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ブラック&ホワイト  作者: 芋太郎
第1章:虚実編
60/80

第60話:孤独

*不定期更新です。基本13時に更新してます。

「実」


 正面に立つ影にそっと呼びかけた。


 返事は無い。多分、あれから私が知らないところでいっぱい人を殺したのだろう。薬の効能で心さえも殺され、実はもう実じゃなくなっている。


 この場面で実をこっち側に戻すことができなければ、実はもう戻れなくなってしまうだろう。


 薬の効能が更に強まり、人形のような扱いを受ける。救えなかったらバッドエンドだ。


 だから、これで終わらせる。実をこっちに救い戻す。


 まだ、言えていないこともあるんだから、そっちに行っちゃダメだよ、実...!


「うつろ...?」


 呼びかけられた時には、もう既に実の体はナイフを持ってこっちに向かっていた。


 必死に話そうとしている心に反して、体が反射的に私を殺そうとしている。そんな感じだろう。


「今、助けるから...!」


 ナイフを構える。


 マシンガンを持っていないのが不幸中の幸いだ。恐らく、道中で使い切ったのだろう。


 道中で使い切ったということは、実はもっと人を殺したということ。


 ダメだ。実をそっち側に行かせてはいけない。


「実」


 私も数歩踏み出し、間合に入った。


 私は昔から近接戦闘が苦手だ。ナイフで戦おうとしても毎回怪我をする。しかも、相手は実だ。強いし、勝ち目は無い。


 でも、銃はできるだけ取り出したくない。銃は一歩間違えれば殺してしまう。


 私のミッションは、実を救うこと。


 だから。


「死んでッ!!!」


 ヒステリックな声に反して、落ち着いた表情で実はナイフを振ってきた。


 私はそれに対処すべく、何とか回避行動に出る。


 ギリギリの回避が多い。長引くと死ぬ。


「お願い、戻って...!」


「戻る...戻る、戻る?何処に」


「本当の実に、そして私たちの元に」


「どうして?私はあなた達と初めましてですよ」


 話が通じない。記憶があの日以上に混濁している。私の名前を覚えていたのに、他人だと思ってしまっている。


もう闇に堕ち切っているのか。なら、私は実を救えるのか。


「死んでよ、ねえ!」


「実!!!お願い!!!そこにいるなら」


「うるさいッッッ!!!」


 怒声と共に振られたナイフが、私に向けて走ってきた。


 早い、避けきれない...!


「ッ!」


 肩口を切り裂かれる。


 そしてそれを機に、実は猛攻を仕掛けてきた。


 早くて鋭い銀閃が、あちこちを傷つける。何度戦っても慣れないし、対処出来ない。


「みの、り...!」


「死んで!私の...私のために...!!!」


 帰ってきてよ!


「実!私は実に、本当の実に伝えたいことがあるの!だから、戻って来て!!!」


「うるさい!あなたなんて知らないってば!」


 今度は脚が切られた。


 このままじゃ私の体が持たない。実を救えるなら、私は死んでも構わない。でも、ここで死んだら実を救えない。


 だから、私はここで死ねない。


 本当はやりたくなかったけど、やるしかない。


 ナイフの切り合いの間に、私は後ろに飛んで少し距離を置いた。


 実はついてくる。しかし、ナイフの間合に入られなければセーフだ。


「ごめん実、痛むよ」


 バンと大きな音が鳴り、実の腕から血が吹き出た。


「グッ...アアアアア!!!」


 腕を抑える実。その隙に私はもう1発、実の脚に銃弾を放つ。


 しかし、実は撃たれる前にその場を離れ、私との距離を縮めてきた。


 実はあくまでも近接戦闘を強要するつもりだ。でも、ここで近接戦闘を続けてしまえば、先にやられるのは私。


 距離を取りながら行くしかない。


 微妙な距離感を保ちつつ、銃弾を放つ。


「当たらない...!」


 実の動きが早くて、私の腕前でも当たらない。


「......」


 平気な顔をしながら実は銃弾を避け続ける。


 病院の柱やソファ等、あらゆるものを駆使して避ける。そして、少しでも隙が生じれば、一瞬で距離を詰めてくる。


 決定打がないまま、ひたすらに撃ち続けた。


「はぁ...はぁ...」


 まずい、あと2発だ。この2発を撃ったら、銃弾が無くなる。息も切れてきた。そろそろ限界だ。


 でも、実はまだ動けそうだ。


 どうする。


 思考を巡らせる。その時、曲がり角が正面に見えた。


「あれだ」


 銃を構える。当たらなくていい。時間を稼げれば十分だ。


 そして私は1発撃って、実に距離を取らせた。その隙に曲がり角を曲がってしゃがむ。


 待ち伏せで実を撃つ。虚を突けば、さしもの実でも避けられないだろう。


 深呼吸をする。


 1発だ。外しちゃいけないし、致命傷も負わせてはいけない。狙うは脚、または足首。とにかく動けなくさせるだけでいい。


 当てろ、そして殺すな。私は狙撃手だ。これくらいできて当然だ。


 足音が近づいてきた。


 もう直ぐ。


 あと3歩。


 2。


 1。


 ...今だ。


 瞬時に角から飛び出して銃を構えた。すぐ前には実の姿。


「!?」


 しかし、銃を構えていた。行動を読まれていたのだ。


「......」


 大きな銃声が鳴り響き、私の右頬を銃弾が掠める。私の銃弾も実の左腿を掠めた。


 何とか避けることはできたが、そのせいで照準がブレ、腿に当てることができなかった。


 その隙を突くように、実は距離を詰める。


「死んで」


 まだだ。諦めるわけにはいかない。


「みの」


 瞬間、腹部に強烈な痛みが走った。


 見ると、ナイフが深々と刺さっている。そしてそのまま、実はそのナイフを引き抜いた。


「......」


 声も出ずに、静かに吐血する。


 実は私を刺したナイフをマジマジと見つめ、髪の毛をぐしゃぐしゃと掻き回した。


「あれ、私は...?あれ...?」


 半狂乱になりながら涙を流す実。


 幸か不幸か、私に深手を負わせたことで、実の中のストッパーが作動したらしい。


 完全な正気、とまではいかなくとも、やったことの重さに気づいている時点で、少しの正気は取り戻せている。


「み...のり...」


 安心して。私は死なない。私が死んだら、またあなたは苦しんで悲しむ。


 それに、これ以上業を背負わせるわけにはいかない。


 この傷で実の正気を少しでも取り戻せたのなら、安いものだ。


「虚...?あれ、私は何を...?どうして...」


 正気と狂気が混濁し、実は頭を抱えた。過呼吸気味に声を漏らしている。


 今なら、実に話を聞いてもらえるかもしれない。


「実」


 痛む腹を抱えながら、私は実に話しかける。


「約束、覚えてる...?」


 聞いた瞬間、実は少し黙った後「知らない」と言った。


「実...?」


「知らない!!!約束なんて覚えてない!!!私は...私は...!!!」


 そう言うと、実は逃げ去るように走り出した。


「みの...ガハッ!」


 ああ、どうしてこうも上手くいかないのか。


 追いかけたいのに、追いかけられない。


 私はまた...また実を独りにさせるのか。また実に全てを背負わせてしまうのか。


 また約束を守れず、実に気持ちを伝えられずに行かせてしまうのか。


 意識が暗転していく。


 また、私は...。




 気づいた時には虚を刺していた。


 私は虚を刺した。


 なんてことないはずなのに、これまでやってきたはずなのに、その事実がやけに重くのしかかり、混濁した意識を突き破って来た。


 何で?これまで普通にやってきたことでしょ?今更悔いてもしょうがないことなのに、何でこんなに苦しいの?


「約束、覚えてる...?」


 それを聞いた瞬間、一気に記憶が入り込んできた。


 頭が痛い。呼吸が浅い。


「...知らない」


 知らない!約束なんてしてない!してないよ!してないしてないしてない!!!


「知らない!!!約束なんて覚えてない!!!私は...私は...!!!」


 そしていつの間にか走っていた。


 虚を刺した事実と、刺したのにも関わらず、尚も私に話しかける虚の優しい表情から逃げるために。


「覚えてない覚えてない!!!」


 叫びながら走る。


 あの情景を払拭するように走る。


 本当は覚えている。あの情景も、小指の温かさも、全部。


 私は本当に嘘吐きだ。


「ダメじゃねえか逃げちゃ」


「え」


 その声を聞いた瞬間、私の腿に激痛が走った。悶え伏していると、影が近づいてきているのがわかった。


 見上げると、その人は既に私の前に立っていた。


「こっちは忙しいんだ。手間かけさせるなよ」


「嘘...」


 野上風一郎は、つまらなさそうな顔をしながらナイフを取り出して私に向けた。


「来ないはずじゃ...」


「事情が変わったんだよ。それより」


 先輩は私の髪の毛を掴んで、顔を覗き込んだ。


「お前もういいわ。使えねえし、死ねよ」


 強引に手を離すと、ナイフを脚に突き立てた。


「アアアアア!!!」


 思わず悲鳴が出る。


「逃さねえからな」


 そう言うと今度は銃を取り出して、額に当てた。


 ああ、終わりか。ここでとうとう終わっちゃうのか。


 悟った瞬間、走馬灯のようにこれまでの記憶が流れ込んできた。


 シルバーのみんなと過ごせて楽しかったな。ゲームもしたし、バーテンにもなれた。外には出られなかったし、少しだけだったけど、それでも、良い思い出だった。


 でももういっか。嘘吐きな私にとっては、十分すぎるくらい楽しかったし、これで自由が手に入ると考えれば、それで。


「良い...よね」


 涙がボロボロとこぼれ落ちる。


 でもやっぱり。


「あばよ」


 指がトリガーを強く抑える。


「死にたくないよぉ!!!」


 銃声がなった。



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