第57話:ジョン
*不定期更新です。基本13時に更新してます。
「今の俺は、軍鶏だ!」
ナイフと銃を構える。
大丈夫だ、戦える。銃弾は掠めただけで大きな怪我はない。まあ、相手もそうだろうが。
「ハッハッハ!チキンやろうと思ったが、楽しめそうな男だ!手足が震えてるのは、武者震いってことにしといてやろう」
そう言うと、ジョンはマシンガンを捨て、メリケンサックを手に装着した。
「使わないのか」
聞く余裕があるわけではないが、ものすごく気になってしまったので質問した。
「良いのか?使っても」
「使わないでくれ」
即答すると、ジョンは豪快に笑った後、真顔で自分のメリケンサックを見つめた。
「俺はな、ホントは銃とかナイフとか使いたかねえんだよ。あんな簡単に殺せる武器使って、何が楽しいんだ?ケンカも殺し合いも、楽しまなきゃ損だろうが。だからこいつを使ってる。特段、楽しめそうな奴にはな」
ニヤリと笑うと、拳を固く握りしめた。
俺は銃を持ってる。あいつはメリケンサックだ。
勝てる。
でもなんだ、この不安感は。何でまだ震えてんだ、まだ怖がってんだ。
自信持て。他の奴らは必死に戦ってる。今やらなきゃいつやる...!
「やってやるよクソッタレ...!」
銃弾を1発2発と放つ。
この距離なら余裕で当てられる。遮蔽も無いし、相手は避けられない。
そして案の定、奴の体に命中した。
しかし、笑っている。
「痛え痛え!でもそんなんじゃあ殺せねえぞッッッッ!!!」
「ウッソだろ!?」
銃で撃たれたのに突っ込んできやがった!?撃たれてその速度、その動きは反則だろうが!
「知ってるか?銃で戦える有効範囲は精々最短で2、3mだ!この距離じゃあ、こっちの方が有利なんだよ!!!」
2、3mじゃねえだろ!?もっと遠いところから右ストレートが飛んできやがった。しかも、めちゃくちゃ早え!
「くっそ...!」
何とか頬を掠めた程度で済んだ。しかし、まだだ。まだ来る!
「ウオラアアアアアア!!!」
次から次へと拳が飛んでくる。一髪でもまともに食らえば最悪死ぬし、運が良くても意識が飛ぶレベルの拳だ。そんなのが、何発も間髪入れずに、爆速で飛んでくる。
無論、完璧に避け切るのは不可能だ。何度か掠ってる。
しかし、何とかまともな一撃はもらわずに済んでいる。
「おいおいおい!避けるだけじゃあ殺せねえぞお!!!」
こいつはこんなことを言う程の余裕がある。しかし、無理だ。早過ぎて反撃できない。ナイフを取り出すことすら不可能だ。
一旦脚へ攻撃しようとしたが、それも対処される。変幻自在で臨機応変、それでいて火力がバカにならない。
相当洗練された戦い方だ。
どうする?距離を取るか?そうしよう。距離取って一旦仕切り直さないとマジで死ぬ。
そして、距離を取ろうと一歩バックステップを踏む。
その瞬間、的確に俺の顔面を拳が捉えていた。
「......」
驚くことすらできない程の閃光のような一撃。これまでとは比べ物にならないほど、キレのいい一撃だった。
避けることはできた。しかし、これで終わりのはずがない。
「あばよ」
その言葉と共に、強烈な左拳のパンチが、腹部にめり込んだ。
「ガッ...」
血を吐き、後ろの壁まで吹き飛んだ。
これは、ヤバいな...。
口から血がダラダラと溢れる。
恐らく、今のパンチは内臓にまで響いた。激しい痛みと、吐血が止まらない。これは本格的に死ぬかもしれない。
「おいおい!もう終わりかよ?やっぱサンドラ以外はダメだな」
ジョンはゆっくりと近づき、力無い俺の頭をガシッと掴んで目を覗き込んだ。
「じゃあな、チキン」
右拳が大きく後退する。
終わりか。あの時も、俺と日暮は早々に退場し、そして死を実感した。
元から怖がりでチキンな俺は、その経験を通して、余計死を恐怖するようになってしまった。
だから、今のこの現状が怖い。生きたい。死にたくないと思ってしまう。覚悟のない半端者だと笑われようが、こればっかりは仕方ない。
出来ないもんは出来ない。そう感じている。
「だがな」
腕を掴む。
「お?」
だが、俺は幸運なことに仲間に恵まれ、その仲間が俺を信じてくれた。
信頼はこの社会で一番価値のあるもの。一番のキーアイテム。それを俺に託したのだ。
なら、恐怖に怯えようが、今から死ぬかもしれない状況に陥っていようが、諦めるわけにはいかない。
怖くても良いと言ったはずだ。今こそ俺の領分を発揮する時だろうが...!
今は掴んでる腕に集中しているはずだ。今ならいける...!
「抗わせてもらうぞ!!!」
掴んでる腕とは逆の手から、銃弾が発射され、見事奴の胸を貫いた。
先の銃弾が効いていなかったのは、効いてなかったのではなく、筋肉で止まっていてあまり効果がなかったからだろう。
筋肉で止まっているとはいえ、銃弾を受けてる時点で既に化け物だが、その化け物でも、皮が薄かったり、筋肉が薄い場所は致命傷になりうる。
よって鎖骨付近を的確に狙ったソレは、奴にダメージを与えることができた。
「やるじゃねえか、チキン」
それでもジョンは立っている。
鎖骨下静脈を断裂させたのにも関わらず、まだ楽しそうに笑っている。
「殺し合いだ!楽しもうぜえええ!!!」
そして突っ込んできた。
タフネスが半端ねえ。ここで止まってくれれば良かったのに...!このまま俺も戦い続ければ、タダじゃ済まなくなる。
だが、逃げるわけにもいかない!
ナイフを構え、もう一度肉弾戦へと垂れ込んだ。
「オラオラオラオラアアアアア!!!」
やはり早い。つーかなんだよこいつ!あの銃弾受けてまだこのポテンシャルを発揮するか!?
「グッ...!」
一方俺は先のダメージでふらふらだ。もう限界だ。
考えろ、裕樹。お前の得意分野だろ。
こいつの攻撃を分析しろ。急ぎ目に分析しろ...!
こいつの攻撃は早くて強い。でも、何故か完全とは言えないが、全て避けきれている。そして、バックステップで下がった時、これまでとは比にならない一撃を打ってきた。
何故だ...?距離を開ければ開けるほど強いのか?そんなゲームみたいなことあるか。
こいつを圧倒したサンドラさんはどうした...?
こいつとサンドラさん、そしてこいつと俺、何が違う?何ができる?
...そうだ。
「避けてばっかだぞおおおお!!!」
同じようなストレートが飛ぶ。しかし、その攻撃を俺は横回避で避けなかった。
下だ。下にしゃがむように避けた。
「なっ!?」
困惑している。
相手は手慣れ。通用するのはこれで最後だろう。一撃で決める...!
俺はナイフを逆手持ちで構え、しゃがみから勢いよくジャンプするように首元へ跳ねた。
追うように、奴の前蹴りが飛んでくる。
「オラアアアアアアアアアアア!!!」
「......!!!」
そして、勝敗が喫した。
「ガッハッ」
ジョンは、血を吐きながらその場に倒れた。
僅差で俺の方が早かったのだ。
「消えたな、今...あれ、どうやったんだ...?」
途切れ途切れに言うジョンを、俺は見下ろした。
「体格差だ。お前は筋肉量があって身長も高くてゴツい。それは強みだが、反面、そのせいで肉弾戦となると、俺たちの行動がうまく見えていない。身長が高くて筋肉もあるから、それが邪魔して見づらいんだろうな」
「なるほど、だから、俺から見にくい下方面に避けたんだな.....道理で消えて見えたわけだ」
下がった時の追撃にキレがあったのは、下がることにより、俺の姿がよく見えたからだろう。
サンドラさんなら、多分このことにすぐ気づいていただろう。だからこんな強敵相手に余裕で勝てたんだ。
「ま、ともあれ俺は負けだ。サンドラと戦えてねえのは悔しいが、まあそれ以外の悔いはねえな。最後にお前と戦えたしな」
「.....」
「お前、中々俺を楽しませてくれたし、死ぬ前にちょっとだけ良いこと教えてやるよ」
「良いこと...?」
聞き返すと、奴はポケットからタバコを取り出して、口に含んだ。
「朝霧大斗の容態は...まあどうせ死にかけてるだろ?」
そう言うと、煙を吐いて俺の目を見つめた。
「朝霧大斗は蘇る」
その言葉を聞いた瞬間、頭をよぎったのは疑問。
「確かに、植物状態は脳死と違って、目覚める可能性はあるが...何故お前らが言い切れる」
「それは、朝霧大斗のことをもっと調べれば分かる話だ。お前、情報屋だろ?」
大斗のこと。前に一度調べたが、実は不明な点が多い。しかし、いくら調べても出てこないし、解析が難しい。
ただ、こいつの言うことが正しいなら、もう一度本腰入れて探る必要がある。
「信じるかどうかはお前次第だが、俺らがしつこく追ってるのが、一応その証拠だったりするぜ」
確かに、動けないやつを確実に殺すというのは、少し用心深すぎる気もする。まあ、そういう組織という感じなだけかもしれんが。
「ま、調べていけば、その内色んなヤバいことに出会うだろうな。恐らく、この日本、いや世界の裏の顔を見ることになるかもしれん。そこら辺は俺も五十嵐も野上も知らないが、そんな気はしている」
日本?世界?話が大きいが、これも本当だったら...。
「おっと、そろそろ暗くなってきたな。もうおしまいだわ」
「おい!もうちょっと喋れ」
「今から死ぬやつに何言ってんだお前。死ぬときゃ死ぬんだ。俺もお前も、言いたいこと言って死ねるわけじゃねえんだよ」
そう言うと、奴はタバコの火を消し、赤黒い血を大量に吐いた。
「じゃあな裕樹。中々に痺れるバトルだった。あと、サンドラに伝えておいてくれ。『地獄でやり合おう』ってな」
そして、ジョンは息を引き取った。
正直、わからない。こいつが言っていたこと、大斗のことと、そして、もっと規模が大きな何か...。
俺は、俺たちは、その大きな何かに首を突っ込もうとしている。
「やめよう」
考えても無駄だ。今は一刻も早く、仲間の場所に行かないと。
そうして、俺は3階へ走っていった。
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