第56話:軍鶏
*不定期更新です。基本13時に更新してます。
「押さないでください!」
必死に呼びかけるも、パニックの人がそんな簡単に言うことは聞いてくれるわけがない。
そりゃそうだ。テロが自分のいる場所で起きていれば、誰でも落ち着けない。
「裕樹!そっち押してくれ!」
「はい!」
俺は虚と別れた後、サンドラさんと一緒に日本に来た傭兵のおっさんら2人と協力して、民間人の救助に当たっていた。この2人はサンドラさんから市民を避難させろと命令があったらしく、残りの3人は敵を叩く役をしているらしい。
「くそっ!人数多すぎだろ...!押さないでください!出口はあっちです!」
あいつらに協力できないと悔しがっていたが、こっちはこっちでめちゃくちゃに大変だ。人が多いし、パニック状態で全く動かない。この状態で、目の前から敵がマシンガンもって登場したら本当にヤバイ。
そんな事態になっていないのは、仲間のお陰だろう。そう思うと、やはり悔しさがにじみ出る。
「そっち!誘導頼む!」
「はい!」
俺のコードネームはチキンだ。雑魚相手なら何でもないが、こういう状況や、強敵を目の前にしたとき、どうしてもビビッてしまう。
だって怖いだろ?雑魚相手なら死ぬことはないだろうが、死ぬかもしれないんだぞ?自分だけじゃない。誰かが目の前で死ぬかもしれないんだぞ?
怖いに決まってる。現に今だって怖い。怖くて手が震えている。
虚が俺に民間人の誘導を任せたのは、多分この手の震えを見られたからだ。俺の性格をわかっているからだ。
無理してでも戦うな。そう言っているのだ。
悔しい。
皆がこぞって命張ってるのに、俺だけが命を張っていない。その状況が屈辱的だ。
だがそれよりも、そう思っているのに震えてしまうこの手が、声が一番恥ずかしくて、そんな女々しい心を持っているのが一番悔しい。一番屈辱的だ。
そんな気持ちを抱きながら誘導をしていると、中央階段から足音が聞こえてきた。
「よお!やってるかあ?」
あいつは...!
「ジョン...!」
「おうおう!中々に盛況してるじゃねえか!なんだ祭りか?」
やべえ。こんな状況でこいつにマシンガンぶっ放されたら終わる...!
「俺もよ、混ぜてくれよ!!!」
「くそがッ!!!」
中央階段の上を横切るように列が並んでいる。このまま撃たれれば、並んでる民間人の横腹が蜂の巣にされちまう!
何かねえか...!
考えている間に、ジョンは無情にもマシンガンを構えている。
「じゃあなあ!!!」
「皆さん伏せて!」
瞬間、マシンガンの発砲音が辺りに響き渡った。
並んでいた人たちは悲鳴を上げながら、その凶弾を避けんと体を地に伏せる。
しかし、人数が多すぎた。
いっぺんに伏せるなんて無理だ。焦っている状況じゃ尚更。そのせいで、何人かの人が撃たれてしまった。
「大丈夫ですか!?」
「アアアアア!!!」
叫び転がっている男性に近寄る。腕だ。腕を撃たれた。羽織っていたコートをナイフで切り裂いて、患部を止血する。
「おいおーい、何やってんだ?もしかして、人助けちゃったりしてる?俺と戦わねえとお前が死ぬぜ?」
止血作業の合間にも、ジョンは刻一刻と階段を登り、迫ってきていた。
まだ撃たれた人はいる。ただ、ここで階段を登り切られるとヤバい。さっきは階段下からの銃撃だったため最小限で済んだが、同じ高さで撃たれると一貫の終わりだ。
「早く戦おうぜぇ!!!」
足音が近づいてくる。マシンガンの弾を装填する音も聞こえる。
考えろ、裕樹!
虚から任されたのは民間人の救出。今の状況じゃとても無理だ。こいつがいる状況で、多数の避難者を救助できるはずがねえ。
大元のこいつを排除しないと無理だ。戦いに行くか?じゃあ怪我した人たちは?いや、これは傭兵の人たちがなんとかしてくれる。
なら、決まりだ。ジョンを倒す。いや、倒さなくてもいい。ただ、時間を稼げれば...!
「早くしねえと撃つぞー!」
声と共にジョンの頭頂部が映る。
行けるか...?
チキンの俺が、こいつに一歩踏み出せるか...?
いつの間にか手が震えていた。先ほどまでとは比べ物にならないほどだ。
怖い。相手はマシンガンを持っている。もう装填済みだ。
今あいつと相対すれば確実に死ぬ。距離を急激に詰めて撃つ暇を無くすしかない。それ以外は全て死。
失敗が直接的な死因になる。やらかせば終わりだ。怖くないはずない。
『リーダーいないから私が言うけど、これは任務だから。民間人を守るのは任務。裕樹が敵役で、裕樹にしか任せられない。ここにいる大勢の民間人を、その手で掴める分だけで良いから、救って見せて。これは大役だよ』
虚の言葉が不意に浮かんだ。
大役、か。そうだな。虚の言う通り大役だよ。大役になっちまったよ。
やれよ、裕樹。頼まれたこと1つできずして、何が何でも屋だ。仲間1人の想いを無碍にして、何がシルバーの一員だ。
手が震えていたって良い。天性のチキン野郎はそう簡単に治るもんじゃない。この人生がそれを証明してる。
ただ、震えていようが、握れるものはあるはずだ。銃とナイフ。後は動かせる脚さえあれば十分。
「もう時間切れだ!あばよ!チキン野郎!!!」
奴がマシンガンを構える。背後には複数の民間人。行くなら、ここだ!やれ!男の意地を見せろ...!
「うおおおおおおおおおおお!!!」
咆哮と共に奴の体にタックルを決める。
すると奴は「うおっ!?」と間抜けな声を出しながら体勢を崩した。そしてそのまま、背後にある階段に体が吸い込まれていく。もちろん、俺ごと一緒にだ。
「傭兵の皆さん!!!後は頼みます!!!」
重力と共に階段から転げ落ちる。その際、不運なことに奴はトリガーから指を離しておらず、マシンガンの弾は放たれたままだった。
お陰で銃が乱射され、跳弾やら何やらが辺りを飛び回り、体にぶち当たる。
「アガッ!?」
「グアアアアアアア!!!」
互いの体が、小口径の弾丸に曝され、瞬く間に血塗れになった。
そして少し広い踊り場で止まる頃には、打撲や銃による傷で、戦う前なのに戦った後のような様相になっていた。
互いに満身創痍だ。
「ハッハッハ!チキン野郎かと思ってたが、お前も中々楽しめるやつじゃねえか!サンドラが見つからなくて機嫌が悪かったんだが、良い対戦相手が見つかって良かったぜ!」
「脳筋野郎が...」
満身創痍とは思えねえテンション。戦闘狂という言葉がお似合いだ。
あっちはやる気満々。これは当たり前だがやるしかない。
マシンガンは先の転落で撃ち切ってる。今なら脅威は無い。
しかし、あちこちが痛むし、死を間近にして恐怖が拭えず、手足が震えてしまう。
ジョンはそれを見て、ゲラゲラと笑った。
「おいおい!ガクガク震えてんじゃねえか!俺は野郎には元から興味ねえが、チキン野郎にはもっと興味ねえんだ」
そう言うと、豪快な笑い声は消え、凍てつくような視線に変わった。
俺はそれを真正面に受ける。
怖い。当たり前だ。防衛本能が、逃げろと言っている。こいつは強いからワンチャン死ぬぞと言っている。
だが、逃げない。一度決めたことだ、逃げてたまるか。
俺はもう一度覚悟を決めると、奴の瞳を睨み返した。
「チキン野郎は否定しない。だがな、今回は種類が違う。ただの鶏だと思うな」
「ほう?」
俺はナイフと銃を体の前に差し出し、構えた。
「今の俺は、軍鶏だ!」
*面白いと思ったら、高評価していってくれると嬉しいです。
裕樹は軍鶏です。書いてて笑っちゃいました。




