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ブラック&ホワイト  作者: 芋太郎
第1章:虚実編
57/80

第57話:ジョン

*不定期更新です。基本13時に更新してます。

「今の俺は、軍鶏だ!」


 ナイフと銃を構える。


 大丈夫だ、戦える。銃弾は掠めただけで大きな怪我はない。まあ、相手もそうだろうが。


「ハッハッハ!チキンやろうと思ったが、楽しめそうな男だ!手足が震えてるのは、武者震いってことにしといてやろう」


 そう言うと、ジョンはマシンガンを捨て、メリケンサックを手に装着した。


「使わないのか」


 聞く余裕があるわけではないが、ものすごく気になってしまったので質問した。


「良いのか?使っても」


「使わないでくれ」


 即答すると、ジョンは豪快に笑った後、真顔で自分のメリケンサックを見つめた。


「俺はな、ホントは銃とかナイフとか使いたかねえんだよ。あんな簡単に殺せる武器使って、何が楽しいんだ?ケンカも殺し合いも、楽しまなきゃ損だろうが。だからこいつを使ってる。特段、楽しめそうな奴にはな」


 ニヤリと笑うと、拳を固く握りしめた。


 俺は銃を持ってる。あいつはメリケンサックだ。


 勝てる。


 でもなんだ、この不安感は。何でまだ震えてんだ、まだ怖がってんだ。


 自信持て。他の奴らは必死に戦ってる。今やらなきゃいつやる...!


「やってやるよクソッタレ...!」


 銃弾を1発2発と放つ。


 この距離なら余裕で当てられる。遮蔽も無いし、相手は避けられない。


 そして案の定、奴の体に命中した。


 しかし、笑っている。


「痛え痛え!でもそんなんじゃあ殺せねえぞッッッッ!!!」


「ウッソだろ!?」


 銃で撃たれたのに突っ込んできやがった!?撃たれてその速度、その動きは反則だろうが!


「知ってるか?銃で戦える有効範囲は精々最短で2、3mだ!この距離じゃあ、こっちの方が有利なんだよ!!!」


 2、3mじゃねえだろ!?もっと遠いところから右ストレートが飛んできやがった。しかも、めちゃくちゃ早え!


「くっそ...!」


 何とか頬を掠めた程度で済んだ。しかし、まだだ。まだ来る!


「ウオラアアアアアア!!!」


 次から次へと拳が飛んでくる。一髪でもまともに食らえば最悪死ぬし、運が良くても意識が飛ぶレベルの拳だ。そんなのが、何発も間髪入れずに、爆速で飛んでくる。


 無論、完璧に避け切るのは不可能だ。何度か掠ってる。


 しかし、何とかまともな一撃はもらわずに済んでいる。


「おいおいおい!避けるだけじゃあ殺せねえぞお!!!」


 こいつはこんなことを言う程の余裕がある。しかし、無理だ。早過ぎて反撃できない。ナイフを取り出すことすら不可能だ。


 一旦脚へ攻撃しようとしたが、それも対処される。変幻自在で臨機応変、それでいて火力がバカにならない。


 相当洗練された戦い方だ。


 どうする?距離を取るか?そうしよう。距離取って一旦仕切り直さないとマジで死ぬ。


 そして、距離を取ろうと一歩バックステップを踏む。


 その瞬間、的確に俺の顔面を拳が捉えていた。


「......」


 驚くことすらできない程の閃光のような一撃。これまでとは比べ物にならないほど、キレのいい一撃だった。


 避けることはできた。しかし、これで終わりのはずがない。


「あばよ」


 その言葉と共に、強烈な左拳のパンチが、腹部にめり込んだ。


「ガッ...」


 血を吐き、後ろの壁まで吹き飛んだ。


 これは、ヤバいな...。


 口から血がダラダラと溢れる。


 恐らく、今のパンチは内臓にまで響いた。激しい痛みと、吐血が止まらない。これは本格的に死ぬかもしれない。


「おいおい!もう終わりかよ?やっぱサンドラ以外はダメだな」


 ジョンはゆっくりと近づき、力無い俺の頭をガシッと掴んで目を覗き込んだ。


「じゃあな、チキン」


 右拳が大きく後退する。


 終わりか。あの時も、俺と日暮は早々に退場し、そして死を実感した。


 元から怖がりでチキンな俺は、その経験を通して、余計死を恐怖するようになってしまった。


 だから、今のこの現状が怖い。生きたい。死にたくないと思ってしまう。覚悟のない半端者だと笑われようが、こればっかりは仕方ない。


 出来ないもんは出来ない。そう感じている。


「だがな」


 腕を掴む。


「お?」


 だが、俺は幸運なことに仲間に恵まれ、その仲間が俺を信じてくれた。


 信頼はこの社会で一番価値のあるもの。一番のキーアイテム。それを俺に託したのだ。


 なら、恐怖に怯えようが、今から死ぬかもしれない状況に陥っていようが、諦めるわけにはいかない。


 怖くても良いと言ったはずだ。今こそ俺の領分を発揮する時だろうが...!


 今は掴んでる腕に集中しているはずだ。今ならいける...!


「抗わせてもらうぞ!!!」


 掴んでる腕とは逆の手から、銃弾が発射され、見事奴の胸を貫いた。


 先の銃弾が効いていなかったのは、効いてなかったのではなく、筋肉で止まっていてあまり効果がなかったからだろう。


 筋肉で止まっているとはいえ、銃弾を受けてる時点で既に化け物だが、その化け物でも、皮が薄かったり、筋肉が薄い場所は致命傷になりうる。


 よって鎖骨付近を的確に狙ったソレは、奴にダメージを与えることができた。


「やるじゃねえか、チキン」


 それでもジョンは立っている。


 鎖骨下静脈を断裂させたのにも関わらず、まだ楽しそうに笑っている。


「殺し合いだ!楽しもうぜえええ!!!」


 そして突っ込んできた。


 タフネスが半端ねえ。ここで止まってくれれば良かったのに...!このまま俺も戦い続ければ、タダじゃ済まなくなる。


 だが、逃げるわけにもいかない!


 ナイフを構え、もう一度肉弾戦へと垂れ込んだ。


「オラオラオラオラアアアアア!!!」


 やはり早い。つーかなんだよこいつ!あの銃弾受けてまだこのポテンシャルを発揮するか!?


「グッ...!」


 一方俺は先のダメージでふらふらだ。もう限界だ。


 考えろ、裕樹。お前の得意分野だろ。


 こいつの攻撃を分析しろ。急ぎ目に分析しろ...!


 こいつの攻撃は早くて強い。でも、何故か完全とは言えないが、全て避けきれている。そして、バックステップで下がった時、これまでとは比にならない一撃を打ってきた。


 何故だ...?距離を開ければ開けるほど強いのか?そんなゲームみたいなことあるか。


 こいつを圧倒したサンドラさんはどうした...?


 こいつとサンドラさん、そしてこいつと俺、何が違う?何ができる?


 ...そうだ。


「避けてばっかだぞおおおお!!!」


 同じようなストレートが飛ぶ。しかし、その攻撃を俺は横回避で避けなかった。


 下だ。下にしゃがむように避けた。


「なっ!?」


 困惑している。


 相手は手慣れ。通用するのはこれで最後だろう。一撃で決める...!


 俺はナイフを逆手持ちで構え、しゃがみから勢いよくジャンプするように首元へ跳ねた。


 追うように、奴の前蹴りが飛んでくる。


「オラアアアアアアアアアアア!!!」


「......!!!」


 そして、勝敗が喫した。


「ガッハッ」


 ジョンは、血を吐きながらその場に倒れた。


 僅差で俺の方が早かったのだ。


「消えたな、今...あれ、どうやったんだ...?」


 途切れ途切れに言うジョンを、俺は見下ろした。


「体格差だ。お前は筋肉量があって身長も高くてゴツい。それは強みだが、反面、そのせいで肉弾戦となると、俺たちの行動がうまく見えていない。身長が高くて筋肉もあるから、それが邪魔して見づらいんだろうな」


「なるほど、だから、俺から見にくい下方面に避けたんだな.....道理で消えて見えたわけだ」


 下がった時の追撃にキレがあったのは、下がることにより、俺の姿がよく見えたからだろう。


 サンドラさんなら、多分このことにすぐ気づいていただろう。だからこんな強敵相手に余裕で勝てたんだ。


「ま、ともあれ俺は負けだ。サンドラと戦えてねえのは悔しいが、まあそれ以外の悔いはねえな。最後にお前と戦えたしな」


「.....」


「お前、中々俺を楽しませてくれたし、死ぬ前にちょっとだけ良いこと教えてやるよ」


「良いこと...?」


 聞き返すと、奴はポケットからタバコを取り出して、口に含んだ。


「朝霧大斗の容態は...まあどうせ死にかけてるだろ?」


 そう言うと、煙を吐いて俺の目を見つめた。


「朝霧大斗は蘇る」


 その言葉を聞いた瞬間、頭をよぎったのは疑問。


「確かに、植物状態は脳死と違って、目覚める可能性はあるが...何故お前らが言い切れる」


「それは、朝霧大斗のことをもっと調べれば分かる話だ。お前、情報屋だろ?」


 大斗のこと。前に一度調べたが、実は不明な点が多い。しかし、いくら調べても出てこないし、解析が難しい。


 ただ、こいつの言うことが正しいなら、もう一度本腰入れて探る必要がある。


「信じるかどうかはお前次第だが、俺らがしつこく追ってるのが、一応その証拠だったりするぜ」


 確かに、動けないやつを確実に殺すというのは、少し用心深すぎる気もする。まあ、そういう組織という感じなだけかもしれんが。


「ま、調べていけば、その内色んなヤバいことに出会うだろうな。恐らく、この日本、いや世界の裏の顔を見ることになるかもしれん。そこら辺は俺も五十嵐も野上も知らないが、そんな気はしている」


 日本?世界?話が大きいが、これも本当だったら...。


「おっと、そろそろ暗くなってきたな。もうおしまいだわ」


「おい!もうちょっと喋れ」


「今から死ぬやつに何言ってんだお前。死ぬときゃ死ぬんだ。俺もお前も、言いたいこと言って死ねるわけじゃねえんだよ」


 そう言うと、奴はタバコの火を消し、赤黒い血を大量に吐いた。


「じゃあな裕樹。中々に痺れるバトルだった。あと、サンドラに伝えておいてくれ。『地獄でやり合おう』ってな」


 そして、ジョンは息を引き取った。


 正直、わからない。こいつが言っていたこと、大斗のことと、そして、もっと規模が大きな何か...。


 俺は、俺たちは、その大きな何かに首を突っ込もうとしている。


「やめよう」


 考えても無駄だ。今は一刻も早く、仲間の場所に行かないと。


 そうして、俺は3階へ走っていった。



*面白いと思ったら、高評価していってくれると嬉しいです。

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