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ブラック&ホワイト  作者: 芋太郎
第1章:虚実編
61/80

第61話:虚な約束、実る想い

*不定期更新です。基本13時に更新してます。

 銃声がなった。


 1発2発と立て続けになり続けた。そしてそれは、実の体に当たることはなかった。


 全て野上に向けて撃たれたものだったのだ。しかし、野上はそれを全てかわしていた。


「つまんねえな」


 野上はそう言うと、数歩距離を取り、様子を伺った。


 外の情景を確かめるために、実はそっと目を開け、こちらを見上げた。


「虚...!?」


 驚愕の声を上げると、マジマジと私の体を見た。そして、続け様に「何で!?」と怒声を上げる。


「何で私なんかを助けたの!?私はあなたを撃った!何度も何度も傷つけた!裏切り者なんだよ?なのにどうして!?」


 大声を上げる実りに対して、激しい痛みを抑えながら、私は作り笑いを浮かべた。


 やっとだ。やっと言える。やっと出来る。


「『困った時は絶対助ける』って、約束したから」


「約束なんて、覚えてないって言ったじゃん!!!覚えてもいない約束如きでどうしてそこまで体を張るの!?」


「また嘘吐いてる。やっぱり嘘吐きだね、実」


「!?何で嘘だってわかるの」


 でも、その嘘が誰かのためだってことを、私は知ってる。この子は、自分を犠牲にしてまで誰かを守りたいと思う人だから。


「わかるよ。だって、実は現に約束を守ってくれたもん」


「守った?いつ?私はそんなの守った記憶無い」


「少し前に路上で戦った時、実から受けた怪我は浅くて、すぐに治ったんだ。覚えてないかもしれないけど、実は加減してた。本当なら殺せたのに。ううん、違う。殺せと命令されたから、殺さないといけなかったのに、実は殺さなかった」


「そんなのわからないじゃない!?単に私の調子が悪かっただけかもしれない。薬の影響かもしれない。子供騙しの中身の無い約束1つで、そんなことするわけないじゃない!」


「そうだね、そうかもしれない。でも、あと1つあるんだ」


 私は一呼吸置くと、再度口を開いた。


「約束をしてから暫くして、実はあの公園に来なくなったよね。その代わりに充さんが私の元に来た。そして充さんは、どういうわけか既に事情を知っていた。私の家庭のことも全部。偶然にしては出来過ぎだと思ってたんだ。もしかしたら、実が充さんを呼んできてくれたんじゃないかって。最初の内はただの妄想にすぎなかったけど、あながちそうじゃないかもしれないって思うようになったんだ」


「そ、んなこと...」


「だって、実はあの時すでにハデスにいた。そして、充さん達による襲撃にあっていた。それがわかれば、辻褄が合う気がするんだよ」


 もう一度一呼吸置くと、振り向いて実の目を見つめた。


「実が充さんに助けを求めたんだよね。自分のことじゃなく、私の約束を優先して、私を守ってくれたんだよね。充さんがどんな人であれ、私はそのお陰で今を生きることができている」


 勿論、これも想像に過ぎない。実のみぞ知ることだ。


 でも、私は確信している。実はあの時、約束を守ってくれた。そして今でも、守り続けていてくれた。


「そんな...約束なんて...してない!守ってない!覚えてない!私はそんなの、知らない!!!」


 尚も頑なに否定し続ける実に、私はそっと微笑みかけた。


「じゃあなんで、私を刺した時にあんなに辛そうな顔をしたの?」


「......それは」


 実は必死に取り繕おうと考えている様子だ。涙を目に浮かべている。


「私は、実に感謝の気持ちを伝えたかったんだ。でも、言う機会がなかったから、今言うね」


「私は...!」


 涙を堪える実に、私は伝えたかった言葉を投げかける。それは、自分の身を呈してまで、約束を守ってくれたことに対してのお礼。



「ありがとう」



 そう伝えた瞬間、実の目から大粒の涙が溢れ始めた。


「虚、ごめんなさい...!本当に、ごめんなさい...!」


「良いんだよ、実。実のせいじゃないから」


 そう言うと、私は正面にいる退屈そうな顔をした男を睨みつけた。


 こいつは野上風一郎。羽のトップの1人だ。


「あー、もうお別れの言葉は終わったか?なげーんだよマジで。こっちは急いでるんだからよ。まあ、待ってあげた俺に感謝しろよー」


 野上はリボルバーを取り出すと、こっちに照準を合わせた。狙いは下。私じゃなく、実だ。あくまで実の処分を優先するつもりか。


「下がってて、実」


「でも...!野上先輩は強いから、虚じゃ...」


「下がってて」


 脚を刺されて動けない実を後ろに下がらせると、私も野上に照準を合わせた。


「おいおい、邪魔すんなよな。そいつを殺してから行きてーんだけど」


「実は殺させない」


「めんどくさいな。じゃあ、お前から死ぬか?」


 そう言った直後、野上は有無を言わさずに銃を構え、トリガーに指をかけた。


 私は奴が撃つよりも早くに弾丸を放った。その弾丸は野上の手を正確に捉えた。


 かと、思われた。


「聞いた通り、銃撃戦じゃ分が悪いな。じゃあ、肉弾戦に持ち込ませてもらうぜ」


「...!」


 高速で間合いを詰めてくる。それに対して銃で応戦するが、当たらない。


 やはりこいつ、美月と火花のように銃弾を避けてくる。2人の中だったら、火花寄りだ。銃で狙いを定めた場所には既にいない。


 動きが早すぎて照準が追いつけない。


「当たってねえぞ!!!」


「くっ!?」


 そしてとうとう、近接の間合いになってしまった。


 奴が使う獲物は短刀、所謂ドスだ。


「その傷でどこまで避けられる!天海虚!」


 尋常じゃない速度のナイフによる応酬。これは実よりも早く、そして何より鋭い。ことあるごとに急所を的確に狙ってくる。


 それに、私は既に手負いだ。今にも倒れそうな程の深い傷を負っている。


 約束を守ると息巻いたけど、これは長くは持たない。何とか時間だけでも作って逃がす?でも、実は脚を刺されて満足に動けそうにない。


 どうする。考えてる間にも、何箇所か切られてしまっている。


 ダメだ。警察が来るまで辛抱するしかない。


「お前は俺も倒せない!俺も倒せなければ、そこにいる嘘吐き女も助けられない!お前に一体、何が出来る!!!」


「しまっ...!?」


 銀の刃が喉元に迫る。


 これは...死ぬ。


「虚!!!」


 呼び声と共に「キン」と金属同士が衝突する音が聞こえた。


 実だ。実が私を助けてくれた。


「チッ、時間ねえっつってんだろ...」


 野上は少し苛立ちを見せ、ナイフをこちらに向け、瞬く間に間合いを詰めてきた。


 それを実が受け止める。そして激しい剣戟に発展した。


「実!?」


「近接は私がやる...!虚は銃でカバーして!!」


「でも」


「『困ったときは絶対助ける』でしょ」


「!...わかった」


 まただ。また助けられてしまった。でも、私にも出来ることがある。私は任されている。これは「助け合い」だ。


「どっちも手負いだろうが!そんな奴らが勝てるか?」


「!?」


 野上は刺傷のある右脚を払いのけ、実の姿勢を崩した。そこに銀閃が飛ぶ。


 そんなこと。


「させない!」


 銃弾を放つ。


「クソッタレ...!」


 避けられた。でもそれでいい。急激に避ける時は、必ず隙が生まれる。


「はああああ!!!」


「チッ!」


 隙をつくように今度は実がナイフを振った。急所は防がれたが、その攻撃は野上の頬に傷をつけた。そこからまた剣劇が始まる。私はその剣戟に生まれた僅かな隙に銃弾を撃つ。


 初めてなのに、不思議と心が通っているかのように、行動が噛み合う。


「クソ面倒くさい...!お前からだ!!!」


「行かせない!」


 こちらに来ようとした野上を、実は必死に食い止めた。


 手負いだ。確かに勝てる確率は希薄だろう。


 でも、それでも、互いに弱点を補っていけば、負けることは決して無い。私は今、そう感じている。


「いい加減に死ね」


 強烈な突きが実を襲った。


 しかし、実はそれを間一髪で避けると、逆に野上の腕を掴んだ。


「虚!!!」


 その声を合図に、撃つ。


「グッ...!?」


 それは見事に、野上の脇腹に直撃した。


「クソ...」


 野上は手を振り払うと、強引に数歩後ろへ下がる。


「全く面白くねえ...」


 そう呟くと、もう一度ドスを持ち構え、こちらに向けて再接近しようとしてきた。


 その時だった。


「チッ、タイムオーバーか」


 遠方から微かにサイレンの音が聞こえてきたのだ。


「もういい、好きにしろ......ったく、あいつら何やってんだ...」


 そう言うと、野上は一目散に病院の階段を登って行った。


「のが...っ!」


 追いかけようと脚を動かしたが、どうやら限界をとうに超えていたらしく、その場に力無く伏してしまった。


「虚!?大丈夫?」


「実こそ...それ、より...野上を...」


「追いかけても多分勝てないよ。今は休んでて」


「みの...り...」


「虚...私も伝えたいこと、あるよ」


 今にも泣きそうな、それでいて優しい実の顔が見える。そしてそれは、段々とボヤけていき、暗闇に飲まれた。


 その時微かに、語りかけるような、涙ぐんだ声が聞こえた。


「ありがとう...!」









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