第59話:日暮の目標
*不定期更新です。基本13時に更新してます。
「あなたは、倉敷日暮だね」
目の前の仮面をつけた女はそう言った。
やはり名前は抑えられている。
というより、何だこの落ち着きよう。自分が警戒しているのがバカみたいだ。こいつから殺気とか、警戒心や敵対心みたいな、そういう攻撃的な感情が伝わってこない。
「そうだけど、あんたは?」
「私の名前は言えない。ただ、コードネームはルナ」
コードネーム。コードネーム、ルナ。
月、か。
そういえば、私たちにもコードネームあったな。でも、こいつらに知られてるようじゃ、コードネーム使ってもあんまり意味ないんだよね。
「あなた、戦う気はある?」
ルナはそう問うと、自らの手にグローブをはめた。
戦う気はある。当たり前だ。こいつは見るからに強い。こんな奴を大斗の病室に行かせるわけにはいかない。
「あるに決まってるでしょ。あんたはここで止める」
銃を取り出し、照星と照門を敵に合わせ、銃口を向ける。
「...わかった。じゃあ死んでも恨みっこなしだよ...!」
瞬間、消えた。
比喩ではない、本当だ。
数メートル離れていたのにも関わらず、もう目の前まで来ていたのだ。
早いとかいう次元じゃない。
人間の動きを超越している...!
「ハァ...!」
「マジかよ...!」
そこから無数の連撃が飛んでくる。ナイフ等の刃物や、武器になるものは一切持っていない。使われているのは全てルナの体だけだ。
「早すぎ...でしょ...っ!」
柔軟でアクロバティックな攻撃に対処しきれない。
ここまで柔軟に攻撃してくる人間は他に見たことがない。
普通の蹴りやパンチは勿論のこと、飛び蹴り、バク転、宙返り、肘打ち、関節技、足薙など、多彩な攻撃を仕掛けてくる。
しかも、厄介なことにその全てが早く、なおかつ無駄がない。
完璧な技の采配に、完璧なフォーム。無駄も無ければ隙もない。
打ち合いにすらなっていない。一方的だ。攻撃はおろか防衛にしか回れないし、防衛も崩壊状態。
この数分で分かったことがある。
間違いない。
...勝てない。
「ハッ...!」
「グッ...!」
強烈な後ろ回し蹴りにより、体が吹き飛ぶ。なんとかギリギリカードできたけど、もうすでに満身創痍だ。
「もうわかったでしょ。あなたは勝てない」
そんな私を見て、ルナは笑うでもなく、ただただ冷静にそう言い放った。
「勝てない相手に挑んでも意味は無い。ただただ命を浪費するだけの、愚かな行為。だからあなたも、シルバーとかいう組織も、命を無駄にしているんだよ。勝てっこない相手に牙を向けて、感情論だけで立ち上がって...世の中そんなに甘くはないんだ。漫画みたいな展開はない」
「あんたに...何がわかるの」
「わかるよ。世の中のほとんどの事象には、到底太刀打ちできない理不尽が一番強く作用している。それは、どんだけ頑張っても勝てない相手。あなたは...いや、あなたたちは、そんな理不尽を相手に戦ってるんだよ」
そう言う彼女の顔は見えなかったが、悲壮な雰囲気が漂っていた。
「そこをどいてくれたら、あなたにはこれ以上危害を加えない。そして、どいたらとっととシルバーなんて抜けて、普通の生活をすればいい。そうすればあなたは助かる」
沈黙の時が訪れる。
「...退かないし辞めない。どんなことがあっても絶対に。少なくとも、目標が達成されるまでは」
「目標?」
踏み込んでくるな、こいつ。
まあいいか。別に聞かれても問題はない。むしろ、こいつならもしかしたら、有益な情報を持っているかもしれない。
「私の妹を見つける。それが目標であり、シルバーを辞めない理由」
それを聞いたルナの反応は無だった。というより、顔が見えないせいでよくわからない。
「何か知ってる?」
「知らない。それより、そんな目標のために命を投げ打つなんておかしい。降参すれば私は何もしないから、そんな目標捨てて、早くここを通して」
知らない、か。
ならもういい。お話はここで終わりだ。私は何があっても退かない。
立ち向かうだけだ。
再び立ち上がってナイフを取り出すと、ルナは「はぁ」とため息を吐いた。
「命は大切にした方が良いよ」
「あんたら暗殺者に言われても、説得力無いわ」
銃は無理だ。ナイフで行く。
ナイフで行っても、十中八九勝ち目はない。ただ、こいつからは依然として殺気が無い。多分だけど、私を殺す気がないように見える。
だからと言って、敵を信頼するわけじゃない。
普通に殺してくるかもしれないし、大斗みたいな状態にされるかもしれない。戦闘というものは、そういうものだ。
信じるのは己のみ。
殺されそうになっても、殺されないように頑張るだけだ。
兎に角、一矢報いることさえできれば...!
「ルナ!!!」
気合一閃、私はルナの懐まで飛び込んだ。
当然のように、ルナはその身軽さを活かしてかわす。これまでの人生で培った戦闘技術を全て動員してナイフを繰り出すも、全てを避けられてしまう。
悔しい。どうしてこうも届かない...?
皆頑張っているのに、私だけ何もできないの...?
「そんなこと...!」
あっていいはずがない!!!
「ハアアアアアアア!!!」
雄叫びと共にナイフで薙いだ。
しかし。
「...残念だったね」
片腕で悠々と受け止められてしまった。
そしてそのまま、腹に強烈な打撃を加えられる。
体から力が抜け落ちる。
「いい加減わかったでしょ。勝てない相手には気合を入れようが勝てない。わかったなら、目を覚ましたらシルバーなんて組織抜けるんだね」
ルナの声が聞こえ、足元が見える。そしてそれらは遠ざかっていく。
目が霞んできた。ダメだ、行くな...!
まだ私は戦える!諦めるわけないはいかない!
「待...て...!」
意思に反して意識が闇に落ちていく。
諦めたら、仲間に置いていかれる。立ち上がらねば、目標が遠ざかっていく。だから、こんな場所で伏しているわけにはいかない。
それなのに、動かない。
ごめん、大斗。ごめん、みんな。ごめん。
段々と目の前が暗くなっていく。それはまるで時間が経過するように、徐々に太陽が落ちていく感じだ。
そしてとうとう訪れる。
とても暗くて冷たい。
「よ...る...」
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