第6話:一之瀬組
*不定期更新です。基本13時に更新してます。
早々に半グレをとっ捕まえた俺たちは、翌日になってとある場所へと向かっていた。俺たち、と言っても裕樹先輩と2人きりなのだが。
「今から行く場所って...」
「一之瀬組。ヤクザってやつだな」
「大丈夫なんですか?」
「大丈夫だよ。ってか、俺たちはあそこの組長に死ぬほど恩義があるんだよ」
恩義、か。
どんな恩義かはわからないが、俺からしたら恐怖の対象でしかない。
「着いたぞ」
ビビっていると、目の前に大きな屋敷のような家が建っていた。日本庭園みたいな屋敷だ。
先輩は門についてあるインターホンを押す。
「事務所って感じじゃないですね」
「ああ、事務所は隣。ここは組長の家だな」
そう言われて隣を見ると、長方形の小ちゃいビルが建っていた。
なるほど。あれ、じゃあ俺たちは今から組長に...?
考える暇もなく、門が開いた。
見ると、ザ・極道といった感じの強面の男が立っており「どうぞこちらに」と道を譲る。
「どうもー」
「あ、ありがががとうごごございます」
ビビるって!流石に怖いよこれは!
俺がビビっていると、隣の先輩が「ハハハ」と笑った。
「安心しろよ。この人たちは見かけによらずにいい人たちだ」
「そうだとしても怖いですよ...」
「お前はビビりすぎだな。ま、明日から訓練があるから、その性根も叩き直されるだろうよ」
「は?訓練?」
訓練とか聞いてないんですけど。ていうか、普通に怖いんですけど。
「こっちはお前の身柄を使って、クロウと接触しようとしてるだろ?なら、お前も最低限の戦力にならねえとダメだろ......ま、戦力不足を補うってのも理由だが...」
「はあ」
後半何か聞こえた気がしたが、聞かなかったことにしよう。
にしても戦力、か。
タダで家に住んでるんだし、飯も出る。しかも真実かわからないが、守ってもらってる。それを金の代わりとして戦力で返せるなら、ありなのか?
...金の方がいい気がするんだけど?
「お前もいつか、あんな風になってくれたらな」
そう言って裕樹先輩は目を横にそらした。
細い扉の隙間。その先には道場のような場所が広がっており、2人の人が木刀で戦っている。
1人は少し長めの白髪と白髭が生え、顔面には頬に深い切り傷の痕が見える高齢の男。もう1人はそれとは対照的に、黒く長い髪が特徴的な、若い女。
そんな2人が、素人目から見ても凄まじい剣戟を繰り出している。
「...すげぇ」
「行くぞ」
見惚れていた俺は、歩き始めた先輩の後を追うように、その場を去った。
そして、暫く歩くと大きな金色の襖の前にやってきた。襖の前には大きな強面の男が2人立っている。怖い。
「安藤裕樹さんですね。そちらは」
「俺の連れ。まー大丈夫だよ」
「承知しました。ではどうぞ」
2人の大男が襖を開けると、奥に1人の男が座っていた。
歳の頃は60歳ほどと見受けられる男。短い白髪と優しくも鋭い目。そして、右側の腕が肩口から丸々存在していない。中々に特徴的な人だ。
だがしかし、この人からは何かを感じる。
嫌な予感ではない。大きく強いオーラのようなもの。
「よく来た裕樹よ......そっちが朝霧大斗だな?」
貫禄のある姿に似つかわしいほどの、低く優しそうな声が響く。
「はい。一之瀬組長」
「は、初めまして、あ、朝霧大斗です...」
怖い、というより、気圧される。
「話には聞いている。お前がクロウとか言う組織に追われている男だな?普通の男子に思えるが」
「お、俺にもわからないんです」
「そうか。だが安心しろ。お前が美月の組織に入っているなら、我ら一之瀬組もお前を守る」
そう言うと、彼は立ち上がり、俺の方へと歩を進めた。
「私の名前は一之瀬亮吉。総出を上げてお前を守ろう」
差し出される手。
俺は彼らと関わりなどないし、正直、今でも関わることにビビっている。守られる筋合いも無い筈だ。でも、感じる。彼が居ることが、良い方向に進むような予感がする。
決意を固め、拳を解く。そして、大きく傷だらけの手に伸べる。
「こちらこそ、よろしくお願いします」
固い握手を交わす。
瞬間、何故か俺の体が宙に浮いた。
「へ?」
ズドンと背中に衝撃が走る。
え、なんで?なんでこんな?
痛さとわけわかんなさに、頭を抱えていると、一ノ瀬さんは俺の方を見て口を開いた。
「全然だな。私の娘に付き合って貰うか......ところで祐樹、あの若造たちだが」
「ああ、何か分かりましたか」
「吐いたぞ。隣の富岡町の路地で声をかけられて買ったらしい。フードを深く被っていたこともあって、誰かはわからないと言っていたがな」
「なるほど、冨岡町か...」
「富岡町ともなれば、十文字組も黙ってないだろうな。正体がバレるのも時間の問題だろう」
「そうですね。ありがとうございます」
なんか勝手に話が進んでるんだが。
俺は痛みに耐えながら、質問してみることにした。
「あ、あの、何の話ですか?」
恐る恐る手を挙げると、裕樹先輩が「あー」と言った。
「あの時の半グレたちの話だよ。あの後お前は帰したけど、俺と虚は、2人がかりで一之瀬組にあいつらを運んだんだ」
「何故ですか?」
「尋問のためだよ。中々に過激だからお前には帰ってもらった」
脳裏にエゲツない拷問の風景が思い浮かぶ。やっぱそういうところじゃねえか、ここは!
「じ、尋問って、流石に...」
「ま、普通の半グレならしないけどな。でもあいつらは持っちゃいけないものを持っていた」
あの頃を思い出す。そういえば...。
「銃...」
「そうだ。普通の半グレ連中が持っていいモノじゃない。誰かが売ったか、横流ししたか、だ。そしてそれをやった奴らが、クロウと関わりがあるかも知れない。だから、拷問してまで吐かせてもらったんだが......収穫はまだ無かったな。また、何かわかったら教えてください」
「ああ、そのつもりだ。それとあの時の輩のことなんだが...」
「な、何かわかったんですか」
「結局何も吐かずに死んだ」
「そう、ですか」
また何か俺の知らないことを話しているが、今度は重い雰囲気が漂っている。
「あの、あの時の輩って」
尋ねると、また裕樹先輩が口を開いた。
「お前を襲った奴らだよ。全員連れ帰って尋問したんだが、誰も吐かなかったってさ...くそっ」
先輩は吐き捨てるようにそう言うと、一ノ瀬さんに背中を向け「帰るぞ」と言った。
「じゃ、帰ります。また何かあったら教えてください」
「ああ、こちらも、頼らせてもらうぞ」
「はい、依頼ならご遠慮なく。それでは」
襖を開けて外に出る。
その後は特に会話もなく、門外まで歩いて行った。
「じゃ、俺は直接帰るから。お前は明日から頑張れよ。じゃな」
「はい、ありがとうございます」
時刻は18時。
先輩は夕日が照らす道を帰っていった。
今日は疲れた...。
今日あった出来事を思い返そう。
一之瀬亮吉さん、すごい人だったな。しかも、一之瀬組は俺を守ってくれるらしい。これは頼りになるぞ!
それに...あの木刀での戦い。あの2人は只者じゃ無かったし、何か、運命のようなものも感じた。大きな流れのような...。いや、考えてもわからん。
俺もあんな風になれるかな...。
強くなった俺を妄想しながら歩いていると、1人の男の肩とぶつかった。
「ご、ごめんなさ」
「ああ?」
金髪に染めた髪と、サングラスの隙間から覗く凶暴な三白眼。
こ、これは...。
「てめえどこ見て歩いてんだよ。あー肩いてぇわ。どうしてくれんの?」
「ひっ、す、すみませ」
「すみませんじゃねえよ。有金全部出せ」
男は俺の胸ぐらを掴みながら凄む。
「そ、それは...」
「あ?てめえに拒否権なんか無えんだよ。とっとと出せ」
「か、勘弁して下さい...!」
なんとか許しを乞うと、男は掴んでいた胸ぐらを離し「そうか」と言った。
「じゃあ、死ね」
「え」
眼前に迫り来る拳を最後に、俺の意識は闇に落ちた。
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