しか、私にはできなかった!本当に、本当に申し訳ございません!!!殴っても構いません!!!約束も破り、守るべき市民を捨てるなんて、医者あるまじき行為!!!殴られても仕方ありません!!!ですが、どうしようもなかったのです!!!」
そう言うと、もう一度「申し訳ありませんでした!!!」と叫んだ。
その言葉を聞いた瞬間、全身から力が抜けていくのを感じた。
それをサンドラさんは支えると、冷静に問いを始めた。
「何処で渡した」
「......予定では3階の307号室です」
「予定?大斗はいつ渡したんだ?」
「10分ほど前、ナースが朝霧大斗さんを担架に乗せ、予定の場所まで運んでいきました」
「つまり厳密に言うと、10分前の時点では、まだ引き渡していなかったわけだな」
「はい。ですが、もう手遅れかと思います。もう引き渡しは完了し、そして...」
滝川さんは俯き、また「申し訳ございませんでした」と謝った。
「謝罪など要らん。過ぎたことは変えられん。それに、お前はお前の責務を全うしただけだろ」
そう言うと、サンドラさんは私を滝川さんへ放った。
「サン、ドラさん...」
「お前は休んでろ。ここからは私たちが動く」
サンドラさんも裕樹もそこそこの怪我を負っている。私だけ休むわけには...。
立ちあがろうとすると、サンドラさんは私の頭を押さえつけた。
「お前は院長だったな。こいつの命を繋ぎ止めろ。あと、結花に連絡しろ。悔やんでる暇はないぞ」
そう言うと、サンドラさんは裕樹を連れて病室を後にした。
追いかけようと立ち上がるが、すぐに倒れ込んでしまう。
「じっとしていてください」
悔しい。大斗くん、みんな。私は...。
血がところどころに付着している静かな廊下に、2人分の足音が響いていた。
「何処に行くんですか?」
裕樹がそう問いかけると、サンドラは振り返らずに口を開いた。
「わかってるだろ。307号室だ」
「大斗はもう...」
「バカか。あいつはそんなんで死ぬような男には思えん」
「でも、流石に遅すぎだと思います」
「諦めてどうする。最後まで足掻け」
その言葉に、裕樹は言い返すことができなかった。
その後、サンドラは走りながら誰かに連絡をし、そして307号室に到着した。
「開けるぞ」
サンドラはそう言い、スライドドアの取手に手をかける。
「構えてろ」
銃を構え、ゆっくりとドアを開けていく。そして全開にした瞬間、2人とも息を呑んだ。
「こ、れは...」
暗い部屋に中、目の前に立っている人影がある。そして足元には伏した人影がある。
「大斗!!!」
叫び声に反応するように、人影はゆっくりと振り向いた。
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